新時代

 3年生になっても、特段変わったことはなかった。


「私たち、3年間同じクラスだったね……これって運命……」

「なわけないだろ。成績順で並んでるのにどこが運命なんだよ」

 ちぇっ、と小さく呟いて不貞腐れる紫苑がちょっ可愛い。

 それを横目で見る僕はキモい。


 クラス替えがあったけど、特段何かが変わったことはなかった。

 強いて言うなら何人かがクラス落ちしたことくらい。

 紫苑の友達は二人共クラス落ちしたらしい。

「私、もしかしてボッチ?」

「取り巻きがいっぱいいるだろ」

 ちょっと同情したかったけど、それより惨めな紫苑が哀れで仕方なくて笑みが溢れた。


「何笑ってんのさ!」

「別に?」

 珍しく必死なのが更哀れ。

 やめてくれ、その可愛さは僕に効く。


「ところで、須藤君はクラス落ちたの?」

「落ちてないと思うよ。成績、真ん中だし」

「木村君は?」

「ワンチャン落ちてる」


 そして木村はいなかった。

 さらばだ……。





 クラスのメンバーは半分も変わっていないけれど、一応自己紹介があった。

 文転してきた人もいるし、上がってきた人もいるし。

 別に僕は自己紹介に何か意味があるとか全く思わない。

 これは言わば、儀式だと思う。

 それ以外に別にやる意味がないから。


「白川紫苑です。趣味はインドア系が殆どで、唯一ランニングするのが日課です。あと、えっと、特に意味もなく奇怪な動きを突然やってみたいです。仲良くしてください」


 それはただのヤバいやつだった。

 そんな奴に一人、手を上げた猛者がいた。


「彼氏いますか!」


 一番いらないことをしやがったクソ野郎だった。

 猛者でもなんでもない。

 クソだ、クソ。


 そして前に立つ美少女(笑)は「えっと……」とか言ってクネクネしてる。

 ちなみに全部演技である。

 こうしたら可愛く見えるっていうのを全て把握しているモンスターにしか出来ない超絶技巧である。


「ちょっとそれは言えないかな〜」

 とニコニコしながら言いやがった。

 ほぼ答え。

 ていうか、匂わせ。


「なら、好きな人は?」

「あ、それはいます」


 軽く許せなかった。

 ゲーム中にルーターをアルミホイルでぐるぐる巻きにされるくらいには許せなかった。

 真顔で答えるようなことじゃないし。


 すると、何人かの男子が後ろでヒソヒソし始めた。

 あーあ、だから嫌だったんだよ。


「それじゃ、次の瀬戸君に変わろうと思いまーす!」

 と言って爆弾だけ放置して席に戻っていった。

 最悪。


「瀬戸です。趣味は、あー、特にありません。よろしくお願いします」


 冷ややかな目と静かな拍手。

 それと、ピンとキレイに上がる白い手。

 その手は、指先まで整っていた。


 美しい以外の言葉が見つからない。

 普段から手入れしてるんだろうな、なんて思った。


 思っただけである。

 無視した。


「はい!」

 あ、声あげやがった。


「はい」

 答えると、ニコニコし始めた。

 ちなみに、悪い方。


「瀬戸君は好きな人とかいるんですか?」

 口角が口裂け女のように上がった、ちょっと哀れなやつが聞いてくる。


「いや、まぁ、お答えしかねます」

「では逆に、自分の事が好きそうな人はいますか?」

 今だけでいいから、こいつとクラス離して欲しかった。


 そんな僕にお構いなしに「死ね瀬戸ー!」なんて声が聞こえる。

 世紀末。


 僕は悲しく席についた。


 次の人の自己紹介には毛ほども興味がありませんというかの如く、紫苑は身体ごと後ろを向いてきた。


「なんだよ」

「なんでもないよ?」

 ニコニコしててうざかった。

 ウザいと可愛いなんて思わないんだな、と歴史的発見をした。

 そんな発見したくもなかったのに。


 どこに行っても、どこでもホントに何も変わらない。

 だからやっぱり、何も変わらない。





※お待たせしました

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