第14話
朝、僕は元気に研究室のドアを開ける。
ガチャ!
「みんなおはよう!」
「「プレイは絶対安静!」」
ガチャン!
ドアをしめられた……。
「ぶっ! ダメだ! もう我慢できない! あはははは!」
僕がドアを閉められると、後ろで見ていたリサは笑い堪えきれず噴き出す。
僕はジト目でリサに振り返る。
「リサ知っていたの?」
僕がそう言うと、リサは笑いすぎて目尻にためた涙を服の袖で拭って言う。
「いや、知らなかったよ。でも、抜け目のないアールさんの事だから少し予想はしていたかな?」
「確かにアールさんが何事にも抜け目がないのは、僕も知ってる……でも! 少しくらい研究室に入るくらい良くない⁉」
僕が思わずそう言うとリサはまじめな顔をして口を開く。
「いや、きっとプレイの事だから研究室で興味のあることを見つけたら、そのまま仕事をしそうだからね」
「それは仕事じゃなくて僕の趣味なんだけど……」
僕の言葉を聞き、リサはヤレヤレと言った様子で説明をはじめる。
「もう、プレイったら……私やアールさんが言ったでしょう。みんなプレイは何時休んでいるだって言ってるって。プレイの中では仕事じゃないかもしれないけど、みんなはそうは思わないからね。もし、みんながプレイだけ働かせすぎだって思ったらどうするの?」
「うっ……そ、それは……」
リサの言葉に僕は何も言えなくなって押し黙る。
そんな僕をみたリサは笑顔になって続ける。
「私は知ってるよ。プレイが真面目な遊び人で仕事も遊びの様にしてるって。でも、プレイと付き合いの長い私ですら少し前まで心配になるくらいだったんだよ? プレイと研究室で一緒に研究している仲間が心配するのは仕方ないよね」
リサの話を聞いて、今までの僕の行動を客観的に考える。
「……うん、僕が悪かった」
僕がそう言って降参と言った様子で両手を上げるとリサはうんうんと頷く。
「そこで妥協案なんだけど、今日はシングの様子を見に行かない?」
「そう言えば昨日入団試験に合格したって言ってたけど今日は何をしているの?」
「訓練所で歌の検証。シングが知っているエルフの歌の効果をアールさんが調べるって言ってた……ってプレイ?」
えっ何その面白そうな検証⁉ こうしちゃいられない訓練所に急がないと!
まだ、朝も早いし検証をはじめから見れるよね!
「リサ! はやく訓練所にいくよ!」
「ちょっとプレイ! 今スキル使ったでしょう! 全体安静なんだからね! ねぇ、聞いてる?」
エルフの歌と僕達が知っている歌で効果は違うんだろうか?
同じ歌を歌ってもエルフのシングが歌う方が効果が高いのかな?
だめだ……色んな事を調べたくなる。
「リサ! 置いてくよ⁉」
「ちょっ待ってプレイ!」
ダメだ調べたい事があふれ出てくる。訓練所までってこんな長かったっけ?
シングの歌を聞きたい! 検証を見たい! 調べたい! 調べたい! 調べたい!
あれだ! あれが訓練所の扉だ!
「訓練所についた!」
僕はシングの歌への興味を抑えきれずドアを勢いよく開ける。
すると、目と鼻の先に笑顔でこみかみに青筋を浮かべるアールさんがいた。
「あっ! ……アールさんおはようございます。今日もいい天気ですね。絶好の検証日和です……」
「ちょっと待ってプレイ! 今は絶対安静なんだよ! ってアールさん⁉ ……おはようございます」
僕に追いついたリサもアールさんに気づくと語尾が弱くなっていく。
「二人とも何か忘れていませんか?」
「いえ、忘れていません! 絶対安静ですよね?」
「馬鹿プレイ! ちょっと黙って! ひっ!」
一瞬アールさんは視線をリサに向けるが、すぐに僕の方に視線をもどす。
「忘れていないなら……なおさら質が悪い! リサさん! あなたもです! 何故、私があなたに指示をだしたかお忘れですか⁉」
「「すいません」」
僕とリサはアールさんに深々と頭を下げる。
僕は頭を上げるタイミングが見つからず、しばらくの間頭を下げていると頭の上からアールさんのため息が聞こえる。
「はぁ、それで足に問題はありませんか?」
「は、はい! 問題ありません!」
「私が追い付けないくらいです!」
リサそれを今言っちゃだめ⁉
「リサの馬鹿!」
僕がそう言ってリサの方を向くとリサもしまったと言った表情をする。
ああ、もう気づくのが遅いよリサ……。
僕が恐る恐る視線だけをアールさんの方に向けると、アールさんの顔から表情が消えている。
だめだ、今まで一番怒っている。
「リサ冗談だよね⁉」
再び視線をリサに向けるとリサもハッとした表情で僕に同意する。
「そうです! 遊び人のプレイをまねした冗談です!」
するとアールさんは顎に手を当て口を開く。
「なるほど、冗談ですか。今のは驚かされました。二人とも冗談は時と場合を選びなさい」
アールさんの言葉に僕とリサはほっと胸をなでおろす。
「と私が言うと思っているのですか⁉ 訓練所にも二人の声が聞こえていました! 大声で走りながら来たのでしょう⁉ 声の近づくスピードが馬鹿げていると訓練所にいるみなさんが驚いていましたよ! いい大人がそんな馬鹿な嘘をつくんじゃありません!」
「「すいませんでしたー!」」
