怖くなったら冷えるらしいけど、それでも暑い夏

 僕の彼女は若干、というより結構なストーカー気質で、インスタなんかのフォロワーが増えるとなぜだか気づいてる。

 紫苑の性格を考えると真っ当なのかもしれないけど、怖いものは怖い。

 ちなみにフォロワーは10人くらい。

 そりゃ誰でも増えれば気づくか。


「私がいないところで、女の子と遊んでたんだ」

 家に帰ると、むくれてアイスを食べてる紫苑がいた。

「そんなんじゃないよ」

 ものの1時間前の話なのに。やっぱり怖い。

「鬼の居ぬ間に洗濯って言った!?」

 どんな耳してんだよ。

「たまたま志望校同じだったから、それで少し話しただけだよ」

「やっぱり、私がいない間に楽しんでんじゃん」

 そう言って、ちょっとそっぽを向いて、スプーンを舐めてる紫苑。

 悪いけど、可愛かった。

「なら紫苑も一緒に勉強しようよ」

「瀬戸君と一緒なら、やる」

 これはやらないな、僕は直感的にそう思った。



 翌日、僕が朝起きて、普通にダラダラしてると、紫苑は珍しく勉強していた。

 国語の。

 要するに、ただ本を読んでるだけ。

「瀬戸君、質問があります」

「なんだよ」

「瀬戸君に友達はいますか?」

「いるけど」

「それは誰?」

 誰と言われてもな、というのが正直な感想だった。

 友達と呼べる、という定義は意外と難しい。

 例えば学校でしか会わない人は友達と呼べないかもしれない。なぜならそれは、卒業すれば会わなくなる可能性が高いから。


 人は人を都合よく利用する。

 ただ学校で一緒にいる相手がいないから、一緒にいるだけ。

 僕と須藤みたいだ。

 思えば、薄っぺらい。

 友情なんて実は、見せかけであって、ただ人にすがりたいだけなのかもしれない。

 一人で生きていけないことを自覚してるから、もたれられる相手を探してるだけ。

 それは木の皮一枚で十分だった。


「いないな」

 僕が出した解答はそれだった。

 そもそも紫苑は友達じゃなくて、彼女だし。

「ふん」

 鼻を鳴らして僕を見下す紫苑。

「なんだよ」

「なんでも?」

 ちょっと満足したみたいでうざい。

「そういえばさ、連絡先交換した子から何か連絡来た?」

「別に」

「一緒に勉強するなら、呼んでよ」

「いいけど」

 許可もなく呼べないから普通に呼ばないけど。

 面倒くさいし。


 そんなこんなで、僕達は時間だけを食っていく。

 何かをすることもなく、何かをしないでもなく。

 普通といえばごく普通の生活だった。

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