恨めし夏
都合よく四季なんていう概念が存在するこの国を呪いながら、僕達はついでにこの夏とかいう季節を恨んでいた。
いやむしろ、主に夏のせいで四季を呪っていると言っても過言ではない。
「夏期講習なんて、行くわけ無いでしょ」
とか、顔に謎のコロコロローラーを当てながら紫苑は余裕こいてた。
でも一応高3になってる僕達は、さらに受験なんてモノにも追われていて、地獄よりも暑いであろう夏を過ごしていた。
それはそうとして、兎にも角にも勉強云々の道具が必要な僕は一人、本屋に向かっていた。
なぜ一人かって?
紫苑は「ふっ、余裕」なんて冷や汗垂らしながら言って家に残ったから。
電車に乗ってぶらりと、気分は一人旅。
思えば最近、一人の時間はなかった。
人間には一人の時間も必要らしく、なんでも考えをまとめたり、一旦全部忘れてみたりするらしい。でも一人でいすぎると鬱になるのだとか。
なんて面倒くさい生き物なんだろう。
気持ち悪くて仕方がない。
本屋について、参考書コーナーをふらふら眺める。横にうるさいのがいないのが、少し寂しかったりする。
「あの……」
「はい」
振り向くと、どこか見覚えのある女の子がいた。
制服。近くの公立高校だ。
僕は私立。知り合いじゃない。
「参考書、取りたくて」
運命………!!なんて大層なモノでもなくて、ちょっとがっかりする僕。
現実に冷やかされてる気がしてウザったらしかった。
「あ、どうも」
そう言って避けるも、何故かその子はジッと、僕を見てくる。
やっぱり運命かもしれかい。
「あの、何かSNSやってます?」
「メッセージ送るやつくらいなら……」
「あ、そういうのじゃなくて。どこかで見たことあるような気がして……」
有名人かどうかってことね。
僕の連絡先聞かれたのかと思って胸を踊らせた自分を5回くらい殺しておいた。
ぐはぁ。
「気の所為ですよ、キノセイ」
「連絡先、交換してくれません?」
「あ、どうぞ」
僕は僕を5回蘇らせた。
お互い沈黙があって、なんか気まずい空気。
見てる赤本の場所も、たまたま同じ。
自然と、勉強の話になったりした。
「もしかして、この大学目指されたりしてます?」
「あ、そうなんです。でも私の高校、そんなに賢くないんで、仲間いなくて」
なんだかちょっと共感できた。
「僕も同じで。一人でやってると、つまんないですよね」
「そうなんです!四面楚歌じゃないですけど、スイカ農園の中で一人、カボチャに育ってるみたいな」
例えがよくわからなかった。
「名前、なんていうんですか?」
そう言うと律儀に、生徒証を取り出してきた。
「武内リナって言います!えっと……」
「あ、瀬戸です」
「瀬戸君、友達になりませんか。やっぱり二人の方が、勉強しやすいと思うんです」
「是非!ぜひなりましょう!」
僕は食い気味に答えた。
でもなぜだろう。
ちょっと心が痛むのは。
それから僕達は場所を移動して、カフェなんかに行った。
勿論僕は来たことがない。
この駅にはよく来ても、カフェなんて行かないし。
「わかります!なんというかこう、成績上がるときって、こう、ブルブルってするっていうか、ゾワゾワってするっていうか」
「どれも同じ気がするけど」
「兎に角、あの感覚が気持ちいいんですよ!」
「うんうん。それな!」
とか、僕は対女子4大用語を使いながら生き延びていた。
「うんうん。それな。可哀想やな。それは彼氏が悪いわ」
この4つでパリピは立ち回るらしい。
僕は前2つしか使いこなせないけど。
「瀬戸君と話せてよかったです!あの、たまにこうして会って話してもいい?」
「うんうん。それな!」
「ありがと!じゃあ、また!」
気づけば会話が終わってる。
なんて素晴らしいんだ。
笑顔でこっちに手をふる彼女に手を振り返しながら、そう思う。
こうして一人旅気分ですべてを忘れてた僕は、家で寝ている奴のことを思い出して、震えあがった。
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