第4話 初拠点

「いやー、結局山まで来ちゃったね」


『しゃーない』

『妥協するよかマシ』


 VLS3リリース二日目。初日と二日目の半分ほどを移動に費やしたチト一行は、三人が初期リスポーン地点に選んだ場所からだいぶ離れた『ザンブルロックマウンテン』という所までやって来ていた。

 ザンブルロックマウンテンはその名の通り岩山で、木が生い茂っているような山では無い。更に山肌も隆起がかなり激しく、とても人が住めるような場所ではなかった。

 チトはそんなザンブルロックマウンテンを前に、少しばかり興奮したように声を上げる。


「ここめっちゃ良くない!?絶対ダンジョンとかあるでしょ!」


『レア鉱石とか取れそう』

『絶対強い魔物いる』

『初心者が手を出す場所じゃない』

『ここにしろ』

『マジでやめとけ』


 チトの背中を押すコメントと、冷静にチトを止めようとするコメント。その割合は半々といった感じだったが、そもそも最初からコメントに従う気が無いチトには全く関係の無いことだった。


「みんな最初の拠点ここにするぞ!!もうちょっと登ったとこに拠点作ろう!!」


『それでいい』

『マジ?』

『終わったな』


 しばらく移動が続いて流れも緩やかになっていたコメント欄が、加速し始める。

 チトはそんな荒れているとも言えるようなコメントを眺めながら、リスナーを諭すように語りかけた。


「みんな大丈夫大丈夫マジで。ほら見てよ」


 そう言いながら後ろを振り向くチト。そこには昨日からさらに数を増したリスナーたちが、うじゃうじゃと後ろを着いてきていた。一目見ただけでも、その数はざっと五百を超えている。


「やっぱりみんなニートだから、参加率がヤバい!先行組もまだまだいるし、木材も順調に集まってるらしいから!とりあえずレイに調達頼んどきながら、各自持ってる資材でどんどん家建ててくよ!」


『ニートちゃうわ』

『ようやく始まったな』

『ここ何が取れるん?』


 息を切らしながら必死に喋るチト。それもこの道と言えるにも足りない山道を通っていれば当然のことで、周囲のプレイヤーも皆が辛そうに山道を進んでいた。


「何があるかはわからないけど、とりあえずダンジョンは探したい!」


 ダンジョンというのは、ダンジョンエリアと呼ばれるゾーンのことだ。ダンジョンエリアでは特に強い魔物が出現したり、時には魔族が住んでいる場合もある。さらには、プレイヤーは居るだけでHPが徐々に減っていくという非常に危険なエリアだ。

 しかし、当然危険な分見返りも多く、ダンジョンエリアにいる魔物のみがドロップする貴重なアイテムやレアな素材を採集することができるハイリスクハイリターンな場所となっている。


「とりあえずあのちょっと平坦になってる場所まで行って、そこに拠点作ろう!」


『平坦?』

『どこ?』

『いっそ頂上まで行けば?』


 そんなコメントを無視しながら、チトは周囲のプレイヤーに向かって声を張り上げた。


「はーい!ここら辺一帯を拠点にするのでみんな各自で家建てて!そしたらレイにメッセージ送ってギルドに入れてもらって!」


『雑』

『こんなところにどうやって家建てるんだよw』


「よしみんな、それで私たちは今からダンジョン捜索隊を編成しよう!ちょっとちゃんぽん来てー!」


『いいね』

『ダンジョン見つけてどうすんの?』


「そりゃゾンビアタックよ!魔族いたら話とか聞きたいし!」


『話通じるの?』

『56せ』


 このVLSシリーズにおいて、プレイヤーと敵対することになる種族は、数は少ないが個人個人が強く、群れの意識が低いという特徴を持っているというのが毎回のことだ。それ故にあまりプレイヤーに敵対意識を持っていない個体も存在し、中には和平を唱えたり、プレイヤー側に肩入れするものまで出るほど各NPCが自由に考えて行動している。


「まあぶっちゃけまだ絶対にレベル足りてないから、そこまで本気じゃないけどね。見つけておくに越したことはないし、周辺の地理も把握しておきたいし!というわけで、家作ってるとこ見て手際良さそうな人に声掛けてこ」


『お前らがんばれ』

『いいね』


 そんなわけで、チトはちゃんぽんに自分の家を作っておくように命じると、いい人材を探して周辺をうろつき始めたのだった。


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