第8話 馬と食料
自分の育成方針を語ったチトは、今度は武器についての話を始めた。
「それよりみんな早く強い武器見つけてきてよ」
『武器ってどうやって手に入れるんだ?』
『お前ら仕事だぞ』
『探してます』
「武器ドロップじゃない?あとどうせ作れるでしょ。なんなら家みたいにスキルじゃなくて自分の手でも加工できそう」
『できるぞ』
『素材あればできる』
「なんでもできるじゃん」
できるぞというコメントを見て笑い出すチト。
実際VLSでは全てのアイテムを自作することが可能で、使用された素材や作成工程を参照されてそのアイテムのステータスが決定される。そしてその際には乱数による変動も行われるため、全く同じ素材で全く同じ工程を踏んでも出来上がるアイテムの差があり、それがアイテム制作沼を深くしている。
「えー、ちょっとなんか作りたくない?何作っても多分アイテムにはなるんでしょ?」
『なる』
『ゴミになるぞ』
『インテリアとかも作れる』
『武器自作しろ』
チトの好奇心から、あれを作ろうこれを作ろうと盛り上がるチトとリスナーたち。
そしてそんなチトたちを現実に引き戻すように、レイからのチャットが送られてきた。
レイ(人事部長 木材回収・調達部長)【タイミング悪くてすみません。家に馬を連れてきたので少し来てください】
「馬!?ちょっとみんな遊んでる場合じゃない!」
『いいね』
『馬いいね』
レイからのメッセージを見て、すっかりそちらの話に飛びついたチト。
「家って私の家だよね?」
『そうだろ』
『うん』
「家が私を呼んでる!…………私行かなきゃ」
チトがそんな茶番を挟みつつ家へと直行すると、ちゃんぽんに命じておいた位置にちゃんと中サイズの家が完成しており、その近くにはレイを含め大勢のプレイヤーと四頭の馬がいた。
「馬だー!すごい!よくこんなとこまで連れてきたね!」
『すごいな』
『お前ら集まりすぎだろw』
『かわいいな馬』
興奮しながらも、馬を刺激しないようにゆっくりと馬に近づいていくチト。
そしてチトが馬に近づいている間に、レイから再びチャットが届いてきた。
レイ(人事部長 木材回収・調達部長)【輸送に馬を使う予定だったのですが、さすがにこの山道は馬では厳しいのでそちらで育てて進化させて欲しいです】
「進化!?何それ、育てるのは全然いいんだけど」
『どうせやらせるしな』
『馬が進化するの?』
『このゲーム何でも進化するぞ』
チトが説明を求めてからしばらくして、レイからの補足チャットが送られてくる。
レイ(人事部長 木材回収・調達部長)【VLSでは基本どんな生き物でも進化して、今まで生きてきた環境に適応した姿になるんです。ただこの元野生の馬だと今まで普通に生きていた分普通の進化になってしまうので、こっちで仔馬を産ませてからそれを育てて進化させて、この山道でも進める馬にして欲しいということです】
「へー!わかったわかった!責任もってうちで大事に育てます!」
『すごいな』
『変に凝ってんな』
『ここだと崖登れるようになるとか?』
「えーどうなんだろ!どんな進化か気になるね!」
チトが進化という機能に期待を寄せると、そんなチトの期待を更に引き上げるようなコメントがどんどんと流れだしてきた。
『とんでも進化とかもあるぞ』
『結構ランダム性あるから運』
『そこなら、崖登れるとかジャンプ力がすごくなるとかいっそ穴掘って進めるようになるとか?』
「えーめっちゃいいじゃん!ちょっと私用にも育てよ!最初に産まれたの私の専用馬ね!」
『いいね』
『楽しみだな』
未来に思いを馳せて、期待に胸を膨らませるチト。しかしそんなチトの興奮も、ふと思いついた疑問ですぐにかき消されることとなる。
「…………え、てかちょっと待って。馬ってどうやって飼うの?ニンジンとかあげればいいの?こんなところに馬が食べそうなものなくない?」
『ないよ』
『ない』
「てか馬どころか私たちの食料もなくね!?」
『www』
『今気づいたん?』
『みんな餓死だあ』
「ちょっとヤバいって!みんな早く言ってよ!ちょっと…………食料部隊作らなきゃ!」
『おっそ』
『もう餓死してる人いるぞ』
『道中で狩りサボってたやつ死んでそう』
リスナーにたんまりと食料を貢がれていたチトには思いもしなかったことだが、当然こんな岩山で人が食べられるものはせいぜい他の動物や魔物の肉くらいしかない。それもこんな大集団の全員分があるはずもないので、リスナーたちのコメントの通り、既に餓死しそうなプレイヤーもちらほらと出始めていたのだ。
そんなコメントを見ながら、慌てて食料の確保に舵を切るチト。するととある一人のプレイヤーがチトの前にさっそうと現れ、小麦やジャガイモといった食料を大量に投げつけてきた。
「え、なになになに!?なんでそんなに持ってるの!?」
『www』
『すげえ主張するやん』
『アピールやばw』
「ちょっと…………KEN?KENこれなに!?」
KEN【食料なら任せてください。既に麓に畑出来てます】
「おまっ…………そういうの待ってたんだよこういう人を!」
『www』
『すげえ』
『ガチ有能』
「みんなもどんどんこれしてね?言われてからじゃ遅いんだよ?」
『言われてからは二流』
『食料のKEN』
KENの肩をバシバシと叩きながらそんなことを言い始めるチト。
チトは周りに集まっているプレイヤーに何度かそう言って聞かせると、再びKENの方へと振り返った。
「KENニンジンは?ニンジン」
KEN【ニンジンはないです】
「じゃあダメじゃん」
『無能』
『wwwww』
『ひっど』
「今すぐ作ってこい!」
チトに背中を叩かれてすぐさま駈け出していくKEN。
チトはそんなKENの背中を見ながら、ギルドの方から食料部隊長の座を渡すのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます