第5話


 今、僕が居るのは他の大手のクランもなく町の中でも治安が悪いところ。

 酒場は開いてはいるが、その中の人達は楽しそうにしているより、酒におぼれ嫌な事を忘れたい人や、悲しそうに1人食事をする人、喧嘩をしている人達の方が多い。


 すぐに帰ろう、僕がそう思った時だった。


「この役立たずが!」


 ガシャーン!


 叫び声と何かが壊れる音。それと一緒に僕の目の前を何かが転がっていく。その転がったものを追うように目の前の酒場から一人の男が出てくる。


「すいません! すいません! 次こそ役に立ちます! だから、見捨てないでください!」

「なんで吟遊詩人のくせに歌いはじめたら声が出ないんだ! そんな事じゃあ歌の支援効果がでねぇじゃねぇか!」


 僕の目の前を転がっていったのは、吟遊詩人の人だったようで、吟遊詩人の彼を追って出て来た男はその吟遊詩人の彼に罵声をあびせはじめる。そんな目の前の光景に僕が固まっていると男の目が僕の方に向く。


「何を見てんだ? なんか文句があるのか?」


 吟遊詩人の人に罵声を浴びせていた男がそう言いながら、僕に手を伸ばしてくる。

 それを見て、僕がやばいと思った瞬間、男が伸ばした手を止める。


「チッ! 黄金郷エルドラドの人間か……よそのクランの事に首を突っ込むんじゃねぇ! オラ! お前も立て、次が最後のチャンスだからな!」

「はい! 次こそは役に立ちます!」


 二人はそう言って、出て来た酒場に入っていった。


「助かった……」


 僕はその場で崩れ落ちそうになる。


 どうやら吟遊詩人の人に罵声を浴びせた男は、僕の服についているバッジを見て、僕が黄金郷エルドラドの人間と気づいたらしい。 


 ほっとした僕はここに居てても良いことはないと思い、すぐに帰ろうと来た道を振り返る。


 すると、僕は建物の影からこちらを見ていた目に気づく。

 僕はその目を見て思わずびくりと体を震わせると動けなくなってしまう。

 なぜなら、その目は酷く血走っていてこれでもかと言うほど、憎悪がにじみ出ていたから。


 僕は息を飲み、何とか体を動かしてゆっくりと後退する。すると目の主はふっと建物の影に消えてしまう。

 そこから僕は、一目散にクランに走って帰った。


「おう、プレイおかえり!」

「はぁ、はぁ、ただいま……」

「なんだ、散歩が訓練になって走って来たのか?」

「うん……そんな感じ……」

「はははは、やっぱプレイはまじめだな。休暇をもらっているんだろ? ゆっくり休めよ」

「うん、ありがとう。ゆっくり休むよ」


 僕はそのまま部屋に戻ると、すぐに風呂に入り嫌な汗を流しながら1人つぶやく。


「あの目は何だったんだろう? 今思い出しても震えがくる」


 その後、汗を流した僕は、全速力で走った疲れからかベッドに入るとすぐに眠ってしまった。




「おいプレイ! なんでお前みたいな遊び人が黄金郷エルドラドにいるんだ!」

「そうだ、お前みたいな奴はクランから追放されるべきだ!」

「出ていけ!」

「そうだ出ていけ!」


 みんなどうしてそんな事を言うんだ!


「そんな! 僕だってダンジョンには入れないけど、魔物の研究を一杯してクランの役に立ってるはずだ! それにみんなも一緒にダンジョンに行こうと言ってくれたじゃないか!」


