第15話 1月21日修正
「プレイさんあなたはいつもいつも……」
アールさんはそう言って握った拳を振るわせていた
今、僕達はクランの訓練所から同じクラン建物内にある鍛冶場に来てい新しいスキル≪替え歌≫の検証をしていた。
僕の新しいスキルを覚えたという発言から、訓練所での検証はシングの歌から僕の新しいスキル≪替え歌≫になった。
僕達が検証をはじめてすぐに≪替え歌≫のスキルは本来、吟遊詩人達が歌っている歌詞を変えることで効果が変化する事がわかった。
吟遊詩人達の歌は、そのほとんどが勇者や聖女など世界に数人、または一人しかいない職業の人が成し遂げた偉大な史実を歌ったもの。
そして、その影ではこれまであまたの吟遊詩人達が新たな歌の作成に挑戦したが、世界中の、人が知っているような史実しか効果が得られないのか
だけど僕の新しいスキル≪替え歌≫はそんな吟遊詩人達の努力をあざ笑うかのように新しい効果を持つ歌を
それは、吟遊詩人の仲間が遊び人の僕に嫉妬を覚えるほどに。
だけど、その効果を計測するとその嫉妬もすぐに消え去った。
「たしかに、プレイの≪替え歌≫は効果があるけど……」
そう僕のスキル≪替え歌≫で歌った歌には確かに様々な効果があったけど、その効果はどれもこれも微々たるものだった。
仲間の吟遊詩人達は、効果のほど知りほっと胸をなでおろす。
それは、自分達の存在意義がなくならなかった安堵から。
仲間の吟遊詩人達が落ち着いたのを見て、僕もほっと胸をなでおろす。
僕の歌でみんなの存在意義を奪わなくてなくてよかった。
僕はあくまでも遊び人、そんな僕が吟遊詩人のみんなが歌っても効果がない僕だけの歌を持つなんて……あってはならない。
≪替え歌≫なんてみんなと
そう思ったところで僕は自分の心の中で何か引っかかりを感じる。
ん? 何か引っかかる……。
なんだろう?
自分で思った事だけど、何か違和感が……。
そんな中、難しい顔をして唸っていたシングが僕に言う。
「プレイさんもう一度歌ってもらってもいいですか?」
「う、うん」
シングに言われるまま僕は歌いはじめる。すると僕の替え歌をシングが
すると効果の計測をしていた仲間が顔を上げてぽつりと言う。
「なぁ、今少しだが効果が上がらなかったか?」
「何を馬鹿な事を……吟遊詩人の歌は一人で歌おうが複数で歌おうが効果は同じだろ? だから吟遊詩人のみんなは交代で歌を歌い続けるんだ」
「だよなぁ……」
効果が上がるはずないと言った彼は計測機に視線を落とす。
だが、仲間を否定した彼が計測器を持ったまま僕とシングの後を追うように替え歌を歌いはじめる。
突然計測器を持った仲間が歌を歌いはじめた事に気づいたみんなが彼に視線を向ける。
「ん? なんであいつ計測器を持ったまま歌いはじめたんだ?」
みんなが不思議そうに見る中、彼は歌いながら計測器を見て目をむいている。
彼の様子に他の仲間が声をかけようとした時、かれは歌うのをやめ大声で叫ぶ。
「一緒に歌ったら、効果があがった!」
二人以外の計測器を持った仲間は、計測器の故障か、何かの見間違いだろうと、あきれた様子で計測器を見る。だが、正しかったのは二人の言葉。
「「えっ⁉」」
計測器を見て驚いた彼等は、互いに自分達の計測器を見てそれが間違いでない事を確認する。
そして一緒に歌う事で≪替え歌≫は効果が上がるとわかり、彼等は騒ぎはじめる。
「こんなことがあるのか⁉」
「計測器の故障じゃないのか?」
「全部同時にか⁉ それこそありえない!」
そう言って彼等は次々と一緒に歌いはじめる。
そして、他の仲間が一緒に歌っていくのを見ながら、計測器を見ていた最後の仲間が声を上げる。
「や、やっぱり。う、歌う人数が多くなるほど効果が上がる!」
彼がそう言った瞬間、今度は吟遊詩人の仲間が彼の計測機を奪い取り、歌いはじめると吟遊詩人の仲間の表情はすぐに彼等と同じ物になる。
僕とシングが歌いはじめた替え歌を訓練所にいた仲間が次々に歌いはじめる。
そして、その歌を歌いながらも計測器を持った吟遊詩人の仲間は、その変化を一つも見逃すまいと真剣な表情で歌を歌いきった。
吟遊詩人のみんなは計測器を返すと、全員が僕の方にやって来ると紙とペンを手渡しくる。
「プレイ! すぐに思いつく限りの替え歌歌詞を書いてくれ! もちろん元の曲名と!」
「すぐに歌詞を覚える! そして、次に俺達がダンジョンに入る時は俺達と一緒にダンジョンに入ってくれ!」
「え、えっと。あの……」
吟遊詩人の仲間の様子に僕がしどろもどろになっていると、僕の肩をつかむ人がいた。
僕が思わず振り返ると、そこにはアールさんがいた。
「プレイさん。お休み中もうしわけありませんが、もう少し検証につき合ってください」
「わ、わかりました」
休みの僕にお願いをするなんてアールさんにしては珍しいと思いつつも、アールさんの様子に僕は頷く事しかできなかった。
僕の返事を聞くとアールさんは訓練所を出て、同じクランの建物内にある鍛冶場に向かう。
鍛冶場の扉の前に着くとアールさんは勢いよく扉を開け中に入っていく。
鍛冶場には驚いた様子のクランの仲間と、鍛冶場の仲間を束ねる親方がいた。
「アール。一体なんだ? 乱暴に扉を開けたかと思ったらぞろぞろと人を連れて来て。見学か何かか?」
