なんでみんなそんなに優しいの?

 私の協調性は低い。とにかく低い。


 でも、そんな私を励ましてくれていた存在達がいた。




 中学三年生の頃の、クラス別大縄跳び大会の練習中。

生徒は特別な事情がない限り全員参加することになっていた。


 「あー、引っかかっちゃった!」

また誰かが縄に引っかかった。

 

 すぐ引っかかっている人もいる。

たまに引っかかっている人もいる。

引っかかってないのでは? と言う人もいる。


 それはそうだ、運動神経や、得手不得手はそれぞれバラバラ。

苦手な人だっている。


 だけど、誰かが引っ掛かるたびに、

「ドンマイ!」

と明るくみんなが言ってそれでその場は終わる。

 

 そんな空気が嫌だった。


 「真剣にやってない人にもそんな風に言うなんて」

私はそう思っていた。




 私は小学生時代、中学一、二年生時代、また部活で、人間関係であまり良い思いをして来なかったので、とにかくイラついていた。

不機嫌だったり、心を閉じ切っていたりしていた、とも言う。

自分だけ責められたり、差別されたりすることだって、時にはいじめだってあったからだ。


 私はいつも真剣に物事に取り組んでいたつもりだったのに、誰かがそれを邪魔する、そんなつもりでいた。


 また、誰かがすぐ縄に足を引っ掛けた。

クラスメイトのみんなはその人を明るく励ます。

「ドンマイ!」

 私だけは、そう言えずにいた。




 でも、ついにその時はやってきた。


 私は縄に足を引っ掛けてしまったのだ。


 どうしよう、どうしよう、そんなつもりなかったのに。

責められる、きっとみんな、私を責める。


 私は頭が混乱しかけた。その時。


 「ドンマイ!」


 そう声をかけられた。

反射的に見回すと、クラスメイト達は笑顔でいる。


 私はつい、目から涙が溢れそうになった。




 このクラスの人達は、優しくて、温かい人が多い。

そんなことにやっと気づいた瞬間だった。


 私が心を閉ざして、一人でいようとしても、放ってはくれない。

いつも誰かが、笑顔で話しかけてくれる、そんな教室だった。





 また誰かが、縄に足を引っ掛けた。

 

 私は今度からはみんなと息をあわせてこう言った。


「ドンマイ!」


 秋風が私の涙をいつの間にか乾かしていた。

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