第17話
僕とリサと吟遊詩人のみんなはアールさんの後をついていき、クランの会議室に入る。
会議室には円卓があり、そこには各職業の代表者がダンジョンに入るための装備に身を包み座っていた。
「アール、誰が噂の遊び人だ」
「うちのリサの隣の子かい? 少し前からクランの訓練所で騒ぎの中心に居たのを何度か見かけたね」
いかにも前衛職と言った顔に傷がある筋骨隆々の男性と、リサと同じ様に動きやすい服装をした女性がアールさんに話しかけてくる。
二人の問いにアールさんが僕の方を見る。
「プレイさん、簡単に自己紹介を」
アールさんに言われ僕は一歩前に出る。
「はじめまして、遊び人のプレイと言います。先日、新しいスキルを覚えて今回アールさんに呼ばれました」
僕は緊張しながらなんとか自己紹介をする。
「本当に遊び人が俺らと一緒にダンジョンにはいれるのか?」
その言葉に僕はびくりと体を震わす。
確かに僕は今までダンジョンの勉強は、クランの中でも誰にも負けないくらい勉強してきた。
でも、僕は今まで一度もダンジョンに入ったことが無い。
そんな僕の不安を見透かされたんじゃないかと不安になる。
そんな僕を見たのかアールさんが円卓に座り口を開く。
「彼はこの中で誰よりも速く動けます。しかも知識にいたっては私をも超えてクラン一だと私は考えています。さらに彼は我々の知らない二つ目のスキルを覚えました」
「「⁉」」
アールさんの言葉に会議室の空気が変わる。
「ほう、それは面白いな……一体どんなスキルだ?」
「それは私から説明しましょう」
顔に傷のある男性がスキルに興味を持ち質問してくると、自分のそばに楽器を立てていた男性が手を上げる。
「彼のスキルについてうちの部下達が大騒ぎをしていたので……プレイさん。私は吟遊詩人の代表です。あなたに代わってスキルの説明をしても?」
「は、はい! よろしくお願いします!」
吟遊詩人の代表と聞き、僕が説明するよりも代表の方に説明をしてもらった方が良いと考えた僕がそう言うと、男性は立ち上がり僕の代わりに≪替え歌≫の説明をする。
「良いじゃねぇか! こいつを連れて行くだけで、向こうの吟遊詩人達と連携すれば、大幅な戦力の増強が見込める!」
≪替え歌≫の説明をうけて、顔に傷のある男性は嬉しそうに言うが、話に待ったをかける人がいた。
「待ちな≪替え歌≫のスキルはわかった。でも、ここの誰よりも速く動けるという話しの説明がされていないね」
そう言ったのは、僕達が会議室に入ってすぐに顔に傷のある男性と僕の事をアールさんに問いかけた女性。
彼女はこの中で誰よりも速く動けると言った言葉が納得できないのか僕を睨みつけている。
すると、今度はリサが声を上げる。
「師匠! プレイのスキルの説明は何度もしたじゃないですか!」
リサがそう言うと師匠と呼ばれた女性は、ヤレヤレと言った表情で話しはじめる。
「リサ……あんたの説明はいつも興奮していて説明が無茶苦茶だったよ。あなたは気づいていなかったけど、あなたの説明をうけた他の仲間は苦笑いをしていよ」
リサは僕が新しいスキルを覚えた事を誰よりも喜んでくれた。でも、興奮気味のリサの説明が無茶苦茶だったのは容易に想像できる。
「えっ……そうだったんですか」
師匠に言われリサは、叱られた子犬の様に小さくなってしまう。
そんなリサにアールさんが声をかける。
「リサさん、プレイさんの≪おにごっこ≫の説明は私がしますね」
「アールさん……お願いします」
アールさんはリサに代わって僕のスキルの説明をする。
アールさんの説明が進むにつれてリサの師匠は目を大きく目を見開いていく。
そして、アールさんの説明がおわるとリサの師匠が口をひらく。
「プレイ、あんたはうちの部署に来な。あんたのスキルの説明が本当なら、あんたの知識と合わせればこのクランの中で一番の斥候だ」
リサの師匠がそう言うと、先ほど僕に代わって≪替え歌≫の説明をしてくれた吟遊詩人の男性が声をあげる。
「待ってください! 彼は我々の部署に来るべきです! 彼がいれば我々の歌の効果は増大します。それはクラン全体の戦力アップです!」
「それならあの子が斥候になれば、ダンジョンを進むスピードと安全性が増す。それはクラン全体の安全性が増すのと一緒だよ」
斥候と吟遊詩人の代表が僕の取り合いをはじめてしまい、僕は唖然とする。
「お二人とも現状を思い出してください。今、プレイさんの所属先を決める時ではありません。私達はこれからダンジョンに潜らなければならないのです!」
言い争いをしていた斥候と吟遊詩人の代表は、アールさんに言われ現状を思い出したのかそれ以上何も言わずに席につく。
「でも本当に彼の知識がアール以上なら、今回彼にはリサと一緒に私と一緒に先頭を走ってもらうよ」
「はい、目的地にたどりつくまでは私もそう思っています。ですがその後、戦闘がある場合は彼は吟遊詩人と一緒にサポートに回ってもらいます。彼の有用性は今しがた取り合いをしたあなたなら十分にわかっていますよね?」
