第8話 1月21日修正
「もう! プレイってば私が言おうと思っていたのに先に言っちゃうなんてずるい!」
そう言ってリサは僕に対して文句を言うが、顔は満面の笑みでさっきから肩を叩き続けている。
リサの言葉と行動を見てクランのみんなが笑う中、シングが恐る恐る口を開く。
「そう言ってもらえるのは嬉しいのですが……私は本当に今日まで役立たずと言われていたんです。そんな私がみなさんのお役に立てるでしょうか?」
シングがそう言うとリサはシングの肩を軽くパンと叩いて答える。
「さっきの歌で支援できるんでしょ⁉ 絶対に試験は合格できるよ!」
それを聞いたシングがクランのみんなを見ると、みんな視線を合わせて力強く頷いていく。
「と、とりあえずその入団試験を受けてみようかと思います」
シングはそう言ってチラリと僕を見る。
「うん、僕が入団したときの事を考えると絶対に合格できる!」
「「あはははは!」」
僕の言葉を聞きクランのみんなが大笑いするのを見て、シングは不思議そうな顔をする。
クランの仲間の一人が笑いをこらえながらシングに尋ねる。
「くくくくっ、なあシング。プレイの職業って何だと思う?」
唐突にそう聞かれ考え込むシング。
「えーっと、プレイさんって真面目な方だから、もしかして魔法使いや僧侶のような魔法が使える職業でしょうか?」
シングの答えを聞いたみんながさらに大笑いする。
「「あーっはははは!」」
「えっ⁉ えっ⁉ なんで⁉ なんでそんなに笑うんですか⁉」
そんな様子にさらにクランの仲間は笑い声を大きくする。
「あはははは! 聞いてシング。実はプレイの職業って遊び人なんだよ!」
「ええええ⁉ プレイさんが遊びんなんですか⁉ 誰よりも真面目な方なのに!」
「「あーっはははは!」」
ついにクランのみんなはお腹が痛いとお腹を抑えながら笑い、さらに目尻の涙をぬぐいはじめる。
「あはははは! そうだろう⁉ すっごく変だよな!」
みんながその言葉に頷いて笑い続け、それがおさまるとリサが真面目な顔で話しはじめる。
「……でも、聞いてシング。プレイは遊び人だけどすっごくまじめに働いていて、私達のクランの研究室で頼りにされてる存在なの……プレイがクランに提出した魔物の研究資料はいくつも今までの常識を覆したし……最近、何やら新しいスキルを覚えたっぽいしね」
そう言ってリサは、ニヤリと笑いながら僕の方を見る。
「まぁ、明日から僕が新しく覚えたスキルの検証をするんだけど……もしかしたらダンジョンに入って最前線で活躍できるかもしれないって言われたんだ……」
僕は頬をかきながらそう言うと、クランのみんなの動きがピタリと止まる。
「あれ? みんなどうしたの?」
「「どうしたの? じゃねぇ!」」
声をそろえるとクランのみんなが僕に詰め寄って来る。
「お前が新しく覚えたスキルってそんな凄いスキルなのか⁉」
「ちょっとプレイどういう事⁉ 説明してそんな凄いスキルを覚えたって聞いてないよ!」
そう言って鼻息を荒くしたリサが僕の胸ぐらをつかんでくる。
「まってリサ! かもしれない話だよ!」
「いやプレイの事だから、私達に話すってことはある程度めぼしはついているんでしょう⁉」
リサの言葉にみんなが頷く。
そんな中シングが爆弾を投下する。
「そう言えば、プレイさんがさっき検証って言ったから……スキルの予想は立ててあって、その予想があってるか間違っているか確かめるんですよね? それってすでに一度はスキルを使って予想をたてたってことですよね?」
やばい、僕がそう思った時リサがハッとする。
「あっ! あれだ! 昨日の鬼ごっこ! 2回目の鬼ごっこでしょ!」
昨日リサが訓練と言って僕とした鬼ごっこを思い出す。
「おい! マジか⁉ あんなスピードで動けるようになるのか⁉」
「うちも見た! うち達、獣人でもびっくりするくらいのスピードだった!」
何人かが昨日の鬼ごっこ見ていた様で、僕とリサの鬼ごっこを見ていた仲間が興奮して声を上げる。
「あのスピードならプレイは私と一緒に斥候役をするの⁉ プレイが一緒に斥候をするなら百人力だよ!」
「ああ、斥候役は罠や魔物を識別する知識も必要だから! プレイの知識はクランでも一番だ! それならプレイも一緒にダンジョンに行ける!」
「うちも絶対にいけと思う!」
あはははは。みんな僕が活躍できるかもしれないと喜んでくれる。
昨日まではこんな事になるなんて思いもしなかった……。
仲間の成功は嬉しいものだった……でも、僕はいつも成功を見る側だった……そんな僕は
でも……でも! 今日一日……今日一日だけで! それを何度も塗り替えられた!
