第7話
それから、シングが涙ながらにここまでの経緯が説明すると、みんなが僕の方を向く。
「よくやったプレイ! シングがエルフの女って同じクランの奴らに知られていたら、もっと酷い事をされていたかもしれない!」
「シングも話し疲れただろう、ほら飲んで!」
「うん! しかもプレイはシングが女の子って気づいてなかったんだよね? それでも助けたのはえらい! ほらもっとシングは食べて!」
みんなが口々にシングの性別が所属していたクランで知られていなかっ事を良かったと言い、リサは僕がシングが女の子と知らずに助けたことを褒めてくれた。
まぁ、リサの言い分に少し引っかかりを覚える事もあったけど、僕はみんなの称賛を素直に受け止めた。
その後、僕達が食事をしながらお酒を飲んでいるとクランの仲間がポツリとつぶやく。
「でも、戦闘中に歌が聞こえなくなるっておかしくないか?」
誰かがつぶやいた言葉にみんなが考えはじめる。
「話を聞くと途中まではきちんと吟遊詩人の歌で、味方に支援効果が発揮されるんだよな?」
「はい。私としてはちゃんと自分で声も聞こえるし、声が聞こえないと言われても訳がわからないんです」
「プレイどう思う?」
シングの言葉を聞きリサが難しい顔をして、僕に意見を求めてくる。
僕もシングの歌が途中から聞こえなくなるのはおかしいと思って考えていたけど答えは出なかった。
僕は何か見落としている事はないかと思って、もう一度シングの話を思い出す中、その間にクランの仲間もシングに質問をする。
「ねぇ、シング。前のクランの人達は声が聞こえなくなると支援効果も消えたと言っていた?」
シングはその言葉にハッとして答える。
「そ、そういえば、その事については何も言ってなかったかもしれません……」
その言葉を聞いた僕はあることを思いつき、シングに頼みごとをする。
「ねぇ、シング。ここで支援の歌を歌ってくれない?」
僕はシングにそう言うと、酒場の中を見渡す。
うん、今この酒場にはいろんな年齢の種族がいるし確かめれるはず。
「わかりました、ここで歌ってみます」
そう言うとシングは立ち上がり酒場の中の人達全員に聞こえるように大きな声で話しはじめる。
「みな様、失礼します。私はエルフの吟遊詩人でシングと言います。お楽しみの中、申し訳ありませんが一曲歌う事をお許しいただけるでしょうか?」
シングがそう言うと、酒場にいた人達は盛大な拍手でシングに返事をする。
そしてシングが楽器の準備をする間に、僕は酒場にいる人達にお願いをする。
「重ねてすいません、歌の途中でもし声が聞こえなくなっても少しの間だけ我慢して歌を聞き続けてください」
僕がそう言うと酒場の所々から返事が返ってくる。
「ああ、大丈夫だ! ちゃんとわかっている、俺達に気にせず歌い続けてくれ!」
「歳をとってからは結構あるからわかっている!」
「「⁉」」
僕が予想した通りの返事が返ってくると、クランの仲間が驚き僕にたずねてくる。
「ねぇ、プレイ! プレイは歌が途中から聞こえなくなった原因がわかったの?」
「ああ、リサ。まだ、確証はないけど予想はできた。ここでシングが歌えば直ぐにわかるはず」
僕はリサに説明するとシングに声をかける。
「シング準備はいい? シングのいたクランの人達は本当にシングの声が聞こえなかったんだと思う。でもそれはシングが悪いわけじゃないから自信をもって歌って」
僕の言葉にシングははじめ驚きの表情を見せたが、すぐに力強くうなずいてくれる。
「はい! 酒場にいる人達みんなに喜んでもらえるように頑張ります!」
そう言うとシングは歌いはじめる。
シングが歌いはじめると酒場にいた人達の全員が支援効果を得るのだが、その効果は僕達が驚くほど高く、そのため歌の途中にもかかわらず思わず声を上げそうになり、お互いの口をおさえることとなった。
暫くして歌が終わるとシングは盛大な拍手につつまれた。
「姉ちゃん! いい歌だった! これは駄賃だ! こんどは俺達みたいな爺にも全部聞こえる歌を歌ってくれ!」
「お姉ちゃん! 凄いきれいな歌だった! はいこれ!」
「エルフの吟遊詩人はあまり見かけないがたまげたぜ! また歌ってくれ!」
酒場の人達は次々にシングの前にお金を置いていく。
「あ、ありがとうございます!」
酒場の人達の反応を見て、はじめこそ信じられないと言った表情のシングだったが、何人かにお礼を言われると嬉しさのあまり満面の笑みになる。
そして歌を聞いた人達がシングに礼を言いおえる頃、シングの前にはそれまでのシングの食事の料金以上のお金が集まっていた。
「こ、こんなに頂いてよろしいのでしょうか⁉」
集まった金額に驚くシングがおろおろしているのを見て僕もクランの仲間、酒場の人達も笑顔で頷く。
シングが慎重に酒場のにいた人達からもらったお金を自分の財布の中に入れるの見届けると、リサが我慢できないとシングに言う。
「すごいよ! シング! あんな綺麗な歌聞いたことがないよ!」
シングの歌に興奮してリサがシングに詰め寄るが、僕はある質問をリサにする。
「でもリサ。リサにも一部聞こえない部分があったんじゃない?」