僕とリサはその場で土下座する。
「本当にプレイさんは休みを軽く見過ぎですね……これは本当に考えを改めてもらわないとだめですね……罰をあたえましょうか……本当は今日の検証をプレイさんも気になると思って声をかけようと思っていたのですが……それも考えないといけませんね」
そんな……こんな面白そうな検証が見れないなんて死刑宣告だ。
僕は思わず土下座したまま顔だけアールさんの方に向けると、アールさんは僕の顔を見てびくりと体を震わす。
「うっ……まるで死刑宣告を受けたような表情ですね。いいでしょうそんな表情になるなら十分に反省したと考えましょう。それにプレイさんの意見も聞きたかった所です。二人とも立ってください。二人を怒って検証開始の時間を過ぎてしまいました。大人しく見ていて下さい」
「「わかりました!」」
そして待ちに待った検証がはじまった。
「プレイ。シングの声すごい綺麗だね」
「うん、酒場で聞いた時よりもすごいね」
まずはじめは、エルフのシングの歌の効果は、普通の吟遊詩人の歌と同じ効果なのか調べている。
だけど、すぐにエルフのシングの歌は特別なものだと発覚する。
「歌詞が違う?」
僕が思わず呟いた言葉に周りにいたクランの仲間も頷く。
しかも、同じ効果の歌なのに普通の吟遊詩人の歌の効果と重複する。
「これは、嬉しい誤算ですね。素晴らしいですよシングさん」
シングの歌の効果に興奮するクランの仲間、アールさんも例外ではなかったようで少し興奮した様につぶやく。
「でも面白いね。同じ効果の歌でも少し歌詞が違うだけで効果が重複するなんて。普通は歌を何人で歌っても効果は重複する事はないのに……歌詞がちがうから?」
僕がそう呟くとアールさんとクランの吟遊詩人の仲間がやって来る。
「いえ、吟遊詩人の歌は歌詞が違うとその効果を発揮しません。ですよね?」
アールさんが吟遊詩人の仲間にそう言って視線を向けると、クランの仲間が口を開く。
「俺達だって同じ歌だけ歌ってて良いと思っているわけじゃない。だが、吟遊詩人の歌のレパートリーはここ数百年変わっていない。俺達吟遊詩人はその間、今ある歌のレパートリーを守って来たんだ」
そこで僕はふと思いついたことを口にする。
「エルフもかな?」
そこでアールさんとクランの吟遊詩人の仲間はハッとする。
「シングさん、あなたの知っている歌のレパートリーを教えてください!」
クランの仲間にかこまれているシングに向かってアールさんが叫ぶ。
そして、発覚したのはエルフの吟遊詩人のシングが知る歌のレパートリーは、僕達が知る数の倍以上もあった。
「これは、吟遊人の間で語り継がれてきた歌の出所はエルフなんじゃないのかな?」
僕がそう言ったのはエルフのレパートリーでも効果が低くほとんど歌われないものが普通の吟遊詩人に語り継がれていたため。
「そんな……でもどうしてエルフは他のレパートリーを俺達他の種族の吟遊詩人に教えてくれなかったんだ。もし俺達にそれを教えてくれていれば救われた命があったはずなのに」
クランの仲間が思わず悔しそうにこぼす。
「いや、シングを責めているわけじゃないんだ」
クランの仲間が悲しそう顔のシングの顔に気づきあわてて弁解する。
みんなが理由を考える僕の中である一つの考えが頭をよぎる。
そのヒントは先日の酒場でのこと……。
「もしかして、エルフが歌う音域を歌えなかったり、聞こえなかったりして断念せざる得なかった?」
僕の言葉でクランの吟遊詩人だけでなくシングもはっとする。
「「それだ!」」
そこからみんなで話しあった結果。吟遊詩人の歌の出所はエルフで昔の吟遊詩人達はエルフから教えられた歌を全て聞くことができなかったと推測した。
「だが、この推測が事実だとしたら。幅広い音域を持つエルフでないと歌のレパートリーが狭まると言う事か……」
クランの仲間の吟遊詩人たちは、変えられない事実に落ち込む。
それはまるで自分の職業が遊び人とわかった時の僕の様であった。
そんな空気を換えようと僕はある歌を歌う。
それは子供なら誰もが知っている、吟遊詩人の歌の歌詞を変えた物。
それは吟遊詩人の歌の様に効果があるわけではないが、明るい歌で子供の頃みんなが口ずさんだ歌。
僕が歌いはじめると吟遊詩人の仲間を慰める様にみんな次々と歌い出す。
最後には訓練所にいたクランの仲間全員で歌を歌った。
その時であった。
(吟遊詩人と一緒に遊んで歌を歌いました。スキル替え歌をおぼえました)
「えっ⁉」
歌の最中にも関わらず、スキルの声に混乱した僕は思わず声を上げてしまい皆が僕に注目する。
そんな中、僕の様子がおかしい事にきづいたアールさんが僕にたずねてくる。
「プレイさんもしかして何か新しいスキルを覚えたのですか?」
「「⁉」」
みんなが僕の言葉を固唾を飲んで待つ。
「あ、あの。新しいスキル≪替え歌≫をおぼえました……」
「「なにー⁉」」
「プレイさんそれはどんなスキルですか⁉ すぐに使ってください」
そう言って他の仲間を押しのけ僕に詰め寄ったのはシングだった。
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