第6話


 子供達が声を上げる中、僕はそれぞれのコマをじっとみつめる。


 大きなこま、小さなコマ、形の変わったコマなど様々形のコマがあり見ているだけでも楽しい。


「なるほどね~ コマにもいろんな種類があるんだ~」


 思わず呟いた僕に子供達が反応する。


「兄ちゃんコマしたことないの?」

「一緒にやる?」


 いつの間にか子供達は、不思議そうにコマを見ている僕に視線を向けていた。


「ありがとう。でも僕はコマを持ってないから……」


 僕が苦笑いしながらそう言うと、一人の子供が僕に自分のコマを差し出す。


「これ僕のだけど使ってみる?」

「いいの⁉」

「いいよ!」

「兄ちゃんやろう!」


 そう言った子供達は僕をコマを回していたお盆の前に押す。


「じゃあ、1回だけ」


 僕は子供達に言われ、借りたコマをひねってまわす。僕がまわしたコマがお盆の上に落ちると子供達も次々にコマを落としていく。


「うわ! 兄ちゃんがまわしたコマつえー!」

「本当だ! 僕がまわしたらすぐに負けちゃうのに!」

「すごい! ずっとまわってる!」


 子供達がまわしたコマが次々と倒れる中、僕のコマは回り続けていた。


 僕のまわしたコマが動き続ける最後の一つとなり、しばらくの間まわった後倒れると子供達が声を上げる。


「すげー! 兄ちゃんすげー!」

「うん! 僕のコマでも勝てるんだ!」

「どうやってまわしたの⁉」


 僕のまわりに子供達が集まりコマのまわし方を聞いてくるが、そもそも僕はコマは知っていたけどまわしたのははじめてでコマの良いまわし方なんかしらない。


 僕が子供達に詰め寄られて困っていると、子供達の一人があることに気づく。


「あっ! 兄ちゃんもしかしてエルドラドの人⁉」

「本当だ! エルドラドのバッジだ!」

「エルドラドの冒険者はみんな強いよね!」

「いや……僕は……」


 子供達が興奮する中、僕は強くないと言おうとすると子供達の一人が声を上げる。


「あっ! やばい! そろそろ帰って家の手伝いをしないと!」

「本当だ! 兄ちゃんバイバイ!」

「僕も帰らなきゃ!」


 そういって子供達は走っていく。子供達が少しはなれたところで、僕は借りたコマを持っていることに気づいて慌てて叫ぶ。


「まって! このコマ!」

「兄ちゃんにあげるよ! その代わり今度また一緒に遊んでね!」


 笑顔で答える子供達に僕も笑顔で答える。


「わかった! またここに遊びにくるから!」

「うん! 約束だよ! バイバーイ!」


 僕にコマを貸してくれた子は笑顔で手を振りながら帰っていった。

 僕はコマを手にしたまま子供達の背中を見送り、子供達の姿が見えなくなると、僕は視線をコマにうつす。


「うん、またこの公園にこよう」


 そう言ってクランに帰ろうと歩き出したところでズボンを引かれて振り返る。


「にいちゃん、あそんで……」

「にいたんかえゆ?」

「あそびたい……」


 そこにはコマで遊んでいた子供達よりもさらに小さな子供達がいた。


「えっと……」


 僕は子供達の親はいないかと辺りを見るが、子供達の親達の姿を見つけることができず困っていると、子供達が目に涙をためはじめる。


「あそんでくれないの~?」

「ふえ~ん」

「あそんで~」


 うん、この子達をこのままにしておくと危ないし、親の人が探しにくるまで遊んでよう。


 そう思った僕は子供達の目線に会わせるためにしゃがみこむ。


「じゃあ、一緒にあそぼっか!」

「やったー!」

「うん!」

「わーい!」


 その後、僕が子供達と一緒にいろんなことをして遊んでいると子供達の親がやって来る。


「すいません、少し目を離したらいなくなってしまって」

「いえいえ、こちらこそ時間を持て余していたんで」

「兄ちゃんバイバーイ」

「ふぁいふぁい」

「ありがとうー」


 子供達はそれぞれの親に連れられて公園をあとにしていく。


「よし! 僕も夕飯を食べて帰ろうかな」


 そう言って僕も公園を出て、クランのみんながよく行く酒場に向かうと、途中で嫌な光景にでくわした。


「おい! 昨日の夜、次で最後っていったよな! 今日でお前は追放だ!」

「そんな! お願いです待ってください! なんでもします! だからクランに置いてください!」

「俺達もさんざん我慢してきたんだ! もう無理だ! お前をかばいながらダンジョンに潜ってたらこっちまで死んじまう! さっさと行け! この役立たず!」


 そう言って男が吟遊詩人の冒険者を足蹴にすると、同じクランの仲間と思われる男がやって来る。


「お前の部屋の荷物を持ってきておいて正解だったな! ほらよ!」


 男は蹴られて倒れてしまった吟遊詩人に彼の荷物を投げつける。


「うぅうう……そんな僕の荷物を全部持ってきていたなんて……」


 そう言った吟遊詩人は、涙を流しながら地面に落ちた私物をかき集める。


 部屋を与えられていたと聞いたけどほとんど荷物がない……。


