卒業

 ホワイトデーも無事に終わって(結構高いチョコを買った)、先輩の卒業式となった。


 とは言っても、僕達の知ってる先輩と言えば天文部の部長くらいで、別に特段はしゃぐこともなく、部室に集まって話すぐらいだった。


「先輩がいなくなっちゃうなんて私、耐えきれないですぅ〜」

 とか紫苑が泣いたフリしながら言っていた。


「ありがとね〜、白川さん」

 とあしらわれると、スッと素に戻った。

 しかも、真顔。

 思わず吹いた。


「瀬戸君が人の顔見て笑うんですけど、先輩的にどう思います?」

「女の子の顔見て笑うやつは最低だよ。気をつけな?」

「DVとかされちゃうんですかね」

「う〜ん、貢がされたりヤリ捨てされたりするんじゃないかな」


 結構失礼で最低な会話だよね。うん。

 許してる僕が寛大すぎて感動してしまった。


「ところで、大学行くんですか?」

 と、僕が。

「そうね。私は理系だから、残念ながら同じ大学に来てもなかなか会えないわよ?」

「そんなこと言ってません」


 なんてくだらない会話をしたり。



 それから学校を出て、ファミレスに行ってまた話した。

 なんとなく、別にそこまで関わってたわけでもないのに、別れるのが妙に寂しかった。


「私、ファミレスの水飲めないんですよ」

 紫苑が自分で買ってきた水を飲みながら言った。

 それとついでにポテトを食べていた。

「なんでさ」

「というよりコップが駄目で。疑ってるつもりなんてサラサラないんですけど、なんとなくちゃんと洗われてるか不安なんだよね」

 でもフォークとナイフは使うんかい。

 というか、ポテトにフォーク使う人初めてみた。


「それで先輩、卒業してみた感想、どうですか?」

 紫苑がハンカチで自分の口を拭いながら聞いた。

 なんだか上品。

「終わりって感じ」

「ふーん」

 自分で聞いたのに、興味なさそうだった。



「それじゃ、会うのはこれで最後かもしれないけど、何かあったら、またね」

「先輩も元気でねー!」

 全然泣き真似してた奴とは違う、普通に友達と遊びに来た帰りみたいなテンション。

 先輩も笑ってるし。

「君達の幸運を祈ってるよ!」

 そう言って先輩は僕達に背を向けていった。

 感慨深いものは、なかった。




「いつか私達も卒業するんだね〜」

 夜道。

 紫苑が足元の石を蹴りながら呟いた。


「そうな」

「何にも変わんないだろうね〜」

「そうな」

「どうせまたミミ達と遊んで、瀬戸君と遊んで、大学でも高卒でも、人の顔覚えずに生きてくんだろうね〜」

「そうな」

 一瞬、紫苑の友達の名前を忘れかけるところだった。名を聞くことすら久々すぎて。

「瀬戸君は何か変わる?」

 思えば僕も、変わらないかも。


 須藤と木村が日常でなくなるかもしれないことぐらい。

 とは言っても成績も同じぐらいだし、一緒にいる可能性高いけど。

「紫苑が同じ大学入れたら変わんないかな〜」

「あ、今、私のことバカにしたでしょ」

「してないよ。事実だし」

 プク顔なんかをわざとして、悔しそうな顔を見せる紫苑が哀れで可愛い。


「卒業ってそう思うと、いつなんだろうね」

 普通の意味の卒業でないことは、簡単にわかった。

「日常が変わるときだろ」

「私も高校出たら、何か変わるのかな」

「変わらないよ。紫苑は」

「人間的に変わることがそうそうないから?」

「寧ろ、変化する人間の方が少ないよ」


 成長したところで、途端に抜ける。

 寧ろ大学に入ったら、色んなことが劣化するかもしれない。

 お金への考え方だって変わる。

 今までと手に入る額が違う。

 何もかもの価値観が変わるかもしれない。

 でもそれだからといって別に、人間性は変わりはしない。


 人はいつだって同じだ。

「紫苑には変わって欲しくないよ」

 そういうと紫苑は、素で顔を赤くした。

「私も今を変えたくないよ」

 そう言って、シシシと笑う。


 当分変わらない安心感が、僕達を包む。

 卒業で変わることなんてもしかしたら、環境ぐらいなのかもしれない。

 だからこそ、感動的になることなんてない。

 僕達は、ずっと同じだから。





※10/30です。

数日間死ぬほど超絶爆絶忙しいので明日投稿します。待たせてしまって申し訳ありません

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