友人として君へ

 いよいよ、まずいことになっている。

 俺は少し、危機感を覚えていた。

 普段はおちゃらけているがこれでも、俺は友達のこととなると少し、いや結構、真剣になる。

 須藤という、俺という人間は、そんな人間らしい。



「俺たちって友達 だよな?」

 2週間前か1ヶ月前、瀬戸に聞いた。

 ただ、心配だった。瀬戸が。

「うん」

 返事はそれだけ。「そうな」とか返ってくると思ってたのに。

「お前さ、最近大丈夫なのかよ?」

 そう言うと瀬戸は首を傾げる。俺がまるで日本語を話していないかのように。

「僕は至って普通だよ」

 普通だったらこんなこと、聞かないだろ。

「最近のお前さ、まるで周りがいないみたいな感じなんだよ」

「どんな感じだよ、それ」

「周りだけじゃなくてまるで、俺達までいないみたいな。話聞いてんのかもわからないし、常に上の空だし、この場にいるのにまるでこの場にいないかみたいな……」

 そう言いかけていると瀬戸は、クスッと笑って一言だけ、ポツリと言った。

「紫苑みたいなこと言うなよ」

 と。



「植物園とかガチしょーもねーわ」

「まじで調子乗ってる」

「白川さんが好きかもしれないってだけでイキんなよ」

 そんなヒソヒソ声が、俺にまでも聞こえる。

 なのに瀬戸は、笑っている白川を見て、笑っていた。

 ゾッとした。

 あいつは壊れてる。

 まるで俺たちがいないように。

 まるで二人しか世界で生きていないように。

 いや、まるで白川紫苑という人間一人が生きているかのように。

 ずっと、白川紫苑のことを考えている。

 ここ最近瀬戸は、白川の話しかしない。

 なにかに取り憑かれたかのように、白川の話をする。

 それに本人が、全く気がついていない。

 俺が壊れそうだった。



 それでもこれでも俺は不器用でどうしようもない人間だから、やれることは一つしかなかった。


「なぁ、瀬戸のこと、助けてくんね?」

「どうして私なんですか?」

「もう、瀬戸のこと、いや、白川のこと止められんの、お前しかいないだろ」

「駄目ですよ、私、もう、近づけないんです」

「本当にお前しかいないんだよ、南」


 ポニーテールの少女は文化祭準備中、髪をくるくるして遊びながら、俺と向かい合って座っていた。


「私、瀬戸君に言われたんですよ。もう、関わらないでくれって」

「でも、いつか謝ってくれとも、言われただろ」

 そう言うと南は、眉をひそめた。

「私は結局、わかりませんでした。瀬戸君の気持ちを考えるとは何か。私と白川さんの、何が違うのか。どうして彼はまだ、白川さんと、付き合っているのか」

 南はどこか寂しげな表情をしていた。すべて悟っているかのような。そんな、儚げな表情。

「瀬戸君、壊れちゃったんですか?」

「多分……」

「私、あのとき忠告したんですよ。死なないでって。それは物理的じゃなくて、瀬戸君という人間として。でもやっぱり、白川さんに引っ張られちゃったんですね」

 深くため息をつく南。

 俺は黙ることしかできなかった。

「それで、どう、助けてほしいんですか?」

 どうしてほしいのか。

 俺は自分で自分が何を言おうとしているのか、よくわかっていた。

 それなのに俺は、舌先でその言葉をなめられない。瀬戸が余計に壊れるのが、怖い。

 つくづく、弱い人間だと思う。

「瀬戸と白川を、引き離してほしい」

 今よりマシになる。そう思って。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る