第5話 めるり


 それから、リスナーたちと言い合いながら人を見定めていくチト。そしてそんなチトの目に、とある一人の女が入ってきた。


「ちょ、みんな、あの人すごくない?」


『誰?』

『どこ』


「あれ、あのピンクの」


『www』

『何してんだあれ』

『へたくそw』


 ピンクのと呼ばれた人は、薄ピンク色のショートヘアをしたゆるふわといった感じの女で、近くに湧いていた狼型の魔物───ガイアウルフに向かってナイフを振り回しながらわちゃわちゃしていた。

 そしてその足元には見様見真似で作ったと思われる木の箱───もとい家がぐちゃぐちゃに荒らされており、ガイアウルフもその女の人をどこか小馬鹿にするように翻弄していた。


「すごいめっちゃがんばってる!かわいい」


『www』

『引き腰すぎる』

『まあこんなもんだろ』


「よし待ってろ!今から助けるぞ!」


『いけえええええ』

『死ぬなよ』


 奮闘するその女の人を助けるように突っこんでいくチト。

 しかしそんなチトもVLSに関してはずぶの素人だったため、結局二人でわちゃわちゃとガイアウルフに翻弄される結果となった。


「ちょっと速い速い!こんなん当たるわけないじゃん!」


『へたくそwww』

『よっわ』

『これはひどい』


「誰か助けてちょっと!ちゃんぽん!ちゃんぽーん!死ぬ!死ぬ!」


 死ぬなどと叫んでいるチトだが、実際はガイアウルフに小突かれて少しHPが削れただけだ。

 とはいえ助けを求められたちゃんぽんは呼ばれた直後にさっそうと現れると、華麗なナイフ捌きでガイアウルフを一蹴した。


『うっま』

『うますぎwww』

『こんくらい普通だろ』


 ちゃんぽんのおかげでなんとか危機を脱したチトとその女の人。チトは息を切らすその女の人の頭上に表示されている名前を確認すると、どこか嬉しそうにその名前を呼びあげた。


「ちょっとそこの…………めるり!めるりちゃん!」


『振り向いたぞ』

『かわいい』


 チトがめるりという頭上に表示されていたその名前を呼びあげると、めるりはキョトンとした表情でチトの方に振り向いた。


「めるりちゃんフレ申送ったんだけどわかる?」


『www』

『ガチの初心者やん』


 チトの言葉にあたふたとし始めるめるり。チトはその様子を見て笑いながらフレンド欄を確認していると、しばらくしてからそこにめるりという名前が表示された。


「おーきた!ちょっとめるりちゃん、ダンジョンってわかる?」


『こいつにやらせるの!?』

『絶対知らんだろ』

『わかるわけねえ』


 チトの問いに、うんともすんとも言わないめるり。チトはめるりからの応答チャットが中々送られて来ないので、心配するように声を掛けた。


「ちょ、めるりちゃんチャットは?わからない?」


『来ないなw』

『ダメだこりゃ』


 チトがめるりに問いかけてからしばらく経ち。ようやく送られてきたと思ったチャットは、めるりからのものでは無かった。


 ちゃんぽん(参謀)【めるりさんずっとVCでわかりませんって言っています】


『wwwwwww』

『無能』

『かわいい』


 ちゃんぽんからのチャットに手を叩いて笑い声を上げるチト。

 チトは戸惑うめるりの肩に手を回すと、ポンポンと肩を叩いてめるりの顔を覗き込んだ。


「よし!めるり、ダンジョン。ダンジョン探せるよね?」


『パワハラ』

『www』

『無理だろwww』


 ブンブンと首を振るめるり。しかしチトはそんなめるりを気にもとめず、言葉を続けた。


「大丈夫!わからなかったらみんなが優しく教えてくれるから!見つけられなくてもいいし、散歩してるって思えばいいから!」


 チトの顔を見ながら、おそらく何かを喋っているめるり。しかし当然それはチトに伝わらないので、チトは無理やり話を押し進めた。


「よしじゃあ行ってこい!ダンジョン探してきて探してきて!」


『ひっど』

『可哀想』

『鬼』


 チトはそんな戸惑うめるりの背中を強引に押して、無理やりダンジョン捜索へと向かわせたのだった。

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