第16話


 シングと僕の歌の検証を行った次の日、僕は訓練所で歌を歌っていた。


「すごいな、プレイの歌を聞いているとすぐに体力が回復する」


 前衛職のクランの仲間が訓練をしながら思わず呟くと、他の冒険者も口を開き僕の方を向く。


「いやいや、それだけじゃない。俺達みたいな魔法を主軸にする冒険者からすれば、少しづつ魔力まで回復がするんなてありえない話だ。シングが前線に入るだけで今までの作戦が書き換わる」

「そうなのか? 俺は魔力に関してはあまりわからないがお前が言うのなら間違いないだろう……はやく一緒にダンジョンに潜りたいもんだ」


 そんな声があちらこちらから聞こえてくると僕は、今まで面と向かって褒められた事がないから照れくさくなる。

 そんな風に思っていると、隣にいたリサが嬉しそうに言ってくる。


「よかったねシング。みんながはやく一緒にプレイとダンジョンに入りたいって言ってる」


 リサは僕が褒められると自分の事の様に喜んでくれる。


「うん……僕も早くみんなとダンジョンに入りたい」

「うんうん♪」


 僕とリサがそんな話をしていると、訓練所に吟遊詩人の仲間がやってくる。


「げっ……本当にいた。プレイは休めって言われているのに……」

「ふふっ。プレイさんにしたらあれで休んでいるつもりなんですよきっと」

「あはははは。耳が痛いや。でも、シングの言葉の通りなんだ」


 シングと吟遊詩人のみんなの言葉に思わず苦笑いする。


「ったく。なら俺達も少しだけ訓練するか」


 そういって吟遊詩人のみんなはそれぞれ自分の楽器を手にもつ。


「シング、さっきの歌を続けるのか?」

「うん、体力と魔力が少しづつ回復するからね。これでも自分の疲れや傷も癒せるから……きっとアールさんも納得してくれるはず……」

「「はぁ……」」


 うっ……みんながため息をついた後、僕を見る目はそれはないだろうと言っている。


 しばらくの沈黙の後、みんな諦めたのか楽器を手に持ち呼吸をそろえて演奏をはじめる。

 僕もそれにのって歌を歌う。


 すると、訓練をしていた他のみんなが声を上げる。


「おおっ! 本当に歌の効果が上がった! さっきよりも体力が回復するぞ!」

「これなら、結構な頻度で魔法が撃てるぞ!」


 その声を聞き、休憩をしていた他の仲間も立ち上がり訓練を再開する。


 僕達は歌の効果を確かめながら演奏を続けているとお昼になり、程よい所で昼食にしようと演奏をやめて楽器の後片付けをはじめた。


「しかし、プレイは楽器もできるんだな」


 仲間の一人の言葉にみんながうんうんと頷く。


「遊び人の僕に何かできる事はないかと思って色んなことを試してみたんだ……」

「どんなけマジメなんだ……」


 その言葉に再びみんながうんうんと頷く中、シングが不思議そうに質問する。


「でも、プレイさんが遊び人ってわかったのって数年前ですよね? そんなに沢山の楽器や知識を覚える事ができるのでしょうか?」

「たしかに……いくら才能があるって言っても習得するにはある程度の時間はいるし本当にどうなってるんだ?」


 そんな言葉にみんなの視線が僕に集まると、リサがそう言えばと思い出したことを口にする。


「たしかプレイが以前に本とか一度読んだらすぐに覚えれるって言ってたけど……あれってもしかして本の知識だけじゃなくて、実は楽器や戦闘方法も?」

「はぁ? 本を一度読んだだけで覚える? そんな馬鹿な話があるのかプレイ?」


 リサの言葉だけど、本当にそんな事ができるのかとみんなが僕を見る。


「う、うん。本は一度読めばだいたい内容は頭の中に入るから、それを他の知識と結びつけるのが面白くて……戦い方や楽器なんかも数日頑張ればある程度の事は出来る様になるかな……ってどうしたのみんな?」