「えーっと、今それをいっちゃうプレイ?」
リサが僕の方に振り向くと頬をふくらませていた。
リサの言葉を聞いたシングの表情が暗くなるがすぐに、クランの仲間がシングに言う。
「リサは聞こえない部分があったのか? でも俺は全部聞こえたぜ!」
「うちも!」
「え⁉ みんな本当?」
今までシングは自分の歌が全部聞こえた人に会ったことが無かったのか、クランの仲間の言葉に驚く。
やはり僕達クランの仲間でも聞こえない部分があった者と全部聞こえた者に別れるよね、そう思った僕は自分の予想が正しい事を確認するためにクランのみんなに言う。
「みんな、シングの歌が全部聞こえた人は手をあげてくれないかな?」
僕がそう言うとクランの仲間の数人が手を上げるが、その手を上げたクランの仲間を見て他の仲間もあることに気づく。
「獣人の仲間だけがシングの歌を全部聞けたのか?」
「僕の予想だけど、ここにエルフがいればきっとエルフも手を上げたと思うんだ。シングはエルフの国に居た頃、シングが何を歌ってもみんな聞こえていたんじゃない?」
そう言って僕がシングに尋ねると、シングは唖然としていた。
「シング? 大丈夫? 聞こえてる?」
僕がそこまで言うとシングはハッとして我に返る。
「いえ、エルフの国では歌に聞こえない部分があるとは言われなかったのですが、みんなが私に気を使って言わなかったのだと思っていました」
「いや、それはシングの歌を聞いた人達は全て聞けていたからだと思うよ」
「そうだったんだ……うぅううう」
シングは、エルフの仲間でも自分の歌が全て聞こえていないと思っていたためか、僕がエルフの仲間に歌が全部聞こえたと言うと再び涙をあふれさせた。
「なぁ、もしかしてシングの歌は耳の良し悪しで聞こえない部分があったのか?」
それまでの話を聞いていたクランの仲間が僕にそう聞くが、僕は首を横にふる。
「いや、その言い方は正しくないと思う。多分、正しくは耳の良し悪しではなく、種族によって聞き取れる音の領域が違ったんだと思う」
「「なるほど!」」
クランのみんなが僕に納得したと言った表情を見せる。
「多分さっきドワーフの人達が言ってたけど、俺達みたいな爺にも聞こえる歌と言っていたように種族差に加えて年齢を取ると聞こえない領域があるんだと思うんだ」
僕が予想をそこまで言うと、突然笑い声が聞こえてくる。
「がはははは! 坊主正解だ! 人族なのに良く気づいたな!」
そう言って先ほど、シングの歌を褒めたドワーフの人達がやって来ると僕の肩を叩く。
「痛たたたた、じゃあやっぱり僕の予想は正しいんですね」
「ああ、そうだ! わしらドワーフは人と比べると高い音に関して聞こえる領域は人族とたいして変わらないが低音に関しては良く聞こえるからな!」
「じゃあ俺達、獣人は高い音も低い音も聞き取れるということですか?」
「ああ、きっと獣人の者達はエルフに次いで耳がいいんだろう。お前さん達とそっちの嬢ちゃん達はシングの歌を全部きこえたんじゃないか?」
そう言われてクランの獣人の仲間全員が頷くとドワーフの人は嬉しそうにして続ける。
「それにしても……さっきも言ったがよく坊主はそのことに気づいたな」
そう言ってドワーフの人は僕を見てサムズアップすると、次にシングの方を向いて言う。
「嬢ちゃんはいい友達に恵まれたな」
ドワーフの人は先ほどから安心して涙を流し続けるシングの頭を子供をあやす様になでるはじめる。
しばらくの間、ドワーフの人がシングの頭をなでていると落ち着いたのかシングが口をひらく。
「ドワーフさんありがとうございます。落ち着きました」
「がはははは! 種族は違えど誰にでも悩みはあるもんだ、それを親身になって心配してくれる友達は一生もんだ大切にしろよ!」
そう言ってシングの肩を優しくたたくと、ドワーフの人達は自分達の席に戻っていく。
僕達はドワーフの人達が席に戻るのを見届けると、改めてシングを見る。
みんながシングを見て、それぞれ思う事があり考え込む中、誰よりも先に結論を出したリサがシングに尋ねる。
「ねぇ、シングこれからシングはどうしたい?」
「えっ私がですか⁉ えーっと……さっきまでクランを追い出されたばかりで……何も考えれてないです……」
シングはリサからそんな事を聞かれると思っていなかったらしく、今の心境を切実に答える。
僕はリサがこの後に何を言いたいか簡単に予想ができる。
それはさっきのシングの歌の支援効果を受けて僕が考えた事と同じはず。
僕は鑑定で職業が遊び人とわかった時、絶望に打ちひしがれる僕を《エルドラド》の入団試験に誘ってくれたリサを思い出し、その時のリサと同じ事を言う。
「ねぇ、シング
僕の言葉にクランのみんなの視線が集まる。
「うん……俺もそう思っていた」
「……私も」
「うちも!」
クランのみんなが僕の言葉に賛成していくと、リサはクランのみんなの賛成の言葉を聞くにつれて笑顔になっていき、僕の肩を叩きながら話しはじめる。
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