第3話 ゴブリンダンジョン

 迷宮ギルドから借りた剣を右に、左肘に小盾を装備して俺は数あるダンジョンの中から初心者ダンジョンとして有名な”ゴブリンの巣窟”に向かう。ギルドから出て左、真っ直ぐ行った先に迷宮転移陣がある。東門の近くだ。


 迷宮転移陣は迷宮証を持った人だけが使用できる特殊な魔法陣。行き先を頭の中で考えるだけでその迷宮へ転移できる優れものである。


 ”ゴブリンの巣窟”と念じれば他の人と同様に魔法陣が光を放つ。眩しさに目を閉じ、再び開けるとそこはもうダンジョン。薄暗がりの人工的な洞窟――”ゴブリンの巣窟”だ。



 今回俺が受けた依頼は『第六魔石×5の納品』。銀貨一枚だ。

 魔石には階位が設定されており、第六位階~第一位階まである。その魔石の階位は魔物の強さによって決定されていて最弱のゴブリンは第六位階である。


 ”ゴブリンの巣窟”の名前通り、早速発見した。探索開始してから5分も経っていない。緑色の肌に子供の身長、口からのぞかせる薄黄緑色の歯は醜い顔と相まって気持ち悪さをより一層引き立てる。


「ギィギィィイイイ」


 こちらを発見した途端にはげしい奇声を上げて突っ込んでくる。俺は息をそっと吐き、左肘の小盾を構え迎え撃つ。


 ドンッ!


 ゴブリンの勢いに乗った引っ掻きを小盾で弾き、態勢が崩れたところを剣で叩き切る。


 バコッ!


 借り物の剣は刃が鋭くないので肉を発ち切れない。しかし、打撃武器にはなるのでゴブリンにはしっかりと効いている。眼前で悶えているゴブリンの頭を狙って容赦なく叩き潰す。


 ベコッ!


 二度目の攻撃でゴブリンは黒い霧になりその姿を消し、代わりに親指大の小さな魔石が落ちている。不思議なことにダンジョンの魔物は命を散らすと魔石を落として消えるのだ。これは未だに解明されていない、迷宮七不思議の一つでもある。


 魔石を回収した俺は次の獲物を求めて探索を再開する。


 等間隔に置いてある淡く光る迷宮石の御蔭で視界は良好。人工的な造りが漂う綺麗に整地されている道を歩いていると、本日二体目のゴブリンだ。背中を向けて闊歩している。


 慎重に気付かれないように後ろからそーっと忍び寄る。村での獣狩りを思い出しながら確実に、息を殺して、こんなに緊張するのは初めて獣に襲われた時以来である。


 歩数にして後十歩と迫ったとき、ゴブリンは違和感を感じたのか突如としてこちらに振り向いた。目が合った瞬間ゴブリンはいい獲物を見つけたと言わんばかりにニチャっと口端を上げ、こちらに突撃してくる。


(まあ、そうなるよな)


 先程と同じ戦法だ。まずは突撃を小盾で受ける。


(いくら最弱の魔物と謂われようが、—―—当然ッ!)


 態勢が崩れた隙に渾身の一撃—―鈍い音が辺りに響きゴブリンは黒い霧になって消えた。


(獣以上の気配察知能力はあるよな)


 初ゴブリン討伐を経験して心に余裕ができた俺は呑気にそんなことを考えながら戦闘をしたのであった。


 それからも辺りを探索を続け、遭遇したら小盾、ドンッ!からの剣バコッ!と狩り続けた。ゴブリンを合計7体討伐したところで腹の虫が鳴り、切りも良かったので今日の探索は終了にした。


 ”ゴブリンの巣窟”を後にした俺はその足で迷宮ギルドに寄り依頼達成報告をした。昼間と同じ二十代の赤髪受付嬢だ。


「はい。確かに第六魔石×5ですね。こちらが報酬の銀貨一枚になります。また、ギルドから貸出した装備は左手奥の装備返却コーナーにお戻しください」

「分かりました。それとこの辺で一番安い宿ってどこかありますか?」

「ん~。一番安いかは断言できませんが……迷宮ギルド連携店の”宿り木の住処”なんてどうでしょうか? 一泊銀貨一枚とお安く、駆け出し探索者にも人気なのですが……」


 銀貨一枚か。当初考えていた安宿と同じくらい。それに迷宮ギルド連携店だから詐欺られることもないだろう。


 報酬の銀貨一枚を受け取り、装備を返却した俺はおすすめの宿”宿り木の住処”に向かう。


 迷宮ギルドが建っている大通りからそれて脇道に入り、更に裏通りを進むこと十分。途中途中で道を尋ね、やっとたどり着いた。看板にもしっかりと書いてある。


 しかし、中々に利便性が低い場所にあるもんだ。まあ値段が安いからしょうがないか。


 戦争が起こったときに被害を最初に受けるのは外側から、大通りや中心地はその分、値段が高くなってくる。そしてそこに住む人々の階級も変わってくる。貴族や大商人、英雄と呼ばれる探索者、所謂上流階級の人たちだ。


 全残高銀貨二枚の俺には利便性の高い場所に住むなんて土台無理な話ではあるがな。


「いらっしゃーい。一名様でしょうか?」

「ああ」


 扉を開けて中に入るとすぐに受付の人が元気よく尋ねてきた。


「朝食付きで銀貨一枚になります。桶一杯分の水は別途料金で銅貨一枚です」

「取り敢えず一泊と水も頼む」

「はーい。一泊水付きで合計銀貨一枚と銅貨一枚です。前払いになりますが大丈夫ですか?」


 俺は銀貨一枚と銅貨一枚を渡し代わりに203号室の鍵を受け取り部屋に向かった。水は後で届けてくれるらしい。




















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ダンジョンで『スキル製作』〜村の疎まれ者、迷宮都市にて覚醒す〜 生しらす@勢い作家 @nakks

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