第3話 レイ


「ちょっ…………いったん離れていったん離れて!離れて離れて!離れろ!」


『多すぎw』


 チトがそう呼びかけた刹那。チトの周りは、集団パニックでも起こったかのようにチトに向かって駆け寄ってくるプレイヤーで埋め尽くされることとなった。


「みんなやる気ありすぎでしょ!木こりしかいないのかうちのチームは」


『伐採自身ニキ』

『フレンド登録してもらえるからなw』


「えーちょっと本当にちゃんとこのゲームわかってる人!マジで!多分なんか簡易的な拠点とか森の中に作ってやってもらうことになると思うし、そういうのちゃんとわかってる人!」


 チトが改めてその条件で募集を掛けると、面白いくらいに周囲に集まってきていた人たちからの反応が少なくなってしまった。


『お前らw』

『気持ちはわかるぞ』


 チトはそんな中でもなおアピールをしてきた人の中から、今度は綺麗な紅いロングヘアーをした女性を指名した。


「じゃあそこのー…………レイ!レイ行ける!?フレンド送った!」


 レイ【とりあえず十五人ほど人が欲しいです】


「意識高っ!」


『挨拶もなしにw』

『本気や』


 チトがフレンド登録を済ませてからものの数秒で話を進めるレイというプレイヤー。

 それだけでもチトが思わずツッコんでしまったくらいなのに、レイはさらに追い打ちをかけるようにチャットを送ってきた。


 レイ【それと、木材回収部隊の拠点から遠くに本拠点を構えるなら、輸送部隊も欲しいところです】


「はい合格。実はそれを提案できるレベルの人なのか試してたんだよね」


『うそつけwww』

『見栄張るな』

『レイについていけ』


「えーもうよくわからないからその辺全部任せる!木材回収・調達部隊で!もうここにいる人好きなだけ人持ってって!どうせ木切るくらいしかできない人しかいないから!」


『www』

『お前らここで反応するなw』


 そんなチトの言葉と共に、先程まで立ち止まっていた人たちが謎の盛り上がりを見せる。

 そしてチトがそれを見てこの話を一旦終わりにしようとした時、ふと一つのコメントが目に入った。


『ギルド作らんの?』


 そのコメントを見てすっかり存在を忘れていたことギルドのことを思いだしたチトは、慌ててその話題を口にした。


「そうだギルドギルド!ギルド作らないと!」


 そう言いながらシステムを開いてギルドを作成するチト。ギルド名のところに『チト王国』と入力すると、当然そんな名前が既に使われているわけもなくすぐさまギルドは作成された。


「できた!全員入って入って!」


『入れん』

『このゲームのギルド手動で承認しないと入れないよ』


「え、うそ!?自動にはできないの!?」


『できない』

『なんなら最初の十人以降はもっとめんどいぞ』


「ゴミじゃん!」


『gm言うな』

『www』


 十人以降はもっとめんどいというコメントの通り、VLSのギルドシステムは色々優しくない設定が多かった。例えばこの十人以降という話は、最初は手動で承認するだけで十人までは加入できるのだが、それ以降は『ギルドハウスに認定された入居者数が最大でない家に加入希望プレイヤーを割り振る』又は『既にそのプレイヤーが入居している家をギルドハウスに認定する』と同時にギルドメンバーに承認するという形でないと加入できないという話なのだ。つまりは、住所がないなら非国民と言われているようなものである。


「めんどくさ!じゃああれだ、そっちも担当者を作るしかない!人事部人事部」


『本格的すぎるだろw』

『これってゲームだよな?』

『ゲームなわけないだろ』

『ここが現実』


 一旦自分で理解することを諦めたチトは、今度はギルドメンバーに関しての仕事をしてくれる人を募集した。

 しかしその募集は誰にも反応されることなく、誰もが先生から顔を背けるようにチトから目を逸らす。


「ちょっとみんなさっきまでの勢いは!?」


『www』

『面倒事は嫌だよなそりゃw』


 しかしまだ神は見捨てていなかったのか、困り果てるチトにとある人物から救いの手が差し伸べられる。


 レイ【私がやりましょうか?木材回収も序盤だけでしょうし】


「マジで!?じゃあ頼む!」


『神』

『ガチ有能』

『もう全部レイでええやん』


 レイのメッセージで気分を良くしたチトは、ひとまずちゃんぽんとレイを加入させた後に、有識者のコメントに素直に従いながらメンバー管理機能の役職付与を行った。


「とりあえずできた!二人ともチャットしてみて!」


 ちゃんぽん(参謀)【はい】

 レイ(人事部長 木材回収・調達部長)【あ】


『あw』

『できてるやん』


 二人から送られてきたメッセージはきちんと送り主の名前に役職の名前が載っており、表示されている名前の色もフレンドの白からギルドメンバーの緑に変わっていた。


「おー!…………でもさ、これどういうこと?グループ作って投げただけだけど権限とか渡ってるの?」


『今は名前だけやな』

『別途で詳しい設定をする必要がある』


「えー自由すぎて逆にめんどいよもう」


『わかる』

『その代わりマジで色々できるから』


 チトはそんな文句を垂れながらも、それぞれの部署にそれに応じた権限を渡していく。

 暫定的に思いつく限りの権限を渡し終えると、チトはようやくひと段落つくことができた。


「よーし。それじゃあ、木材回収班はレイに従って森の方に行って、それ以外の人たちはみんなで目星つけたとこ回っていこう!移動がめちゃくちゃ時間かかるらしいから、移動中にも適当に各自資材を集めていく感じで!」


『いいね』

『全部回るなら一日以上はかかるぞ』

『最初行くとこに仮拠点だけ作っちゃうのもあり』


 チトはそんなコメントを眺めながら、最初の拠点を作る場所探しを開始したのだった。


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