「ええ、それでいい」
「私もそれで構いません」
アールさんの言葉に二人の代表が返事をする。
「では本題に戻ります。プレイさんとリサさんに吟遊詩人の方達がいるので、もう一度現状の説明からはじめます。今ダンジョンに入っている人達から救援を求める連絡がはいりました。彼等は目標の階層までダンジョンを降り、その調査をおえて地上に帰る途中で何者かの襲われている様です。我々はその何者から地上に帰ろうとする彼等を助けに行きます」
「待ってください! 今助けを求めている彼等の冒険者ランクの平均は幾つなんですか⁉」
僕はアールさんの言葉を聞き思わず質問する。
「彼等の平均ランクはBランク。調査に向かった先も彼等であれば、危険も少ないと思われる階層でした。ですがそんな彼等を襲う
アールさんの言葉に腑に落ちない点がある、アールさんのような人が襲うものと表現することはおかしい。ダンジョンで襲って来るなら魔物のはず。
「彼等を襲う
僕の質問でリサや吟遊詩人のみんなが僕が何を言いたいか理解する。
「ええ、彼等を襲う
「「⁉」」
僕は絞り出す様に質問する。
「相手に自分の姿を悟らせない相手なんて、暗殺者か……」
「ええ、プレイさんの想像通り。暗殺者か冒険者だと思われます」
僕とリサ、吟遊詩人のみんなは息を飲む。
僕が先に暗殺者の事を言ったのは、その可能性が低いため。
もし仮に本気で誰かを暗殺なんてするなら、僕なら魔物や罠がある不確定要素の多いダンジョンで目標を攻撃するなんてありえない。
さらに冒険者同士がダンジョンで揉めることは良くあるけど、クランの本拠地に救援要請をするほど大きな問題になる事はほぼない。
そんな大事になるなんていったい何が……?
僕がそう考えているとアールさんが僕に問いかける。
「なのでプレイさん、私はあなたに一緒に来てもらいたいですが、これは通常のダンジョンの探索とは違います。だから、あなたには断ってもらってもかまいません。どうしますか?」
人と戦うのは嫌だけど……今いるメンバーはエルドラドの各部署の代表者達。そんな人達と一緒にダンジョンに潜るなんて二度とないかもしれない。
「いきます! 一緒に行かせてください!」
「ええ、よろしくお願いします。それに人の可能性が高いと言いましたが、魔物の可能性がないわけではありません。その魔物研究の知識を我々に貸してください」
「はい!」
僕がアールさんに返事をすると、リサとシング達吟遊詩人のみんなもそれぞれ、師匠や代表と話し終わったのか僕の元にやってくる。
「プレイとはじめてのダンジョンワクワクする♪」
「でも、リサは良いの? 人と戦うのかもしれないんだよ。怖くない?」
「うん! 大丈夫師匠や他の代表のみなさんもいるし。何よりもプレイがはじめてダンジョンに入る時は私も一緒に入るって決めていたしね!」
リサがそう言って嬉しそうにする中、吟遊詩人のみんなの表情は暗かった。
そんな彼等を代表してかシングが話しはじめる。
「プレイさん、リサさん。私達は一緒にはいけません。皆さんの進行スピードに私達はついていけないので……私達は後から他のみなさんとプレさん達を追います。二人とも絶対に追いつくので気をつけてください!」
そう言ってシングは僕とリサの手を取りギュッと握る。
「へぇ~、プレイはうちのリサだけでなく。エルフの新人にも手をだしているのかい?」
「し、師匠手を出すって⁉ プレイとはそんなんじゃ……」
リサは師匠に反論するけど声がどんどん小さくなっていく。そんなリサを見てリサの師匠はリサのお尻を勢いよく叩く。
パーン!
「リサ! いい男はしっかり捕まえておくんだよ! じゃないと横からかっさわれるかもしれないよ!」
そう言ってその場を離れていくリサの師匠そんな彼女と入れ替わるように吟遊詩人の代表がやって来る。
「プレイさんさっきはお見苦しい所をお見せしました。我々の部署での事考えておいてください。さぁ、あなた達は後から追いつく部隊に合流してください」
「「はい! わかりました」」
吟遊詩人の代表の言葉にシングと吟遊詩人のみんな部屋を出る。
それを見送るとアールさんが話しかけてくる。
「では、プレイさんはリサさんと一緒に斥候をお願いしますね。我々はすでに準備はできています。プレイさんも準備をお願いします」
「はい! すぐに準備して来ます!」
「あ、待ちなさいプレイさん!」
僕が自分の部屋に戻ろうとするとアールさんに呼び止められる。
アールさんは僕を呼び止めると小さなバックを渡してくる。
「これは何ですか?」
「マジックバックです。こんな大きさですが中は広くなっていてかなりの物が入ります。今回は特殊な事例でダンジョンに入ります。プレイさんが必要と思うものは何でも入れてください。きっと全部入ると思いもいます」
「こんな高価な物を……ありがたくお借りします!」
僕はアールさんにお礼を言って自分の部屋に向かった。
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