第8話 おもしろい

火曜夜、23時。


何ともおかしな話だ。


前回からの空白は、僕が死にたいと思わなかった期間を表すそれでは無い。今回で学んだ。いや、既に学んでいたはずだ。人は本当に死を身近に感じるほどの不幸を浴びた時、筆を執ることすら出来なくなってしまうのだ。


つまるところ、少し前まで僕は究極に死を考える程に苦しんでいた。裏を返せば、今は多少落ち着いている。それでも未だ解決せぬ出来事にじくじくと胸を痛めてはいるのだけれども。


今回ばかりは、自分の死ではなく、元凶の退場を望んでしまった。普通、僕のように死を選ぼうとしてしまう人は、感情の蟠りを他者に発散するのではなく、内側へ内側へと向けてしまうあまり、「死にたい」を孕んでしまう傾向にあるだろう。しかし、内側への感情の矢印がコアに到達して反転し、外側に漏れだしてしまう程には怒り憎しみが収まらなかった。それほどまでの出来事だった。


さすがに異常を感じたのか、数名「大丈夫?」をくれた人がいた。恥ずかしい、これじゃまるで機嫌で人をコントロールする“察してちゃん”じゃないか。でも、ありがとう。形式ばった言葉。けれど、自分へのベクトルを明確に感じられてほのかな精神安定剤となる。


語尾に付く「君が荒れるなんて珍しいな」という言葉に、やはり普段の自分の人物像と内面の乖離を感じつつも、僕はようやく筆を握れるまでになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る