第十話 側妃ガブリエレ

私はガブリエレ。現国王の側妃です。18年前、第二王子のハルトヴィヒを生みました。


由緒あるフロイデンタール公爵家の娘だった私は、幼い頃から第一王子と婚約を結んでいました。

第一王子といっても兄弟はいませんでしたので、貴族学園に入る頃には即位することが決まり、王太子となりました。そのときの式典はとても豪華なもので、国中の民がお祝いしていました。



そう、私と王は昔から仲が良く、国のためにあれやこれやとよく議論していました。二人きりでお茶会をしたり、馬に乗って草原を駆けたり、市井へ出掛けることもありました。


しかし、学園に通い始めて少し経った頃……どこにでもいるのです。婚約者がいても構わず猛アピールしてくる令嬢が。次期国王ですから、仕方ないとは思いますけれど、やはり気持ちの良いものではありませんでした。


王子にアピールするものはいましたが、さすがに臣下でも最高位である公爵家の令嬢をいじめるような方はいませんでした。なので、目をつぶればそれなりに平和な学園生活でした。



そのはずだったのですが、卒業間近に事件が起こります。大事件です。私の人生を変えたのですから……。



その話は表沙汰にはなっていないけれど、婚約者である私には伝えられました。




王子が、子爵家の令嬢を孕ませたというのです。



無理やり、令嬢を襲ったのだと。




もちろん私は信じられませんでした。

その令嬢というのも、王子に言い寄っていたあの人でしたから。


彼女には散々注意をしていたのです。貴族令嬢としての礼儀がなっていないと。

しかしいくら言ってもそれが改善されることはありませんでした。

それだけでなく、彼女は私が陰湿な嫌がらせをしていると言い出したこともあります。


そんな令嬢でしたから、王子が無理やり襲ったなんて信じられるはずがありません。



王子は私にこれ以上彼女、フリーデさんに近づかないようにとおっしゃいました。関わることで私に危害が及ぶことを懸念なさったようです。学園を卒業すればもう関わらないのだし、私が愛しているのはガブリエレだから、と。


その後は……あの人はフリーデさんを強く諫めることもせず、傍目に見たらデレデレと鼻の下を伸ばしているように見えました。だんだんと私と過ごす時間が減り、彼女といるようになって……。


ですが私は、『愛してる』という言葉を……無理矢理信じて、最終学年も終わりの頃には彼女の振る舞いもあの人の態度も見て見ぬふりをして過ごしました。







事件後……私は事情を説明してもらいたくて王子に面会を申し込みました。

しかし、王子は謹慎中で会わせてもらえなかったのです。



そして、そのまま私たちは学園を卒業しました。




その後すぐに、王子とフリーデさんの結婚式と同時に即位式が行われ、エグモント様は国王となりました。……フリーデさんが、王妃になりました。


王子妃に、そして王妃になるために私が学んできたことは、すべて無駄になったと思いました。




しかしこの時点でも、私と彼との婚約は、解消されることはありませんでした。




話をすることができたのは、だいぶ後になってからでした。王は、フリーデさんとはどうしてこんなことになったか、わからないとおっしゃいます。

気がついたときにはもう、自室で謹慎させられていた、と。



そんな状態だったので、何かしらの薬が使われたことは確かだと言うのですが、証拠が何ひとつ出てこなかったとのことです。


しかし、経緯はどうあれ孕んだのは王家の子です。捨て置くわけにはいかず、しかも醜聞を知られるわけにはいかなかったから、仕方なく王妃にしたそうです。


王妃は、仕方なくでなれるものではないと思いましたけれど。


ただの男性の言い逃れではないのかとも思いましたが、それでも私は、幼い頃から一緒に過ごしてきたエグモント様を信じたかった。



王は、側妃としてでも私に側にいてほしいとおっしゃったのです。




私は、請われるままに側妃として王の元へ参りました。




そして、初夜を迎えたあの日のことは忘れません。




王は私の体を貪るように求め、夢中で腰を打ちつけてきました。私は破瓜の痛みから、止めてくれと泣きながら訴えましたが、その言葉は王に届くことはありませんでした。


散々な初夜を経験したので、私はその行為が痛くて恐ろしいものだと思いました。

しかし妃として召し上げられたのですから、側妃といえども子を成すことが務め。

何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も、求められるままに身を任せました。



その頃にはもう、私は王のことが信じられなくなりました。



王の、性に対する異常なまでの執着が見えたから……。




きっと




フリーデさんとのことも――。











私はあの人を、許しません。


きっと、この先一生恨み続けるでしょう。


でもそれは、仕方ありませんよね?




あなたは、




それだけのことをしたのだから……。






「だからあなたが邪魔なのです。」





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