第12話
「ではこのカエルを≪おにごっこ≫の対象に選んでください」
僕はアールさんに言われるままにカエルを≪おにごっこ≫の対象にえらぶ。
(カエルを対象に鬼ごっこを開始しますか?)
はい。
「アールさんカエルを対象に≪おにごっこ≫を開始しました」
そう言うとアールさんは厳しい目になる。
「わかりました……」
そう言うとアールさんは持っていたナイフでカエルを傷つける。
「「……」」
僕はしばらくの間、ペナルティーが発生してやって来ると思われる痛みをじっと待つ。
だけどその痛みは5分経過しても発生することはなく、ついた傷から血を流し続けたカエルはしんでしまう。
カエルが死んでしまうとスキルの声が聞こえる。
(≪おにごっこ≫の対象者が死んでしまいました。≪おにごっこ≫は自動的に解除されます)
「あっ……」
「プレイさんどうしました?」
おにごっこが解除され、思わずこぼした声にアールさんが反応する。
「カエルが死んで≪おにごっこ≫が解除されました」
僕の言葉を聞いたクランのみんなや治療師の人達が声をかけてくる。
「プレイ! 大丈夫か⁉ どこか痛い所はないか⁉」
「痛みを我慢していませんか?」
「みなさんありがとうございます。特に痛みはありません」
「と言う事は、対象者が死んでも特にペナルティーは発生しないと言う事でしょうか?」
「はい、たぶんそうだと思います」
僕がそう言うと皆が興奮したようで口々に話しはじめる。
「と言う事は……階層ボスを≪おにごっこ≫の対象にしたまま倒しても問題ないって……ことか?」
皆が息を飲み僕の方を見る。
はじめは、ペナルティーが発生すると考えていたけど……それが無いとわかった途端、僕の心にも喜びがふつふつと湧いてくる。
「やったなプレイ!」
「英雄の誕生だ!」
「俺達は歴史的瞬間に立ち会ったんだ!」
「プレイさんにケガがなくて本当によかった!」
クランのみんなや治療師の人達が喜びに沸く。
「み、みんな! あ、ありがとう……ございます!」
僕はみんなに向かって頭を下げる。
そうしなければ涙でぐしゃぐしゃになった情けない顔をさらしてしまう。
「うぅう……ぐすっ……うわ⁉」
僕がこらえきれず声を漏らしはじめると、突然顔を両手ではさまれ上体を引きこされる。
「おめでとうプレイ!」
僕が顔を無理やり上げさせられると、そこには僕に負けないぐらい涙を流すリサがいた。
「リ、リサなんでここに?」
涙を流しながら僕が驚いた顔をしていると、リサが袖で涙をぬぐって話しはじめる。
「プレイが心配だったに決まってでしょう! うわ~ん! 本当によかった!」
僕以上に涙を流しはじめたリサに僕は抱きしめられる。
「僕より……リサの方が……喜んでるじゃないか……でも、あ、ありがとうリサ。もしリサが一緒に声をかけてくれなかったら……僕は……僕は……ここに……居なかったと、思う」
思わずリサを抱きしめ返す。
「リサ……ありがとう……うわ~ん」
僕はリサと抱き合って涙を流す姿をみんなに見られているのを忘れて、しばらくの間泣き続けた。
それからしばらくして、僕も徐々に落ち着いてくるとリサが小さな声で僕に話しかけてくる。
「プレイ……そろそろはなれようか……」
「あっ! ごめんリサ! その、僕は……」
僕は照れくさくなり、慌ててリサから離れる。
「うん、わかる。私も嬉しかったもん」
普段のリサとは違い、しおらしい態度のリサは顔を赤くしていた。
そんなリサの言葉に僕も自分の顔が真っ赤になっているのがわかる。
「あの、えっと……」
僕が何か言おうとしどろもどろになっていると、アールさんが口を開く。
「喜んでいる中すいませんが、まだ検証は終わっていません」
みんなで喜んでいた中、アールさんの言葉でみんながアールさんの方を向く。
アールさんの右手には生きているカエルが握られていて、さらに左手はナイフの刃側が握られていた。
「プレイさん、次は貴方がカエルを傷つけてみてください」
「え?」
アールさんの言葉で僕は混乱する。
だけど、アールさんの言いたいことはすぐに理解できた。
≪おにごっこは≫対象者を選んで発動する。さっきはカエルを傷つけたアールさんを僕は対象者に選んでいなかった。
どうして、すぐに思いつかなかったんだ……。
対象外の人が対象者を傷つけた場合、スキルは事故として認識したのかも。
ナイフを僕に渡そうと差し出しているアールさんの表情は、見たこともないくらい真剣なものできっとアールさんが検証しなかればならないと思っていたのは、この状況なんだと僕は理解する。
僕は震える手でナイフを受け取る。
(カエルを対象に≪おにごっこ≫を開始しますか)
はい。
僕はアールさんからカエルを受け取ると、ナイフでカエルを少し傷つける。
僕は痛みに耐えるように目をつむるのだが、先ほどと同様に痛みははやってこなかった。
「プレイ大丈夫?」
心配そうなリサに僕は頷く。
「よかった。これで安心ですね……」
そう言ったのは、アールさんでその表情は憑き物が落ちた様に穏やかなものであった。
だけど、これじゃだめだ……。
そう思った僕はナイフでカエルの足をおとした。
その瞬間、声が聞こえる。
(おにが遊び相手を傷つけました。ペナルティーが発生します)
バツンッ!