 突然みんなの動きが止まったから何だろうとみんなを見ると、みんなポカンと口をあけていた。


「その数日頑張ってさっきみたいに楽器が弾けるように?」


 仲間の絞り出す様に言った言葉に僕は黙って頷く。


「ありえないだろう⁉」

「みんな自分の楽器を扱えるようになるのに何年もかかっているのよ?」

「ああ、そうだ。みんな好きな楽器を練習し続けて、吟遊詩人の職業を貰えたってわかった時にどれほど安心したか⁉」

「それを数日で……」


 吟遊詩人のみんなが唖然とする中、リサが声を上げる。


「でもプレイが貰えた職業は遊び人だったんだよ? それでも腐らずにそこから色んな事を勉強し続けたプレイを私はすごいと思う。みんなはどう思う?」


 リサの言葉にみんながはっとする。


「あっ……そうだよな、俺なら遊び人てわかった時点で色んな事を諦めていたと思う……すまんプレイ」

「私もプレイの立場だったら吟遊詩人の夢を諦めていたと思う」

「プレイは遊び人ってわかってから色んな事を勉強したんだよな……すごいと思う」

「「プレイごめん」」


 みんなが一斉に頭を下げてくる。

 なんて言えばいいんだろう……。

 少し申し訳ない気持ちもあるけど、ここで謝ったらみんなに失礼だよね……。


「みんな気にしないで。遊び人の僕でもダンジョンに入れる事になったし……それにこれからは、みんなと行動を一緒にする事も増えるはず、だからよろしくお願いします」


 僕がそう言って頭をさげると、みんなの顔が明るくなる。


「ああ、プレイのおかげでみんなで歌えるんだよろしく頼む」

「よろしくねプレイ」


 僕は吟遊詩人のみんなと握手をした後、クランの食堂に向かい昼食をとった。






「はぁ、美味しかった。みんなはこの後はどうするの? 僕はまた訓練所に行こうと思うんだけど」


 僕がそう言うと、吟遊詩人のみんなは顔を見合わせると真剣な顔をして口を開いた。


「プレイ、これからはダンジョンに入った時はプレイも歌を歌い続ける事になるかもしれない。いや、きっとなるだろう。だから喉のためにもきちんと休みを取っていつでも歌えるようにしておかないといけない。だから昼から喉のためにも歌う事はやめておけ。これは先輩吟遊詩人のアドバイスだ」


 他の吟遊詩人のみんなもうんうんと頷く。

 そこで僕はあることを思い出しカバンから袋を取り出す。


「うん、僕もそう思ってこれを」

「なんだこれ? 飴か?」

「うん、僕も長く歌う事になると思ってこれを作ったんだ。良かったらなめてみて」


 そう言って袋を渡すと、みんなは不思議そうに飴を取り出しなめはじめる。


「うお、喉の痛みが一瞬で引いたぞ!」

「私も一瞬で喉が潤った! 歌を歌った後は酷い乾燥が残るのに!」


 吟遊詩人のみんなはしばらくの間、飴の事を夢中になって話していたけど急に僕の方を向いて口を開く。


「「プレイ! これはどこで売ってる(の)⁉」」

「いや、これは僕の手作りで……」

「レシピは⁉」


 僕は苦笑いしながら自分の頭を指す。


「この飴を今後定期的に売ってくれ!」

「いや、レシピだけでもいいわ! お金を払うから教えて!」

「いえ、もうアールさん経由でクランに報告して量産してもらうように言ってます」

「「えっ⁉」」


 僕がそう言うとみんな腕を組んで眉間にしわをあつめる。

 その内の一人がぼそりと呟く。


「先輩風をふかせて偉そうに休む様に言ったけど、恥ずかしくなってきた……」

「そうね、プレイは歌の効果があるとわかって、ここ数日でこの飴を作ったのよね……」


 吟遊詩人のみんなが暗くなっていくのを見て、どうしようかと思っているとシングが明るい様子で口を開く。


「みなさん、何を落ち込んでいるんですか? 私達吟遊詩人にプレイさんと言う心強い味方ができたと喜ぶところですよ?」


 シングがそう言うと吟遊詩人のみんなも表情が明るくなる。


「たしかに、シングは遊び人だけど、これからは一緒に歌う仲間なんだったな……」

「そうよね、これからはシングのスキルでみんなで歌うときは人が多ければ多いほどいいのよね」

「はい、これからは僕も一緒に歌う事が増えると思うのでどうか仲間と思ってください」


 僕がそう言うと吟遊詩人のみんなは席を立ちながら言う。


「プレイの飴もあるなら、もう少しだけ歌ってもいいな」

「そうねプレイ。私達もつき合うから一緒に歌おっか」

「でも、喉の事も考えて少しだけにしましょう」

「はい!」


 そう言って僕達が再び訓練所に行こうとすると、食堂にアールさんが駆け込んでくる。


「プレイさんとリサさんはいますか⁉」

「はい! ここに居ます!」

「はい! 僕もいます!」

「絶対安静の中、申し訳ないですが一緒に来て頂けますか?」


 普段は口を酸っぱくして僕に休みを取るように言うアールさんが、こんな事を言うなんて余程の緊急事態なんだろう。

 リサもそう思ったのか僕と視線が合うと黙って頷くと返事をする。


「「はい!」」

「では一緒に来てください」


 そう言ってアールさんが食堂を出ようとすると、シングが声を上げる。


「私も何かお手伝いできることはありますか?」


 その言葉にアールさんはすっと目を細めて返事をする。


「今、プレイさんに求めるのは≪おにごっこ≫のスキルです」

「あっ……すいません、ついさっきまで一緒に歌を歌っていたので何か力になれるかと思って」


 冷たく言い放ったアールさんの言葉にシングは落ち込んだ様子で答える。


「ですが本音を言えばあなた達吟遊詩人の力もお借りしたいのですが、かなりの危険を伴います。話を聞いて辞退することもできます。一緒に話をききますか?」

「「もちろんです!」」


 アールさんの言葉にシング以外の吟遊詩人が歌うように声をそろえる。


「では、私についてきてください」


 僕とリサはそのやり取りを見て、顔を見合わせると笑顔で頷き、みんなと一緒に食堂をでた。



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