 彼が必死になって集めた私物は、一人の人間がまっとうに生活を送れるとは思えないほど少ないものであった。


 彼は私物を拾い上げるとフラフラと歩きはじめるがどう見ても足元がおぼつかない。


「あ、あのう……」


 僕が思わず声をかけると、吟遊詩人の彼は僕の呼びかけに涙を流し続けながら振り返る。


「あなたは……昨日酒場の前にいた……」


 どうやら彼も僕の事を覚えていたらしい。


「少し、一緒に飲みませんか? 奢ります」


 彼は僕の言葉に黙って頷く。僕はそのままいつもクランの仲間と行く酒場に案内する。



 僕が酒場のドアを開けると、ドアベルがなり酒場にいた何人かが僕達に視線を向け、僕が酒場に入るとクランの仲間が声をかけてくる。


 そして僕のすぐ後ろに吟遊詩人の姿に気づくとすぐに尋ねてくる。


「おう! プレイ! お前も晩飯かって……友達か⁉」

「う、うん」

「ここいらじゃ見ない顔だな……よろしくな!」


 そう言って僕が見知らぬ友達を連れて来たのが珍しいのか何人かのクランの仲間が集まって来て、吟遊詩人の彼の姿を興味深そうに見る。


 吟遊詩人の彼は先ほど地面に蹴り倒されあちこち汚れているために、いかにも訳ありの風貌であったが誰一人としてそれについて尋ねる者はいなかった。


「こ、こんにちわ。吟遊詩人のシングと言います。よろしくお願いします」


 クランの仲間が集まって来たことに驚いた吟遊詩人の彼であったが、クランの仲間に挨拶をされると慌てて吟遊詩人の彼も自己紹介をした。


「じゃあ、シングあっちのテーブルに座ろう」


 そう言って僕は酒場にある二人掛けのテーブルを指さして、テーブルに向かおうとすると声をかけてくる。


「おい、プレイせっかくだし友達と一緒にこっちに座れよ!」


 そう言って僕達の様子を遠目に席から見ていた、他のクランの仲間が話声が聞こえたのか同じテーブルに誘ってくる。

 そんな仲間の言葉に入り口を背にして僕の存在に気づいてなかった、僕の数少ない友達が声を上げる。


「えっ⁉ 騒がしいと思っていたらプレイが原因だったのって何⁉ 友達⁉ えっ⁉ 嘘⁉ クランの仲間以外にのプレイの友達⁉ こっち! こっち! 一緒にこっち来て!」


 僕がシングを誘って酒場に来たことに気づいたリサも、クランの仲間と同じように僕とシングを自分達と同じテーブルに誘ってくる。


「シングみんなと一緒でもいいかな?」

「わ、私は良いですけど……みなさんが嫌な気分にならないでしょうか?」


 そんなシングの声が聞こえたのかリサが叫ぶ。


「嫌な気分になるはずなんかないよ! さあ早くこっちにきなよ!」


 リサの言葉にシングは目を丸くして、僕の方を見てくる。

 僕はシングに黙って頷くと、シングの手を引いてリサの居るテーブルに向かう。


「じゃあ、改めて自己紹介してほしいな」


 リサがそう言うとシングはかぶっていた大きめの帽子を取る。すると、綺麗な長い銀髪と長い耳があらわれ、みんながざわつきはじめる。


(えっ⁉ 女の人? しかも銀髪エルフ? あれ僕今まで男の人の様に扱っていた……)


 そんな中、ひときわリサが大きな声で驚きの声を上げる。


「ちょっとシングってエルフの女の子だったの⁉ なら、何でズボンにそんなダボっとした服を着ているの⁉ 私も女の子って気づけなかったよ!……ごめん!」


 そう言ってリサは自分の顔の前で両手を合わせると、みんなもそう思っていたのか、リサと同じように両手を合わせ苦笑いする。


 そんなみんなの様子にシングは申し訳なさそうして顔をして訳を話しはじめる。


「はい、この服の理由なんですが……エルフの国から人の町に出てきて、今日まで所属していたクランに入ったのは良かったんですが……そこであまり役に立なくて、そのせいもあってあまりお給料も、もらえなくて……こ、この服もなんとかお金をためて……買ったんです……うぅうう」


 そう言ってシングはうつむくとポロポロと涙を流しはじめる。

 そんなシングを見てリサが眉を吊り上げ、僕に詰め寄る。


「ちょっとプレイ! あんた友達なんでしょう! 友達の女の子がこんなに困っているのに服の一枚も買ってあげれないのって……プレイ? なんであんたがおどろいてるの?」


 眉を吊り上げていたリサだけど、僕の驚いた様子に首を傾げる。

 だって仕方がないじゃないか⁉ シングがまさかこんな綺麗なエルフだなんて気づかなかったんだから!

 リサが不思議そうに僕を見ているとシングが恐る恐る手を上げて話しはじめる。


「あ、あの! 違うんです! プレイさんは私の事を友達って言ってくれたんですけど私とちゃんと話したのだってついさっきなんです!」

「「どうゆうこと?」」


 涙を流しながらもプレイとの関係を叫ぶシングに、その場にいたみんなが首をかしげたのであった。


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