第5話 あれ

22時25分、月曜日。

体温40.3℃。

ひどい熱だ。こんな高熱にうなされているのは子供以来かもしれない。


さすがに会社は休んだけれど、それでも午前中はほとんど普段通り働いていた。それもそのはず、僕の仕事はほとんど僕だけで行っている。あまりにもひどい属人化だ。そのため、体調を崩したところで事業は回り続ける。誰にも任せることはできない。休みの日だって電話は鳴り止まない。


こうなると、僕はあるゾーンに入るしかなくなるのだった。「俺がいなくなったらこの会社終わりっすからね!」という、会社の自分への依存を取り上げることで、必要とされているという実感を極限まで引き上げる。そうだな、これはクズ男にハマってしまう女性と似たような心理描写かもしれない。「私が世話してあげないと」「彼には私が必要」存外、そう思っている時はそう出ないことが多いのに。


俯瞰で見ると冷やかすことが出来た事象も、内側に入ると途端に思考を停止する。僕たち人間の、良くない癖だ。

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