実に空虚やあらせんか?

 紫苑への嫌がらせは、日に日に苛烈になっていた。

 机の中に入れられるゴミは増えてきたり、体操服をなくしたり。


 ちなみにこれに対して紫苑は、何一つ顔色を変えなかった。

 本人が言うには理由があるらしい。


 まず、物理的被害がないこと。

 いつかみたいに、南さんに殴られたとかそう言うでは無いから別にいいらしい。

 ちなみに今回のは、南さんは知らないとか。


 そして、味方が多すぎること。

 所詮5.6人が嫌がらせしてきたとしても、紫苑が泣きつける人が多すぎる。

 実際、表立って嫌がらせしないということは、ビビってる証拠なんだとか。


「初手で領域展開しないのは、領域の押し合いで勝てないって自白してるようなもんだよ」

 とか言ってた。頭に縫い目書きながら。

「どういう意味だよ」

「要するに、最初から私と表でバトルしたら絶対に総力差で負けるってこと」

 そんな感じで、相変わらず変な言い換えをしていた。




 ちなみに、紫苑より僕の方がよっぽど頭を抱えていた。


 なぜならその全ての嫌がらせのゴミを、紫苑は僕の机にぶちこむ。


 なぜなら無くなった体操服の代わりを、僕から取る。

 ジャージなんかは強引に奪われる。


 そのせいで体育の時間は地獄と化す。

 男全員に睨まれる。サッカーなんかやったらタックルされる。


 授業終わりには、何故か僕のジャージを匂ってるマジでキモい男子もいた。


 軽く死んでほしかった、マジで。





「ねえ須藤君、犯人知らない?」

 そんな紫苑も、耐えるのは3日が限界だった。

 紫苑が3日耐えただけ奇跡。

 一瞬でブチギレても性格的におかしくないし。

「知らねーな。男連中にも聞いとくわ」

「うん、よろしく」

「僕も、何かしようか?」

 紫苑への嫌がらせシリーズで過去1僕の気合いが入っていた。被害受けてるし。

「あ、瀬戸君も手伝わなていいよ」

 ちょっと感動した。紫苑がまさか、僕のことを思って、関わらなくていいと言ってくれるなんて……。

 いや、紫苑らしいと言えば紫苑らしいか。

 紫苑の中で僕の優先順位はかなり高……。

「瀬戸君、友達いないから聞けないでしょ」

 絶対に許さない。

 絶対絶対ぜーーったいに許さんぞぉー!!




「私、今日ちょっと後輩と約束しててソフトボール部見てくるから先に帰っててくれない?」

 放課後、別に嘘をついてる風もなく紫苑が言った。

「僕も行こうか?」

「えっち」

「そうはならんでしょ」

「なっとるやろがい」

 と言うわけで、僕は悲しきかな一人で帰った。


 下駄箱のロッカーには鍵がかかっているから何か出来るはずはないけど、一応紫苑のロッカーの鍵を開けて、嫌がらせされていないかを確認する。

「……」

 見られてる気がした。

 何人かに。


「誰かいる?」


 返事はない。ただの屍のようだ。


 紫苑のロッカーの鍵を閉めて、僕のロッカーの鍵を開ける。

 何もない。


 靴を履き替えて、特に何事もなく家に帰った。

 下校してるときも、特に何もなかった。


 でも何だか、嫌な予感がした。


 それでも「あの紫苑に何かするはずない」ということを心に言い聞かせる。


 それでも、紫苑が被害にあうのは怖かった。

 何よりまた、紫苑が塞ぎ込みかねない。

 最近は変なこと言うことが増えた。


 単純明快な思想で、特に何も考えず生きてたのに。

 また、深いことを考え始めていた。

 一人で黙っている時間が増え始めていた。


 勿論、そんな紫苑も可愛い。

 自分と会話してる紫苑が、哀れで可愛い。

 だってどうせ、大したこと考えてはない。

 なのにまるで奥深いこと考えてるような顔をしてるのが、哀れで可愛い。


 兎にも角にも、僕は紫苑の横で見てることしか出来ない。

 それが、不甲斐ない。


 紫苑を支えられる人間になりたかった。

 その為に僕は一応、学校に戻ることにした。


 時間は今、17時。


 紫苑が学校を出る時間が19時位。

 まだ間に合う。

 念のために、学校へ足を運んだ。

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