第2話


 アールさんに休みを言い渡されてから1時間後、僕は近くの酒場にいた。


「急に休めって言われても……」


 突然の休みに何をしたらいいのかわからない僕は、クランのみんなに休日の過ごし方を聞いて今ここにいる。


「俺は、酒をのんでいるな!」

「趣味を楽しんでいるわ!」

「子供と一緒にすごす」

「恋人とデートかな」


 って言われたけど、恋人もいないし、もちろん子供もいない。趣味は、魔物の生態や解体に素材の勉強、でもそれは仕事と言われてしまい、クランの研究室からも追い出された。


 そのため、残ったお酒を飲みに来たんだけど……。


「はぁ……落ち着かない……いつもクランのみんなと来た時は、簡単に酔えるのに……」


 やはりみんなで飲まないと、楽しくないな……。

 一人で遊べないなんて遊び人失格かな?

 なんて思ったけど、もともと遊び人としてのスキルも《一緒に遊ぶ》くらいしか持ってないし……後は……《ラーニング》これもなんのスキルか分からないし……。


 はぁ……こんな事を考えてても、意味がない。さっさと今あるおつまみを食べたら、図書館にでも行って魔物の勉強をしよう。


 そう思って、皿に残っていたお肉をフォークで刺そうとしたら、僕のお皿に横からフォークが伸びてきて、それを横から奪われる。

 驚いて、フォークが伸びて来た方を見ると、真っ赤な髪を短く切って、身軽な服装に身を包んだ可愛い女の子がいた。


おはふみほおやすみをもふぁったんだっふぇもらったんだって?」

「もうリサ、口にもの入れたまま喋らないの! 先に口のなかのものを飲み込んで」


 僕がそう言うと、リサは僕から奪った肉をよく噛んで飲み込む。


「お休みもらったんだって?」

「どこで聞いたの? 休みもらったのって、ついさっきだったんだけど……」

「ふふふふ、さてどうやってだろうね」


 僕みたいな遊び人が大手クランの黄金郷エルドラドに入れたのは、実は彼女のおかげで、一緒に王都に出て来た僕達は、冒険者ギルドに入るために職業の鑑定をしてもらったんだ。

 その結果、僕は遊び人で彼女は盗賊の職業を神様からもらっていた。

 

 盗賊と言ったら、聞こえは悪いけど、ダンジョンや遺跡を探索するには絶対に斥候役をする職業が必要になる。盗賊はその斥候をする職業の一つなんだ。

 さらに盗賊はレベル上げると、盗賊の上級職に転職できるようになる。


 それに比べて僕の遊び人は、ダンジョンを探索するのに必要ないし、上級職も聞いたことがない。

 鑑定を受けた後、僕が自分のもらった職業が遊び人と知って絶望に打ちひしがれていると彼女が声をかけてくれた。


 その後、彼女の説得により一緒に黄金郷エルドラドの入団試験を受けるんだけど、そこで奇跡がおきた。

 なんと遊び人の僕が試験に合格する。

 まぁ、彼女は斥候役で、僕はクランの研究者枠での合格だったけど……。


 彼女は、僕と違い黄金郷エルドラドに入って、僅か一年で盗賊の上級職のレンジャーに転職している。

 そんなクランの仲間から一目をおかれる彼女だけど、一緒に村から出て来た遊び人の僕を気にかけてくれる、優しい友人。


 その優しい友人が僕を見て嬉しそうに笑っている。


「プレイはみんなが驚くほどずっと仕事をしてたから、みんなは心配していたんだよ」


 研究室の仲間にも似たような事を言われたけど冗談だと思っていた……まさかリサまでそんな事を言うなんて……。


「ほ、本当に?」

「本当だよ! プレイって休みの日もクランで仕事していたでしょう?」

「でも、あれは仕事と言うよりも、趣味で研究してたから……」

「あれはどう見ても仕事だよ! みんなもいつも言ってるよ、あいつはいつ休んでいるんだって」


 知らなかった……そんなふうに言われていたなんて……もしかして今回の事も心配してくれた誰かが、人事部に言ったのかな……。

 みんなに認められるの嬉しいけど、やっぱり僕は一人でこうしているより、クランでみんなと一緒に研究をしている方が楽しいかも……。


「でも、僕はどんな事をして休みを過ごすしたら良いのかわからないんだ……それに、僕は勉強する事が楽しいし」


 僕がそう言うと、リサが目を丸くして、その後に困ったような顔をしてたずねてくる。


「なら、私も休みだから、私につきあってくれる?」


 リサの提案は願ってもない事だから、僕は笑顔で返事をする。


「ああ、かまわないよ」

「なら、ついてきて!」


 そう言ってお会計を済ませた僕はリサと一緒に酒場を出る。

 そのまま機嫌が良さそうにスキップをするリサの後をついていくと、クランの訓練所についた。


「リサ、もしかして……」


 騙された……。


「うん! プレイ、一緒に体をうごかそ!」


 そう言った彼女は今から体を動かすためか、嬉しそうに準備運動をはじめる。


「でも、戦闘の訓練なんてここ2年ほどしてないよ!」


 なんとか訓練から逃げようと僕は彼女にそう言うが、彼女は僕の言葉を気にしないとばかりに話しはじめる。


「大丈夫、心配しないでプレイ。今からするのは訓練だけど半分遊びも入っているから!」


 遊び人の僕に気をつかったのだろうか?


