第3話

 …

 ……

 …………

 ………………なんだろう? 顔に温かいものが……あれ? 僕、寝てる?


「プレ……プ……イ! 目……開……て!」


 あれ? どうしたんだろう……なんだか頭がハッキリしない……僕は何をしていたんだっけ?

 なんかリサが叫んでる? なんだろう? すごく体がだるい……。


「お……い! お願い……目を開けて!」


 まって…………すぐに起きる……から……。

 ダメだ体に力が入らない……それにすごく……眠い……でも………………起きなくちゃ……。


「ごめん! ご……ね! 無理を……ゃった! もう無理は言わ……だから起きて!」


 目を開けなくちゃ……あれ……景色がにじんでる? 

 なんか目が温かいな……誰か僕の顔にお湯でもかけた? 

 ……とりあえず、リサに言わなくちゃ……。


「……もう……リサ、うるさいよ……すぐに……すぐに起きるから…………待って」

「目が開いた! プレイ! 私の声が聞こえる⁉」

「ああ……聞こえてる……よ。ごめん、すごく眠いんだ……⁉」


 なんだ……体に何か乗せた? 

 でも柔らかい……ちょっと……気持ちいいかも……。

 ああ、もっと眠くなっちゃう……だめだ、何? この柔らかいものは、また寝ちゃうじゃないか!


「ダメ! 目を閉じないで! プレイ! 起きて!」

「ああ! リサ、うるさい!」


 そう言って両目をはっきりと開けると、目の前ににリサの顔があった。


「えっ⁉」


 思わず声を上げてしまう。だって近い! むぎゅう!

