第6話 クラフト
とはいえ、さすがにめるりだけではどうしようもないと判断したチトは、ちゃんぽんにフォローを命じてから改めてリスナーに作戦の説明をした。
「大丈夫大丈夫みんな。意外とこういうのって初心者がビギナーズラックでサラッと見つけてくるものだから」
『運頼りかよ』
『最初と言ってることが違え』
『www』
『わからんでもないが』
「あ、じゃああれだ、帰ってきたら私が作った家プレゼントしてあげよう!ドッキリで」
『いいね』
『うらやま』
『もうドッキリになってないぞ』
チトはそう言うと、家を建てるべく手持ちのアイテムを確認した。
しかし道中雑談ばかりしていたチトの手持ちには当然何もなく、慌てたように呼び掛ける。
「やばいみんなサボってたのがバレる!ちょっと誰か木材!周りにバレないようにこっそりちょうだい!あと何?何が必要なの?てか家ってどうやって建てるの?」
『木と石』
『石で作れ』
『木だとすぐ壊されるぞ』
『クラフトからスキルでいける』
「木弱い?まあ一旦木でいいでしょ!てか私の家じゃないし」
『www』
『そうだな』
『木でいいや』
「きたきたきた!そうそうちょっと周りから見えないようにこっそりね」
『バレてない』
『完璧』
『バレてます』
チトの要望通り、何の意味もないのに周りから死角になっているところで資材の受け渡しをするチトと近くにいたプレイヤー。
そして資材の受け渡しが完了すると、チトは指示コメントに従いながらクラフトの家を建てるスキルを選択した。するとリスナーから貢がれた木材や石材が消費され、チトの身体が本人の意思とは関係なく自動的に動き始める。
「うわあちょっと!勝手に動いてる勝手に!」
『クラフトはスキル使えば全部自動だぞ』
『わかる』
『最初は違和感すごい』
そんなチトのリアクションもつかの間、現実ではありえないくらいの速度でチトの手により木の小屋が建てられた。
「はっや!…………っていうかちょっと待って、さっきめるりは何してたの?」
『箱作ってたよな』
『たしかに』
『www』
そんなチトの疑問も当然のことで、今回チトは自分の家じゃないからと最小サイズの家をクラフトしたのだが、先程ガイアウルフに壊されていためるりの作っていたものは、目の前に完成した小屋よりも遥かに小さい木の箱だったのだ。
そしてそんなチトの疑問に答えるように、有識者からのコメントが集う。
『あれ多分自力で作る家の方だな』
『屋根と扉があれば家判定されるから、スキル使わなくても自力で家作れる』
『集落作る時はいちいち建てるの邪魔だから自力でリス箱作る』
リス箱というのはリスポーン箱の略称で、自分の家を作るとそこがリスポーン場所に設定されるため、リスポーン地点を作りたいだけなら小さな屋根と扉だけつけた箱を設置するのが定石なのだ。
「え、じゃあめるりって上級者だったの!?」
『うそだろwww』
『ないだろ』
『見様見真似でやってたんじゃね』
「あ、それか!スキルわからなくて周りの上級者見ながら箱作ってたんだ!」
『あれ屋根も扉もなかったからな』
『マジでただの箱』
『www』
『かわいい』
たしかにチトの予想通り、ここの周囲にはリス箱がところどころに置かれている。
「誰か教えてあげればよかったのに」
『www』
『無慈悲かお前ら』
「てかさ、これどうすればいいの?めるりの家にしたいんだけど」
『家と一緒に加入申請するんだっけ』
『レイに頼め』
『お前が作った家だからもうギルドハウスになってるぞ』
『ハウスID出せ』
「え、ちょっと、レイー!どうすればいいのこれ!」
レイ(人事部長 木材回収・調達部長)【ハウスID見せてください】
「なにそれ!?」
無知なチトが、リスナーの指示に従いながらハウスIDを確認する。
「メニュー?メニューのクラフトの…………あ!あったあった!これね、KG86Y───」
チトが十二桁のハウスIDを繰り返し読み上げると、再びレイからのチャットが送られてくる。
レイ(人事部長 木材回収・調達部長)【できました】
「おー!ありがとう!」
『有能』
『助かる』
チトはそんなレイの報告を見てから、ギルドの方を確認する。
「えーっとめるりめるり…………ってちょっと待って人増えすぎ」
『317www』
『やっば』
『さっきの家が自分の家じゃなくなってればできてる』
「あ、そっか!んじゃメニューの…………あ、なくなってる!できてるわ!」
『いいね』
チトはきちんと先程作った家がめるりのものになっていることを確認したうえで、ギルドメンバーの数が急激に増えていた件について再び言及した。
「ちょっとみんなこの短期間で増えすぎでしょ!レイ仕事しすぎ!」
『また増えているぞ』
『今328』
『まあ承認するだけだしな』
「いや、にしてもでしょ!あ、そうだ、あとめるりをダンジョン捜索隊長にしないと」
『頼りねえ』
『マスコットにしよう』
そんなこんなで、一同はめるりに関する話題でしばらく盛り上がったのだった。
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