「「プレイ!」」
皆が僕の名前を叫ぶと同時に僕は突然バランスを崩し、地面に転がる。
その転がりはじめた瞬間、世界がゆっくりとした動きになる。
視界に映るみんなの顔が一斉に歪み、泣いているような顔になり、ゆっくりと僕に向かって走り出す。
それはクランの仲間だけでなく、治療師の人達も……。
治療師の人達は、クランの仲間のと違い厳しい表情で走って来る。
「プレイ足が⁉」
リサの悲痛な叫びで僕は自分の下半身に目をむける。
そこには太ももの付け根から切り落とされた右足が地面に向かって倒れていく。
断面は、肉屋で売られている肉の様に綺麗な断面だった。
僕が自分の足が切り落とされたと気づくと、そこから猛烈な痛みに襲われる。
痛い! 痛い! 痛い! 熱い! 熱い! 熱い!
「ぎゃああああ!」
痛みに耐えるつもりでいたけど、僕の頭は押し寄せる痛みに耐えきれなくなり叫び声を上げる。
「痺れろ! そして眠れ!」
アールさんが叫ぶと僕は体が動けなくなり、恐ろしい痛みがすっと引き意識が遠のいていく。
地面に転がったのだろう、視点の半分を地面がしめみんなの足が迫ってくる。
僕の意識はそこで途切れた。
「足が!」
僕は叫びながら目を覚ますとベッドの上に寝ていることに気づき、思わず体を起こすと同時に足を見る。
足は綺麗に繋がっていて、痛みもない。
夢だった?
「痛みはありますか?」
僕が夢だったのかと思った瞬間、声をかけられる。
僕が顔を横に向け声のした方を見ると、アールさんとリサがいた。
「痛みはありますか?」
「あ、いえ。痛みはありません」
「よかったね。プレイの足は治療師のみんなが綺麗につなげてくれたよ。動かせる?」
リサに言われるままに足を動かす。
すごい夢じゃないかと思うくらい元通りだ。
「大丈夫、切り落とされたのが夢じゃないかと思うくらい」
リサに返事をすると、アールさんが席を立つ。
「それは良かった。ではリサさん後はお願いします」
「はい。アールさんありがとうございました」
「いえ、元からもしもの時にいたんです。それに検証も一通りできましたし」
アールさんはリサにそう言って扉に手をかけると、思い出したと言った様子で振り向き口を開く。
「あ、そうそう。プレイさん人事部長アールが言い渡します。プレイさん、あなたは三日間は絶対安静です。三日間は仕事と思い大人しく寝ていなさい。今度は監視のためにリサさんに三日間あなたを見張ってもらいます。リサさん宜しくお願いしますね」
アールさんがそう言うと、クランの敬礼をしたリサが返事をする。
「はい! 遊び人プレイの三日間の監視の指令承りました」
「それでは……」
そう言うとアールさんは治療室を出ていく。
扉が閉まるとリサは僕の方に振り向き聞いてい来る。
「本当に大丈夫?」
「うん、それよりも僕は今後ダンジョンにみんなと一緒に潜れるのかな?」
スキルの検証結果で僕は≪おにごっこ≫の対象者を傷つけれない事がわかった。
「え? 何をいっているのプレイ?」
僕の言葉の意味が理解できないのかリサがきょとんする。
その表情だけでわかってしまった。
「ああ、やっぱり一緒にダンジョンには潜れないか……」
少し舞い上がっちゃった。
僕のスキルはやはりダンジョンに潜るには力不足だよね。
みんなは英雄の誕生だと言って喜んでくれたけど、魔物を倒すことができないスキルなんてただの足手まといだよね。
やっぱり遊び人はダンジョンには潜れないか……。
「そんなはずないでしょう? プレイのスキルには弱点があるけど、それを考えてもすごいスキルだよ。プレイが目を覚ますまでの間、アールさんと話していたけど弱点はみんなで補える程度のものだからプレイにはこれから一緒にダンジョンに向かってもらうって言ってたよ」
「リサ! それ本当⁉」
僕は思わずリサに詰め寄ってしまう。
「なんで嘘をつく必要があるの? 本当に決まっているでしょう」
「よかった」
僕は安心してベッドに寝転がる。
「それよりも、プレイは三日間安静だからね」
「うん、わっかってる」
僕は無事スキルの検証も終わってダンジョンに入れるとわかり安心すると、ある疑問が浮びあがる。
「そう言えば、今回はリサは落ち着いているね。前はあんなに慌ててたのに」
僕の言葉にリサは目を丸くする。
「プレイ何か勘違いしているみたいだから言っておくけど、ダンジョンに入れば魔物に襲われて腕や足が切り落される事はないわけじゃないからね、いちいち大慌てなんてしないよ」
僕はリサの言葉にギョッとすると、リサはニヤリと笑い話を続ける。
「もしこれでダンジョンに入りたくないなんて言ったらみんなに笑われるからね」
え、それじゃあ前回の僕はペナルティーで今回以上の傷を受けていたのはわかるけど、リサが気を動転させるくらい酷かったんだ。
「ね、ねぇ、リサ……」
僕が前回の傷の具合を聞こうとした時、扉が勢いよく開かれる。
「プレイさん! 大丈夫ですか⁉」
扉が開くと今にも泣きだしそうな表情のシングが治療室に駆け込んできたのであった。
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