第4話

コンコン


「失礼します」

「ああ、プレイさんですね話はきいていますよ」


 そう言ったアールさんは、ニコニコとしている。


「はい、実は……訓練所で新しいスキルを覚えました」


 そこから僕は、訓練所であったことをアールさんに話す。


「なるほど、≪鬼ごっこ≫ですか……言われてみれば、遊び人の貴方が覚えてもおかしくありませんね。ですがそのスキルで身体能力が向上したんですね?」


「はい、スキルを使うと身体能力を向上すると言いますか……跳ね上がりました」

「それでリサさんを捕まえることができたと……」

「でも、2回目は壁に激突してしまいました」


 僕がそう言うとアールさんは腕を組み考えはじめる。

 しばらくするとアールさんは何か思いついたのか手を上げ僕に聞いてくる。


「なんでしょうか?」

「少し質問ですが。2回目の時はその場にいた他のクランのメンバーも対象に選んだ、そう言いましたよね?」

「はい……」

「なら仮定なんですが、あなたのスキルは、鬼と逃げる人の力を均等にするんじゃないでしょうか?」

「均等にですか?」


 スキルの推測をするのが楽しいためか、アールさんは嬉しそうに部屋の中を歩き回りながら話しはじめる。


「そうです、≪鬼ごっこは≫子供の遊びですから。もし、ずっと1人の子が鬼だったら可愛そうでしょう? もしもそんな事があれば、それは遊びじゃなくてイジメですしね……」


 確かに、アールさんの言う通りかもしれない……たしかにスキルをおぼえたのは、リサと一緒に遊んで……スキル≪一緒に遊ぶ≫を使ったからかも……。


「となると、相手の人数が多ければ多いほど僕の身体能力が向上しそうですね。それなら僕が訓練場の壁にめり込んだ理由もうなずけます」

「ええ、ですが1回目はなかった、治療室でのダメージが気になります……」


 そこまで言うとアールさんが一度立ち止まり、腕を組むと再び部屋を行ったり来たりして考えはじめる。

 僕もアールさんと一緒にダメージの原因を考える。


「ふむ、もしかして何かしらの条件があって……と言っても鬼ごっこだから、対象を捕まえれなかった時に何かペナルティーが発生するのでしょうか?」

「あっ! それで僕が治療室でダメージを受けたのかも! 1回目はリサを捕まえたからペナルティーがなかったと考えれば!」

「プレイさん、検証してみますか? もし、2回目の身体能力の向上を自由に使えれば……あなたには、クランの最前線で活動ができるでしょう。あくまでも自由に使えればの話ですが……」


 クランの最前線で活躍ができる?


「本当ですか⁉」


 思わずアールさんに詰め寄ってしまったけど、アールさんは驚きもせずに続ける。


「ええ、実際の話、二回目の時は結構な人がいたにも関わらず、誰もあなたの動きを目で追う事ができなかったのですから……どうします?」


 僕の夢、みんなと一緒に遺跡やダンジョンに入れるかもしれないって事だよね……。


「やります! やらせてください!」

「なら、決まりですね。明後日からあなたのスキルの検証を行いましょう」

「えっと……明後日からですか? 今からでなくて?」


 僕がそう言うとアールさんの目が吊り上がる。


「当たり前です! もう外は日が落ちてから結構な時間がたっているんですよ! それに休みを与えたにも関わらず、訓練して死にかける。あなた本当に休暇の意味わかっていますか⁉」


 アールさんの言葉に興奮してしまったけど、今度はアールさんの言葉で冷静になる。よくよく考えると、怒られてもしかたがないよね……。


「あははは……すいません」


 僕が苦笑いしながら謝ると、アールさんはため息をつきながらじろりとこちらを見る。


「本当にあなたの職業が遊び人なのが信じられませんね……」

「取り柄が真面目なところしかないので……」

「それはわかりますが、ここは大手クランなのです。メンバーに休みもあたえず、働かせ続けているなんて噂がたったら大恥になります! なのでプレイさんくれぐれもきちんと休暇をとってくださいね! わかりましたか?」

「はい!」

「なら、今日はもう休んでください。くれぐれも1人で試そうなんて思わない様に!」


 うっ! 釘を刺されてしまった。こっそり1人でためそうと思ったのに。


「それにあなたのスキルは1人では試せないでしょう? あなたは今から誰かに一緒に働いてもらうつもりですか?」


 そうだ、僕のスキルはあくまでも≪一緒に遊ぶ≫の延長だった1人じゃ遊べないや。

 そう思った僕の表情を見たアールさんが言う。


「私も今日の仕事は終わりです。あなたのせいで、とんだ残業です」

「す、すいません」

「いいから、もう自分の部屋に戻って休んでください」

「はい、失礼します」


 僕は人事部の部屋を出ると、自分の部屋に戻る。

 自分の部屋に入ると、安心したのか疲れがどっと押し寄せきて、思わずベッドに横になった。

 見慣れた部屋の天井をみて1人つぶやく。


「しかし、今日は色んなことがあったな……」


 人事部に呼び出されて、クランから追放されると思ったら、休暇を言い渡されるし。

 リサの訓練につきあったら、新しいスキルを覚えて死にかける。

 でも、新しいスキルのおかげで、クランの最前線で活躍できるかもしれないと、言われた。

 

 そんな事を考えていたら目が覚めてくる。


「しまった……スキルの事を思い出したら、目が覚めて寝れなくなっちゃった……どうせ明日も休みだし、少し散歩でもしようかな」


 僕は独り言をつぶやくと部屋を出る。


「今からでかけるのか?」


 部屋を出た所でクランのメンバーから声をかけられる。


「うん、少し散歩にね」

「最近、物騒な話を聞くから気をつけろよ」

「物騒な話?」

「ああ、少し前から。冒険者の失踪事件が起きてるらしい」

「誘拐なのかな?」

「わからん。だが今から散歩に行くなら、あまり治安の悪い所に行くなよ」

「うん。ありがとう」


 そう言って僕は外に出る。

 少し興奮した頭を夜の風が冷やしてくれる。


「うん、涼しくて気持ちがいい」


 僕はそのままクランハウスの近くを散歩する。

 大手クランの黄金郷エルドラドその建物のまわりには、いくつものお店がある。

 今の時間帯でもいくつかの酒場には明かりがついていて中からは、騒ぎ声が聞こえる。

 窓から中の様子を見ると、見知った顔もいくつか見れる。


「ふふふふ、楽しそうに飲んでるな」


 思わず独り言をこぼす僕。

 お酒を飲んだり、ご飯を食べたりしている人達は、楽しそうにしている。

 今の僕もあんな顔をしているのかもしれない。

 ダンジョンに潜れる可能性が生まれて、リサじゃないけどつい嬉しくてスキップしてしまう。

 そのまま浮かれた僕は、何も考えずに道を進み後悔する。


「しまった⁉ 遠くまで来てしまった!」


 クランの建物を出る前に言われたのに……。

 

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