「そうなの? でもいったい何をするの?」

「へへへへ、それはね……鬼ごっこ!」

「確かに、レンジャーになっても基礎訓練は、必要だと思うけど……この年で二人で鬼ごっこ?」


 冗談じゃないレンジャーの彼女と鬼ごっこ⁉ 天地がひっくりかえっても捕まえれる気がしない……そう思ったがリサは止まらない。


「じゃあ、プレイが鬼ね♪ 10数えたら追いかけて来てね」


 そう言って、リサは嬉しそうにしながら、もの凄いスピードでかけていく。

 仕方ないと僕もストレッチをして、10数える。


「じゃあ、いくよ!」

 そう言った瞬間、頭の中に声がひびく。


 (レンジャーと《一緒に遊ぶ》を実行します)


「えっ⁉」


 僕はその声に驚いて、辺りを見回すが、訓練所には僕とリサしかいない。


「プレイ! どうしたの⁉ はやく追いかけて!」

「ああ! 今いくよ!」


 きっと空耳だ、そう思って僕はリサに向かって走り出す。




「はぁ、はぁ、はぁ、もう動けない」


 10分後、僕は訓練所で大の字になって、寝転がっていた。


「はぁはぁ。やっぱり、プレイは基礎訓練もきっちりしてるよね?」

「はぁ、はぁ、ばれたか……確かに戦闘訓練はしてないけど、荷物運びでもいいから、ダンジョンや遺跡に入ってみたいから基礎訓練は毎日してるかな……」


 リサは僕がそう言うと、嬉しそうにうんうんと頷きながらとんでもない事を言う。


「なら、少し休んでからもう1回ね」

「えっ⁉ もう、いいよ!」

「ダメダメ、みんなにも見てもらって、プレイもダンジョンや遺跡に入れるって、知ってもらわないと!」

「え~! 無理だよ!」

「無理じゃない! プレイならできるよ! 少し休憩したら再開するからここで待っててね」

「⁉ わ、わかったよリサ」


 リサはそう言うと訓練所から出ていく。

 しかし、リサの目があまりにも真剣だったから、再び鬼ごっこをすることになってしまった……。




 しばらくの間、休んでいるとリサが訓練所に戻って来る。


「リサおかえり。あれ? なんか人が集まって来てない?」

「うん! だって私がみんなを呼んだんだもん♪」

「何をしてるの!」


 僕はリサの言葉を聞いて思わず叫んでしまう。

 だけど、リサは僕に言う。


「さっき言ったでしょう! みんなにプレイが一緒にダンジョンに入れる力があることを知ってもらうって!」

「あれって本気だったんだ……わかったよ……⁉」


 そう言ってあきらめた僕が立ち上がろうとした瞬間、再び声が聞こえる。


(《鬼ごっこ》をおぼえました。リサを対象に鬼ごっこを開始します。身体能力が向上します)


 何が起こっているんだ⁉ 身体能力の向上? なんだ? 力が溢れてくる⁉


「じゃあ10数えてね!」


 と、とりあえず、今はリサと鬼ごっこしないと。

 そう思い10数えると僕は走り出すために右足に力をこめる。


「えっ⁉」


 それは、思わず出た僕の声だ。僕は右足に力を込めた後、勢いよく走り出したんだけど、体が驚くほど軽い。

 先ほどまでは、絶対に追いつけないと思ったリサを訓練所の中で徐々に追いつめていく。


 そして……。


「タ、タッチ……」

「えっ⁉」

「「ええ~⁉️」」


 その声は、リサとまわりで見ていたみんなの声だった。

 僕がリサにタッチをした後、リサや仲間から質問責めにあう。


「おいプレイもしかして、新しい薬の開発に成功したのか⁉」

「いや、もしかして支援魔法を覚えたのか⁉ やっぱり遊び人じゃなかったのか?」

「真面目なプレイが遊び人だなんて、何かの冗談だと思っていたのよ!」


 みんなが口々に思い思いの言葉をかけてくる。その全てが温かい言葉で嬉しい……。

 普段なら、そう思えたと思うけど、今の僕は違った。

 突然、頭の中に響いた声はスキルの発動を宣言すると、その直後に身体能力が上昇した。


 その上昇のした身体能力は、レンジャーのリサに追いつくほど。

 僕自身が何が起こったか分からず混乱していて、みんなの言葉にもろくに返事ができない。

 だけど、そんな僕の意識をはっきりさせたのはリサの声だった。

 リサが、みんなを押しのけて僕のそばまで来る。


「プレイ凄い! もう1回もう1回してみよう!」

「う、うん」


 僕が混乱したまま再びリサを追いかける準備をすると、再び声が聞こえる。


(スキル《鬼ごっこの》を使いますか?)


 僕は心の中で、はいと答える。

 すると、先ほどとは違う言葉が返ってくる。


(スキルの範囲内に複数の対象者がいます、一緒に《鬼ごっこ》を開始しますか? それとも対象者を限定しますか?)


 僕はその声に、対象者全員と答える。


(複数の対象者がいるため、より身体能力の向上を行います)


 僕は、その声を聞き、リサを追いかけるために数を数えはじめる。


「じゃあ! リサいくよ!」


 そう言って、僕は右足に力を込めて地面をけった。


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