アールさんが鍛冶場に入ると、親方がアールさんに気づき、大きな金槌を肩に乗せたまま尋ねてくる。
「すいません、私達のことは気にせず鍛冶を続けてください」
アールさんがそう言うも本来鍛冶場にいないクランの面々がぞろぞろと入って来ては、鍛冶場のみんなも顔を見合わせて困惑する。
そんな様子を見たアールさんも仕方がないといった表情で、鍛冶場の親方のそばに行くとそっと耳打ちをする。
耳打ちをされた親方は、はじめこそ目を見開いて驚いた表情をしたがすぐにニヤリと笑い叫ぶ。
「おい! お前ら仕事の続きだ! 今日は吟遊詩人の仲間が俺達がいつも歌っている歌を勉強するために来たらしい! いつも通り歌うぞ!」
「「おす!」」
そういって鍜治場の面々はすぐに集中しなおすと自分達の作業を再開して、金槌を振りながら歌を歌い始める。
それは鍛冶に関わる者なら誰もが歌う歌で、吟遊詩人達がよく歌う勇者が魔王を倒す歌の歌詞を変えたもの。
本来の歌詞を吟遊詩人達が歌うと、聞いた者の勇気を奮い立たせ、身体能力を向上させる。
その歌を鍛冶場で働く者達は歌詞をかえ、歌いながら作業をする。
しばらくの間歌を聞いたところでアールさんが僕に声をかける。
「プレイさんこの歌詞はご存じですか?」
「はい、知ってます。以前に鍜治の勉強をしに来た時に聞いた歌です」
「あなたは、鍛冶場の勉強もしているのですか? まったく、あなたと言う人は……まぁ、今はそのことは置いておきましょう。歌詞は頭に入ってますか?」
「はい」
「では、一緒に歌ってみてください」
「はい」
僕はアールさんに言われるままに鍜治場の面々の後を追って歌を歌う。
「よそ見すんな! 集中しろ!」
僕の声に驚いた鍜治場のみんなが一瞬、僕の方を向きそうになるが、親方が声を上げる。
僕はこのままで良いのかとアールさんの方をチラリと見ると、アールさんは計測器を持ったクランの仲間と視線を合わせて頷いている。
そして、そのままアールさんが吟遊詩人の仲間の方に視線を向けると、今度は吟遊詩人の仲間が頷き歌を歌いはじめる。すると、すぐにその効果があらわれはじめる。
「全員の音が変わりやがった……」
呟いたのは親方。
親方が言ったように、僕達が歌を歌いはじめると、素人の僕でもわかるくらいに鍜治場に響く音ががらりと変わった。
今までの音と違い金属を叩く音が澄んだものとなり、僕が歌いながら親方の方をチラリと見ると親方は興味深そうに鍛冶場の様子を見ながらわずかに口角を上げていた。
僕達がそのまましばらくの間歌を歌っていると、唐突に金槌の音がピタリと止まる。
それは歌詞が丁度おわるところで、鍛冶をするみんなの声が揃った。
「「終わった」」
その言葉に驚いたのは、その言葉を呟いた本人達。
彼等は自分達の声が揃ったことに驚き、周りを見渡すと鍛冶場の誰もが金槌を置いていた事に気づきさらに驚く。
鍛冶場のみんなが何が起こったのかと驚いていると、突然大きな笑い声が響き渡る。
「がーっはっはっはっは! すげーな! こんな効果があるなら鍛冶場でずっと歌って欲しいくらいだ!」
「「親方?」」
親方の言葉に作業をおえた鍛冶場のみんなが声を揃えると、親方は僕達の≪替え歌≫の説明をする。
それまで何故急にいつもより良い仕事ができたかのわからなかった鍛冶場のみんなは、親方から僕のスキルの話を聞くとすぐに騒ぎはじめる。
「つまりプレイがここで歌ってくれれば、いつもさっきの様な仕事ができるのか……」
「でもプレイも研究室での自分の仕事があるよね……」
そんな風にみんなに言ってもらって嬉しくなった僕は思わず言ってしまう。
「あ、普段の日は無理ですが、僕が休みの日であれば来れると思います!」
僕がそう言うと鍛冶場のみんなの表情が明るくなるが、僕の後ろを見るとさっと視線をそらす。
それに気づいた僕はなんだろうと思い、後ろへ振り返る。
するとそこには……。
「プレイさん。あなたはいつもいつも……」
そう言って握った拳を震わせるアールさんがいた。
「あ、なたと言う人は……休みの日はきちんと休みなさい! と言っても今日は私があなたに頼んだのでここまできていますし、小言はやめておきます。ですが残りの二日間は絶対安静ですからね。寝て過ごせとは言いませんがきちんと休んでください」
そう言うとアールさんは鍛冶場の親方の元へ歩いて行く。
僕がアールさんの背中を見ていると入れ替わるようにシングが僕の元にやって来る。
「やっぱり、プレイさんのスキルはみんなと遊ぶ事がきっかけになっているので、一緒に歌う人が増えれば効果が上がりましたね」
「もしかして、シングはそれを見越して一緒に歌ってくれたの?」
僕がそう聞くととシングは満面の笑みを浮かべ返事をする。
「はい♪ プレイさんのスキルの効果があんなに小さな効果で収まるはずがないと思って」
それは過大評価なんじゃなかと思っていたけど、素直にお礼をいっておく。
「ありがとう」
「それは私のセリフです。私を助けてくれてありがとうございました」
シングの笑顔を見て僕は顔が熱くなり、それ以上何も言えなかくなってしまった。
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