クランから追放された吟遊詩人シング……僕が気づけた……エルフの女の子シングの能力。それはダンジョンで間違いなく活躍できる能力で、それがあればクランから追放されないどころか、引く手あまたとわかった!
僕が新しいスキルを覚えてもしかしたら活躍できるかもしれないと聞いて、みんなが自分の事の様に喜んでくれた事!
僕は今の生活で満足って言いながら、どこかであきらめていたのかもしれない……。
みんなが真面目って言ってくれた僕だけど……それは、どこか人生を諦めて、心が傷つかない様にしていたのかもしれない。
……いいよね? ちょっとだけ、期待しても……。
……いいよね? これからもっと嬉しい事があるかもしれないって思っても……。
「プレイ? どうしたの⁉」
リサの声ではっとすると頬を温かいものが流れていた……。
「プレイさん⁉ どうしたんですか⁉」
シングもリサの声を聞き、僕を見ると驚いて声をあげる。
ふふふふ……ちょっと目にゴミが入ったんだよ。
「うぐっ! ぢょっど、目にゴミがばいっだんだよ! ぐうっ!」
「おいプレイ! 何いってるか全然わからねぇよ⁉」
「ちょっとリサ旦那に酷い事言ったんじゃない?」
「旦那⁉ ちょっと何言ってんの! プレイはそんなんじゃ……ない……よ……」
「プレイさん泣かないでください! 私まで悲しくなります……」
「ご、ごめん。みんながよろごんでぐでるのがうれじぐで……うぐっ!」
僕がそう言うとリサが僕の顔を両手で挟む。
「当たり前だよプレイ! 皆プレイがずっとあこがれていたダンジョンに一緒に入れるのをまっていたんだから!」
そう言ったリサは目尻に涙をためている。
「そうだそうだ! 俺達もプレイを待っていたんだ!」
「プレイってばダンジョンは諦めて仕事一筋みたいに働いていたけど、見え見えだったんだから!」
「そうそう。だから、みんな何とかプレイも一緒にダンジョンに入れないか考えていたんだから」
「特にリサにリサやリサとか」
そう言ってみんながリサをみてニヤリと笑う。
「ちょっと! みんな何言ってるの⁉」
「あれ~? リサはプレイと一緒にダンジョンに入りたくないの?」
「えっと……それは………」
「「リサ?」」
リサの顔がどんどん赤くなり、耳まで赤くなるとリサは観念した様に言う。
「一緒に入りたいよ! 一緒にダンジョンを目指して王都に来たんだから……」
リサの言葉を聞いてまた目頭が熱くなる。
でも、これ以上泣かない様に我慢しながら僕はリサに言う。
「リサ……あ、ありがとう。リサが一緒に
リサは僕の言葉に鳩が豆鉄砲を食らったみたいになり、顔を背けると小さな声で言う。
「それなら、いつもそう言ってくれないと。もしかしたら、プレイはダンジョンに入れないなら
今度はリサの目から涙がこぼれる。
「うぅううう。良かった本当に良かった!」
ダメだ、リサまで泣くなんて……もう我慢できない……。
「リザ……ぼうんどうにありがどう」
僕とリサが泣き続ける間、クランのみんなは温かい目で僕達を見守ってくれた。
ようやく僕とリサが落ち着いた頃、クランの仲間が口を開く。
「じゃあ、今日はそろそろお開きにしようか。プレイは明日新しいスキルの検証もするしな。ところでシングは今日の宿はどうするんだ?」
「「あっ!」」
仲間の言葉に思わず僕とシングは声を合わせるのであった。
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