番外編:お金≠美少女

「いきなりですが、問題が発生しました」


 帰ってきて早々、紫苑が真剣な顔つきで話し始めた。

 普通に忘れ物でもしたのだろうと、悠長に構える僕。

 間が空いても未だに真剣な顔の紫苑。

 達人の間合いが、そこにあった。


「お金がないです」


 思った以上に深刻だった。


「なんだよ。前までは無限湧きとか言ってた癖に」

 そう言うと、ドラマみたいにクルッと背中を向けて、腰に手を当てて話し始める紫苑。

「いやね、瀬戸くん。これには色々と事情があるのだよ」

「どうせ、くだらないことなんだろ」

「働けってさ」

「それはまずいな」


 紫苑はそう言い残すと、スマホにかじりついて離れなくなってしまった。

「何してんだよ」

 と僕が聞いても、

「調べ物」

 と言うだけ。


 なんなんだ、こいつ。

 ツッコむのも面倒になった僕は、いよいよ暇で仕方がなくなり、勉強を始めようとした。

 でも、結局部屋の掃除をする始末。

 気づけば紫苑も来てた。


「何か大事なことしようとするときって、掃除したくなるよね」

「前、読モのバイトしてただろ。そこいけよ」

 どうせ働け云々の話だと思って、僕は適当に話す。

「辞めた。朝起きるの得意だけど、冬に夏のモノ着るとか聞いてない」

「で、決めたのかよ」

 そう聞くと、気分良さげに、遠い目をした。

「掃除って、気持ちいいね」

 僕はうざくなって、掃除すらやめてやった。


紫苑はもう整ってる部屋の物をひたすらに動かして、結局僕の掃除はなかったことになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る