 リサが僕の顔を両手ではさんできて、おどろた僕は思わず目を見開く。


「もう目を覚まさないかと思った……うっ、うっ、うわ~ん! よかった~!」


 そう言って、服の袖で涙を拭いはじめるリサ。

 顔をはなしたリサを見ると、リサは僕の上に馬乗りになっている。


 僕の顔にかけられらのは、お湯じゃなくてリサの涙。


 さっきまで、リサは僕に馬乗りになって顔を近づけていたらしい……柔らかくて、気持ち良かったのは、リサだったみたい。


「あれ? 僕はいったい?」


 僕はそう言って、まわりを見回すとそこはクランの治療室だった。

 僕が混乱する中、治療室の外からみんなの声が聞こえてくる。


「おい! 聞こえたか? プレイの声だ!」

「聞こえた! 起きたのか!」

「もう扉を開けても大丈夫でしょ! プレイ大丈夫⁉」


 そう言って治療室にみんながなだれ込んで来て、僕が寝てるベッドの両サイドにずらりと並ぶ。


「みんなどうしてここに?」


 あっけにとられた僕が質問すると、逆にリサが僕に質問してくる。


「ひっく……プレイはどこまで覚えてる?」


 そう言ったリサは目を真っ赤にして、僕に馬乗りになっている。


「えっと……リサと二回目の鬼ごっこをはじめるところまで……」

「そうだよ! プレイがいくよ! って言った瞬間、プレイはそのまま、もの凄いスピードで訓練所の壁に激突したんだよ!」


 リサがそう言うと、僕のベッドの両サイドにならんだみんなが口々に話しはじめる。


「俺達もビビッタぜ! なんせ、目にも止まらないスピードだったからな」

「そっからは、壁にめり込んだプレイをみんなで掘り起こして、治癒魔法をかけながらここまで運んだんだぜ」

「そうそう、それでも緊急治療が必要ってなって、リサ以外は外で待ってたんだぜ」


 緊急治療が必要だったなんて……死ぬ一歩手前じゃないか……。

 リサがああなるのもしかたがない。


「みんなありがとう」

「ああ、もう大丈夫そうだな」

「じゃあ、俺達はこれで」

「ええ、私達はお邪魔みたいだし」

「リサお大事に!」


 そう言ってみんなが出ていく。

 その間もリサは馬乗りになったままで、降りようともしない。

 リサはいつの間にか泣きやんで、馬乗りになったまま、両手で顔を覆っていた。


「リサ、そろそろ降りてもらっていいかな?」

「……やだ」

「やだって……」


 そう言ったリサは、両手の隙間を開けて、真っ赤な目で僕をみつめる。


「じゃあ、約束して……」

「約束?」

「そう、絶対に死なないって」

「わかった、約束するよ」


 僕がそう言うと、リサが軽やかにベットから飛び降りる。

 リサはそのまま、治療室の扉の前まで行くと僕の方に振り返る。


「約束だからね」


 そう言って治療室の扉を開けて出ていく。


「いったい、どうなってるんだ……」


 僕は思わず呟く。


「本当にどうなっているのかしら……少しお話をきいてもよろしいかしら? プレイさん」


 そう言ったのは真っ白な白衣を着た、治療師の人だった。

 瀕死の僕を治してくれたのを聞く限り、僧侶の上位職の人なんだろう。


「僕もよくわからないのですが……わかる範囲であれば……」


 その人のただならぬ雰囲気に、僕は思わず返事をする。


「あなたがここに来た経緯はさっき聞いたわね」

「はい」

「でも、さっきの話は正確じゃないわ……あなたに治療が必要になったのは、ここに運ばれてからなの」


 意味がわからない。


「どういうことですか?」


 僕がそう言うと、彼女はイスに座り話を続ける。


「……たしかにあなたは、酷いケガをしていたらしいけど、ここに来るまでにみんなのおかげでほとんど治されていたのよ……」

「じゃあどうして、ここで治療が必要になったんですか?」

「それはね、ここに運ばれあなたに見えない傷が残ってないか調べていたの。そしたら突然あなたの体から異音がしはじめたの」

「異音……ですか?」

「ええ、その異音の原因はすぐにわかったわ……」

「なんの音のだったのですか?」

「骨折の音よ」


 どういう事? 話を聞いたら余計に意味がわからない。


「あの、意味がわからないんですが……」

「うん。でもそれは私達も同じ。あなたの体は、今まさにダメージをうけたみいに突然あちこち骨折しはじめたの」

「それって……」


 そこまで言うと彼女は、僕にぐっと近づく。


「もしかして……最近、新しいスキルをおぼえた?」


 僕が答えれずにいると、彼女はくるりと後ろを向き離れていく。


「あなたの様な話は、騎士のスキルにもあるわ。ダメージを後回しにして、後で一度に受けることは……でもね、それは大きなダメージを受けれないの。あなたが受けたダメージは本当に酷いものであったから、それこそ騎士の上位職が持つスキルように、膨大なダメージを後でまとめて受けるみたいに……とても遊び人のあなたが使えるスキルじゃないわ……少し治療が遅れていたら死んでいたと思うほどのダメージだったもの……」


 聞いたことがある……騎士の上級職にはダメージを受けるのを遅らせて、その間に回復をすればダメージを消せるって……。

 もしかして、壁にぶつかったダメージが後からきた?


「ちなみに壁にぶつかったダメージではないわ……。外部からのダメージと言うよりは、火事場の馬鹿力みたいに本来セーブされている力を無理やり解放したみたいに、筋肉の断裂に骨折、内臓へのダメージが酷かったから、むしろ内部からダメージが溢れたみたいだったわ。これも騎士のスキルに同じようなスキルがあるけど、それは発動と同時に、関節や靭帯が痛みはじめて動けなくなるから、あなたみたいに死にかけないわ」


 でも話を聞くと、その両方のスキルを合わせたみたいな……。

 そこではっとする。彼女の目が獲物を見る獣の様になっている。


「あなたが予想した通り。今、言ったスキル両方を合わせたようだわ。もし、そんなスキルをおぼえたとしたら、クランでも最前線で活躍できるわ」


 たしかに、そんなスキルがあったら最前線で活躍できる……。


「でも、ありえない……」


 僕の言葉に彼女が頷く。

 彼女の言葉には二つの矛盾がある。


 一つ目は、今言った二つのスキルは、騎士の上位職でも防御型と攻撃型のスキル……別の方向の最上位のスキルを同時におぼえることはできない。

 二つ目は、僕の職業は遊び人。遊び人がそんなスキルを覚えるなんて聞いたことがない。


「もし、そんなスキルが見つかったとしたら大騒ぎになるし、しかもそのスキルをおぼえるのが遊び人の職業だなんて」

「あ、あの……」

「まって、もし何かスキルを新しく覚えたのだとしたら、まずは人事部長のアールさんに相談して。正直なところ、私に聞かれてもそんなスキルはじめて聞いたわ。私が言えるのは推測だけだから、クラン全体でそのスキルの調査をしないと……」

「わかりました」

「話は終わり、もういきないさい」

「でも、ケガが……」

「もう完全に治っているわ、でも失った血なんかは戻ってないから、安静にしてね。あとこれも」


 そう言って彼女は僕に紙を渡す。

 何か0がたくさん書いてある……。


「領収書よ。アールさんから、経理部に渡してもらって。もし、あなたのスキルが私達の想像通りなら、よろこんで経費として払ってくれると思うわ」


 そう言われて、もう一度紙をよく見る。

 げっ! 0が一杯書いてあるのは金額だ! とてもじゃないけど、僕が個人で払える様な金額じゃない。


「あなたの命が危ないと思ったから、上級ポーションを使ったわ。スキルの事をちゃんと話さないとあなた借金地獄よ」


 僕は壊れた、人形の様に頭を縦にふる。


「さあ、いきなさい」

「ありがとうございました」


 治療室を出た所で領収書をもう一度見る。やっぱりすごい額だ……借金地獄はいやだ……。


「アールさんのとこに行こう……」


 僕は領収書を丁寧にポケットにしまって、アールさんの居る人事部に向かう。

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