第7話 ビルド
めるりの話で先程の戦闘のことを思い出したチトは、不意にこう切り出した。
「てかみんなヤバいことに気づいたんだけどさ」
『なにが?』
『どうした』
『どうせ大したことない』
「もしかしてなんだけど、私このゲームへたくそ?」
『うん』
『今更?』
『元からお前こういうの苦手だろ』
先程の戦闘を思い出していたチトは、もちろん傍から見ていてめるりは下手だったのだが、冷静に考えてみると自分もめるりと大差なかったのではと思い返していたのだ。
「フォローゼロ!いやでもめりるよりは上手かったよね!?」
『目くそ鼻くそ』
『いやお前の方が下手だね』
『なんでお前めるりに偉そうにしてるんだろうってずっと思ってた』
「マジで!?」
などと言いながらも、ケラケラと笑うチト。
チトはリスナーと数回言い合うと、諦めたように負けを認めた。
「やー、もうわかった。めるりと同じくらいってことで認めるわ」
『は?』
『下な?』
「それでさ、まあぶっちゃけわかってたのよ、下手だろうなって」
『おう』
『俺も知ってた』
「だから先輩たちと話し合ってさ、私でも出来そうなポジション考えてもらってそのビルドで育てていこうと思ってるんだよね」
『ええやん』
『用意周到やな』
『どんな?』
チトの発言にあーではないかこーではないかと予想を繰り広げだすリスナーたち。
チトはそんな予想を少しの間違う違うと言いながら眺め、突然の思い付きでアンケートを取ることにした。
「じゃあちょっとアンケート…………
1 攻撃特化
2 魔法攻撃特化
3 HP特化
4 バランス
これで!十秒ね!」
『333』
『1』
『11111』
『444』
一気に流れ出すコメント欄。チトは十秒数えてからアンケートを締め切ると、その結果を表示させた。
「えーっと、1が32%、2が13%、3が43%、4が12%で3が一番多いってことで…………正解!」
『耐久かよ』
『戦うことを諦めるな』
『ブレイカー?』
『ラックでいいだろ』
結局アンケートと正解が発表されても、思い思いの主張をやめないリスナーたち。
チトはそんなリスナーたちに、HP特化に決まった経緯と理由を語り始めた。
「いや私もラックでいいと思ってたんだけどね、これだけ人多いと私一人がラック上げても一人でやるのと比べて恩恵薄れるからあんま意味ないらしい!」
『そう』
『なるほどね』
『あーたしかに』
そもそもこのVLSでは、レベルが上がるとステータスポイントが貰え、それを自由に割り振ることができるというシステムだ。そしてその割り振れるステータスには、戦闘能力と非戦闘能力が与えられている。今回話に出ているラックの場合、戦闘時は『与ダメージが大きくなりやすく、被ダメージが少なくなりやすい』非戦闘時は『ドロップ率など、運要素を絡むものの確率が上がる』といった感じだ。
つまり、一人の時はドロップ率が倍になれば時間が半分で済むが、それを千人でやるとなると、一人がドロップ率を倍にしても時間はほとんど変わらないということになる。
「あと、やっぱりみんなも私が戦わないと退屈でしょ?だから何かいいのがないかって話になって、そこで耐久寄りの『ブレイカー』とかいう役割なら私でもできるってメイさんにオススメされたんだよね」
『なにそれ』
『にしても防御でよくね?』
『HP盛るのははヒーラーの負担がでかい』
「いや防御はね…………や、ちょっと待ってまずはブレイカーの説明から!
えっと、なんかこのゲームめちゃくちゃ複雑で、まず属性がいっぱいあるのね?その相性関係も複雑なんだけど、とりあえず武器とか防具には属性が設定されてるの」
『うん』
『それはわかる』
「それで有利な属性で攻撃すると、相手に与えるダメージも増えるけど、それ以上に耐久値をめっちゃ減らせるらしいの」
『ほえー』
『耐久値?』
「耐久値はそのまま装備の耐久値!ゼロになると装備が壊れる!」
つまり、ブレイカーの役割とはこうだ。
例えば水属性は火属性に有利なのだが、相手が火属性の防具を胴体に着けている時に水属性の武器で胴体を攻撃すると、相手のキャラクターに与えるダメージに倍率がかかる。ところが、これはあくまでダメージに倍率を掛けるだけなので、元のダメージが低い場合は大した恩恵が得られない。
しかしその一方で、相手の防具に攻撃すると耐久値を減らせるという仕様があるのだが、こちらは自分の攻撃力や相手の防御力に関わらず一定の値となる。なので、たとえ攻撃力が低くとも、相手の防具に攻撃を入れるだけでその耐久値を減らせるという大きな影響があるのだ。そしてこれは属性関係による影響が大きく、攻撃力は低いが有利属性で攻撃を繰り返して相手の防具の破壊を狙うのが『ブレイカー』と呼ばれる戦い方というわけだ。
「それでさ、なんか装備を切り替えるのが割とすぐできるらしくて、このゲームのPvPって相手の装備次第で装備をコロコロ変えて、相手のストレージの容量とか考えながら「あの防具さえ壊せれば有利に立ち回れるな」とか「相手の防具火が一貫してるから火で攻めよう」とか、逆に「火に弱めの防具だけ見せといて、相手が火でフィニッシュ狙ってくるタイミングで火に強い防具出してカウンター狙う」とかなんか色々あるらしいのよ。…………そんな考えるの無理じゃん?」
『むり』
『お前には無理だ』
『深すぎん?』
『もう逆にクソゲーだろ』
「シンプルに私が下手なのもあるし、とりあえずHP上げて倒されないようにしながら、相手の防具に合わせて有利な属性の魔法スキル撃つだけでいいブレイカーでいくことにしたってわけ!」
『いいじゃん』
『スキルってどうやって手に入れるん?』
「魔法スキルはなんかアイテムで覚えるらしい!から属性揃えるの難しいらしいけどそこはみんながいるから!」
『任せろ』
『なんでHP?』
「あー、なんか防御とかって無視されることが多いらしいんだよね」
それもメイの受け売りなのだが、実際上級者になればなるほど防御をもろともしなくなる。
何故かというと、VLSでは攻撃が通った場所によって影響を与える防御力が変化するのだ。例えば、胴体を防具の上から攻撃した場合は防御力が100%影響するのだが、防具に守られていない首を攻撃された場合、防御力は0%しか影響しない。つまり、その生物にとって急所であるところを攻撃すれば、防御力はもはや意味がないものとなってしまうのだ。
もちろん上手いプレイヤーであれば急所を防ぎながら立ち回れるが、初心者やあまり上手くないプレイヤーではそうもいかない。となると、確実に頼れる耐久力はHPとなるのだ。
「それにほら、ヒーラーの負担でかいって言うけど百人ヒーラー連れてけば問題ないでしょ」
『www』
『数が正義だあ』
最後にはそんな冗談を交えながら、育成方針を語るチトだったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます