道なりに逆方向へ行く。
「欲しい! 無条件で欲しい!! 欲しいんじゃ〜!!!」
その夏、どうしても欲しいTシャツがあった。
毎年夏の、その日一日ずっとやっているテレビ番組のチャリティーなTシャツ。
好きなアーティストさんがそのTシャツのデザインを担当していたので、どうしても欲しかったのだ。
ちなみにそのアーティストさんのTシャツは公式で普通に販売しているものを買ったら、1着一万円はする。
それが千円台で買えるものだから、これはチャンスだ! と思った。
精神疾患者としては、その番組には好感は持てないが、とにかくTシャツは欲しかった。
それは隣町のショッピングモールを構えるスーパーにて販売していた。
普段は家族の運転で車に乗って連れて行ってもらっていたが、家族が仕事のため連れて行けないとのことで自分で電車で行くことにした。
ちなみに母が家で留守を預かっていた。
「行ってきぇまーす!」
行ってきます、と言いたかった。
「行ってらっしゃい! 楽しんで行ってきてねー!」
母が明るい感じで、送り出してくれた。
さて、隣町のスーパー近くの駅に降り立ったぞ!!!
ということで、メモを取り出す。
『とにかく駅からスーパーの方に向かって歩けばすぐ着くよ!』
母が言った通りのことをそのまま、忘れないようにメモに書いて持ってきていたのだ。
何度も一人で行っているのに、毎回のように忘れていた。
『スーパーは駅から見えるよ!』
ふむふむ成る程、スーパーはあそこにあるから、そっちの方に向かって歩けば良いんだね!
私はスーパーに向かって歩き出した。
15分ほど歩いたかな。
ツタのヤ的な、本・CD・DVD・テレビゲーム等をレンタルや販売している店の前に着いた。
「あれ? ここはどこ? 私は純ちゃん!」
と思ったので、道を訊くためにスマホで母に電話をかける。
「あ、もしもし、お母さん? なんかスーパーじゃなくて、レンタルショップの方に着いたんだけど?」
「なんで!?」
間髪入れない、母からの返事。
母があまりにも驚いたように言うものだから、何事かと思ったので、よくよく話を聞いてみた。
「純ちゃん、道なりに逆方向に向かったんだね」
衝撃的だった。
「そんな環七……」
そんな馬鹿なと言いたかった。
そんなこんながあって、無事、Tシャツを買ってきて家に着いた。
リビングで買ってきたTシャツを広げながら、私は母に言った。
「よく言うよね、レールが敷かれた通りに歩く人生で良いの? って」
母は家事をしながら返事をした。
「うん、言うね」
「もし、レールを逆方向に歩いていたらどうなるのかなって思って」
母は渋い表情をして、こう答えた。
「分からないけど、でも人生は逆方向には行かないようにしようね……」
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