閑話 家族のお話

荘園襲撃事件直後のお話です。




「ただいまー…」


「ナイルーっ!!」


ミーナが私の元に飛び込む。危うく倒れそうになったところをレナさんが支えてくれた。


「ああ、ごめんなさい!でもナイル大丈夫?どこも怪我してない!?」


それは今のことだろうか、それとも襲撃事件の噂を聞いての話だろうか。後ろではお母さんが涙ぐみ、お父さんは口をへの字にしてふるふる震えている。


「ん、大丈夫かな。それでは私はこれで失礼する。また明後日の明朝に伺います。もし外出される際はご連絡を。くれぐれも一人で出歩かないよう。」


私はお礼を述べてレナさんと別れる。彼女も今日は自宅に帰るのだろう。ドニエプルさんは一足先に帰っているはずだ。そして改めて家族の元に振り向くと3人が声を合わせて迎えてくれた。



「とりあえず…「「お帰りなさいナイル。」」」



選考会の日、荘園の襲撃から3日が経っていた。その間、私は自宅に帰ることはできず城の来賓室に泊まっていた。議堂での生活は側付きさんのお陰もあって何不自由ない生活だった。ほんと側付きさんって凄い…


その後、みんなで夕食を一緒に食べる。議堂で出されるご飯は豪勢でとても美味しいものだったけれど、数日ぶりに家族で食べるお母さんの食事は格別だった。


さすがに今日は魔法の訓練はいいだろう。それに今後、試してみたいことは、ここの庭では狭すぎる。私はその時間を家族と共に過ごす時間に当てた。話題の中心は私のこの3日間のことだ。


「それで、事件があってから次の日からはどうしてたの?」


「王様に私とパラナさんが名誉を称えてくれて、なんだかんだで軍部の特別派遣顧問って役にされちゃった。」


「…なに、そのとくべつはけんこもんって?」


「えぇ!?」


お父さんが大声を上げる。


「なんかイスモイルさんって人の推薦もあって(本当は副団長の策略だろうけど)軍部での調達品の審査と訓練の指南をしてって頼まれて、ウチの商会ですることになったの。」


「まてまてまて、つまりあれか…ナイルが俺の上司になるのか…?」


門などにつく衛士も部署は違うし編成も違うけれど軍部の管轄下の組織になる。つまりそうなるのかな…


「いや、でもウチの商会で請け負うだけで、私はそのまとめ役的なものだし、それにあくまでも『派遣』で軍属じゃないよ?」


「イスモイル様って軍部長のことだろう?話したことは無いが門を通る時は栄誉礼が必要な相手だぞ。」


そっか、あのおじさんも一応偉い人なんだった。ただの声と身体の大きい人じゃなかった。


「そんなに怖い人じゃないよ。ちょっと叱る…じゃなくて小言を言ったらションボリしてたし…」


「叱った…軍部長官をか!?」


あー…まずい。このあたりの話題はお父さんの矜持やらなんやらに触れちゃいそう…私は話題を変えるためにすかさすその後の話をする。



当日はその後は何もなかった。まだ事の収集にみんな忙しくて、王様も議員さんたちと今後の対策などで協議があったからだ。私は工員たちや勾留されている人たちの元にいって足りない物や困っていることが無いかなど聞いて周っていた。


2日目はウィリュイさんやイスモイルさんと修道処の人たちも含めて今後の調整について話した。ドニエプルさんも同席してくれた。


3日目の午前中には開放されたけれど私は直接ホシノ商会に向かった。留守中の様子を留守

番係だったラカポシさんに聞くと、その後に工員のみんなを集めて商会の今後について話をした。どう考えても1日で話がまとまる訳もなく、とりあえず今日は解散、明日を休日として明後日から続きということで一旦話は終わる。


そして今やっと家に帰ってこれた。


「つまりナイルの商会って国専属の商会になっちゃったの?」


「んー…あくまで私達は他の商会と軍部との繋ぎ役って感じかな。確かにやり方次第でウチだけで独占もできるだろうけどそれじゃあ他の商会から不満がでちゃうもんね。それにお国の依頼はあくまで事業の一つだし。」


「なんか難しいね…あ、でもそれってナイルが『こういうのを作りなさい!』って言えるんだ?」


まぁそうなるのかな…だからと言って変なことはできないし、基本的に持ってこられた件の審査をして助言する形だ。それで良いものなら国に採用を提案する。こちらからアレを「作れ」とか、「作るな」なんてことは言わない。


「うーん、助言をするくらいかな。こう作った方がいいですよーとかそんな感じ。」


「そっかー…でも凄いよね。持ってくる人たちってみんな大人で大きい商会の人たちなんだよね?そんな人たちがナイルに教えてもらうなんて…」


「なんだかナイルはいつの間にか俺らの解らない世界までいっちゃったなぁ…」


そう言ってお父さんとミーナは寂しそうにする。私は慌てて「そんなことないよ」と言おうとした。するとお母さんが私より早く口にする。


「関係ないですよ。ナイルはナイル。ウチの末っ子で甘えん坊、ちょっと身体が弱い…最近は少し強くなったみたいだけど…うちの大事な大事な娘です。」


お父さんとミーナはハッとした。


「そうだよな。ナイルがどんなに偉くなろうが大っきくなろうがそれでも俺の娘だ。」


「うん、ナイルは何があっても私の大事な妹だよ。それが一番大事なんだから。」


お母さんの一言で私やお父さん、ミーナの戸惑いも一瞬で吹き飛ぶ。やっぱりウチで一番強いのはお母さんだった。

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