第十一話 無能な王子


妖精王によって王の毒の治療がされたのち、毒だったことは伏せられたが、王が回復したということは広く皆に伝えられ、国中が喜びに沸いた。


このまま崩御されたら第一王子が即位してしまっていたはずなので、そのことを恐れていた第二王子派は特に喜んだ。




そしてひと月後、現王家一同が揃う復帰記念の夜会が開かれることになった。



「休んでいた分も取り戻さなくてはならんのに、パーティーの準備まで……手間をかける」


「いえ。あなたは昔から優秀だった。遅れを取り戻すなど容易いことでしょう」



休んでいた二年ほどは、各省の長官らが王の代行として分担して職務をこなしていた。

その分の国の動きを把握するため、王は病床より舞い戻りすぐさま動き出した。


しかし、ここハイディルベルク王国は小国だ。隅々まで確認しても大国のそれ程はない。

加えて西のデンシュルク帝国、北のダルゲシュアン国、南のビット国との関係も変わりなかった。

王が病気ということは知れ渡っていたが、まだ生きていたのでどうこうなることはなかったのだ。これで王が崩御し、無能な第一王子が即位していたら秒で侵略されていたかもしれないが。



そう、第一王子は無能なのだ。



それが周りに露見したのは、王が病に倒れてからのこと。



通常なら既に成人済みの王子、しかも第一子なのだから、立太子するなりしているはずが未だにしていなかった。


それは王が倒れたからだ、と王妃と第一王子派は言い張るが、実際は第二王子が成人するまで王太子を決めないという王の意向だったのだ。


第二王子が立太子することが決まっていたわけではないが、2人の王子が成人した時点で優秀なほうに国を任せたい、という考えを周りに伝えていた。先に第一王子を王太子としてしまっては、第二王子のほうが優れていた場合(いや、優れているのだが)ややこしいことになる。なので各所から何と言われようとも、王太子の指名は第二王子の成人を待ってからと言って譲らなかった。



王は、自身の息子のことなのだ、さすがに知っていた。第一王子よりも第二王子のほうが優れている、と。



王が倒れ、執務が割り振られたとき、各省は長官がまとめていたから問題はなかったが、やはり王政だけあって、最終的には王家の判断が必要だった。


通常であれば、王妃が執務を代行するのだが、平民の血が流れる子爵家育ちのフリーデには到底無理な話だった。責任の重さに逃げたのだ。

淑女教育は受けていたが、無理やり第一王子を身籠もって王子妃になり、その後すぐ現王が即位し王妃となったため、その時点では王子妃教育も王妃教育も成されていなかった。

しかし第一王子を産んでからも、王に好かれていなかった王妃は、王子宮にこもって子育てしかしていなかったため王の執務の代行などできようはずもなかった。

ならば第一王子にという話になったが、第一王子に仕事を任せても遅い、精度が低い、うるさい、と『嫌な部下(上司)だな三拍子』が揃っているようなものだったので、無能だという話が広まってしまった。


そして、王の執務は名目上第一王子が受けるものもあったが、その実ほぼ第二王子であるハルトヴィヒが行っていたのだ。

といっても、各省の上げてくる書類が的確で精密なので、「ほぼ目を通して決済するだけだからそんなに大変じゃないんだ。」と言って謙遜し、長官たちを持ち上げていた。

もちろん大変じゃないわけないのだが、そういうところが彼の好かれる所以なのだろう。






「皆の前に顔を出すのは久しぶりだな。きっと喜ばれよう」


「シュティルナー侯爵。ほんとうに、君の家には足を向けて寝られないな」


「ははっ、そうか。……エグモント、回復してよかったよ」


「ああ、ありがとう、ローマン」



幼少から側近として王の側に立つシュティルナー侯爵は、旧知の友でもあるエグモントの回復を心より喜んでいた。


しかしその表情は曇る。



「……ダチュラを手にしたものは、まだ判明していない」


「そうか……」


「とはいえ、心当たりはあるのだろう?」


「……。」



王の顔に影が掛かり、表情が見えない。


心当たりは、ある。

王を恨む者か、王が死んで得をするものか。


ほぼ間違いなく、どちらかが犯人だろう。





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