 そこにリサがあらわれる。


「そうだリサも一緒にダンジョンに潜ろうって言ってくれたよね!」

「ねぇ、プレイ。みんなの足を引っ張って何も思わないの?」

「何を言っているのリサ?」

「プレイが足を引っ張ったせいで私は死んじゃったんだよ?」


 リサがそう言った瞬間、リサの頭が体からずれ落ちる。


「うわぁあああ! リサが! リサが!」


 僕は、助けを求めるようにみんなの方を見る。


「そうだプレイお前のせいで俺達は死んじまった」


 さっきまで僕に罵声を吐いていたみんなの体はボロボロになり、まるでゾンビの様な姿になる。


「なんでお前だけ生きているんだ? プレイも死ぬべきだろう? さぁ早く!」


「うわぁあああ!」


 僕は叫び声を上げならが飛び起きる。


「はぁはぁ、夢……だよね?」


 僕が息も絶え絶えに辺りを見回すと、そこにはいつもの僕の部屋。


 嫌な夢を見た……昨日の夜、あんな光景を見たせいだろうか? 僕のせいでみんなが死んじゃうなんて……。


 そんなふうに考えていたら部屋の扉が乱暴にノックされる。


ドンドン!


「おい! 大丈夫かプレイ⁉ 何かあったのか! 入るぞ!」


 そう言ってクランのみんなが部屋の扉を開けて僕を見る。


「大丈夫か⁉ 大声で何か叫んでいたみたいだが⁉」


 そう言って僕の事を心配してくれたみんなに僕は、汗をぬぐいながら返事をする。


「みんなおどろかせてごめん。少し悪い夢を見たみたい」


 僕の言葉を聞いたみんなは、ほっとする。


「それなら良かった。何かあったのかと思ったぜ、今日も休みだろうからゆっくり休めよ」

「うん、みんなありがとう」


 僕が返事をするとみんなが部屋を出ていく。扉が閉まると僕はそのまま仰向けに寝転がる。


「昨日の夜、あんな光景を見たからかな……」


 僕は、アールさんに呼ばれて部屋に行ったとき、クランから追放されると思っていたけど実際に話をきいたら休みを取りなさいと言われた。


 僕はあの時、アールさんからクランからの追放を言い渡されてたらどうしただろう……。


 昨日の吟遊詩人の人の様にすがりついただろうか?

 それともその場で泣き崩れてしまっただろうか?

 もし、追放されたらリサやクランのみんなはなんと言っただろう?


「ダメだ。もしもの事を考えても答えはでないや……」


 そう言って僕は起き上がると顔を洗い、出かける準備をして部屋を出る。


 僕はいつもの様に研究室に入ると、みんなが声を上げる。


「「やっぱりきた!」」


 研究室のみんなが声をそろえると、そのうちの一人が僕に紙を渡してくる。僕がすぐにその紙に目を通すと次のような事が書かれていた。


 遊び人のプレイさんがもし研究室に来た場合は、きちんと休みを取るように行って追い返してください。


 そこまで読んで僕は思い出す。


「そうだ今日は休みだった」


 思わずこぼした僕の言葉にみんなが黙って頷く。


「ごめん、みんな。休みが終わったまた戻って来るから」


 僕がそう言うとみんなが声をそろえる。


「「プレイはしっかり休め!」」


「あはははは……」


 僕はみんなの言葉に苦笑いしながら研究室を出ると、そのままクランの建物からも外にでる。


 さて、どうしよう……昨日も休みの使い方で困ったけど……。

 

 そう思った僕の目の前を子供達が走っていく。


 確か、あの子達が向かう先には公園があったはず……。


「そうだ、子供達が何をして遊んでいるのか見にいってみよう」


 僕はクランの建物の近くの公園へと足を向ける。


 公園に着くとそこではたくさんの子供達が遊んでいた。

 僕は子供の頃、外で遊ぶよりも薬草を取ったり、魔物の話を聞いたりすることの方が好きで、他の村の子達と遊ぶことが少なかったから、小さな子供達がどんな遊びをするのかあまりしらない。


 何か新しいスキルになるような遊びはないかな?


 そう思って公園を歩いていると、数人の子供達が1か所を見つめ騒いでる事に気づき近づいていく。


「がんばれ! がんばれ!」


「もうちょっと!」


 僕が近づき子供達が何を見ているのかと、子供達の後ろから覗き込むと、そこではいくつかのコマが回っていた。


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