ソロ≠美少女

 From.しおん

 2月始めの土曜日。

 美少女こと白川紫苑は一人で遊園地へ訪れた。

 音たてて電車が着く。

 私は同じく電車から降りる小さな娘と目があった。

 その娘は、帽子をかぶらず、腕を組み合っていた。

 私が「カッコいいね」というと、笑った。


「お姉ちゃんは一人?」


 この言葉が、私の心を強く打った。

 瀬戸君、君がこれを見る頃には私は死んでいるでしょう。

 恨みます。


 To.瀬戸君



 入場ゲート前で並んでいる最中、暇だった。

 一人でブツブツと、日記というか怨念文というか、何せ呪いのこもった特級呪物を書き上げた。

 で、瀬戸君にメモを送る。


 ➝暇なら通話する?


 瀬戸君からのメッセージに舞い上がって「する!」と送りそうになったけど踏みとどまった。

 なんだかここで通話すると、負けた気になる気がして。


 なんか私、瀬戸君のネガティブ思考が移ってきてる気がする。

 ま、いっか。





 入場ゲートが開くと、私は一人でダッシュした。

 はたから見れば、ただのキチガイ。

 でもおかげで、一番人気のジェットコースターに一番に来られた。

 ジェットコースター、好きなんだけど一人はキツイな〜。


 すぐに乗れるらしく、私は一人で座らされた。

 横は見知らぬ男の人。

 私の隣で超嬉しそう。

 光栄に思いたまえ。

 というか、何人かで来てるらしく、隣を取り合っていた。


「よろしくね!」

 とニコッと笑って声をかけると、顔を赤くして、元気な声で返してくれた。

 では、いってらっしゃーい。


 ぐいいいいいいいいいいいん。

 なんて調子よく上がらず、ガタガタ音を立てながらゆっくり登る。

 さっさと登ってさっさと落ちたいのに。

 高すぎて天がちょっと近くなった気がした。


 そして落ちる瞬間、身体がフワッと浮いた。

 その瞬間目の前に瀬戸君の顔が見えた気がした。

 あ、死ぬかも。

 ごおーーーーーーーーー

 ひん。


 私は小さく声を上げた。


「恋と愛のミックスパフェ1つ」

 お昼。

 私が死んだ目で瀬戸君に言われたのを注文すると、店員にドン引きされた。

 こっち見んなし。

「あの〜……」

 パフェを待っていると、女の子が声をかけてきた。

「はい」

「お一人なんですか?」

「ええ、まぁ……」

「良ければ、私達と回りませんか?」

 あ、すごい優しい子なんだ〜〜〜。

 と、見知らぬ子にちょっと感動した。

「恋愛パフェでお待ちのお客様〜」

 という声が聞こえて私が取りに行くと、その子までぎょっとしていた。

 瀬戸君マジ恨む。


「一人で来られてるんですか?」

「まぁ、はい」

「それ、美味しいですか?」

「美味しいですよ」

「食べていいですか?」

「あげません」

「私は友達と一緒にここに来てるんですけど、呼んでいいですか?」

「お好きにどうぞ」


 そんな感じで私が無心でひたすらにパフェを食べていると、その子の友達まで現れた。

 あれ、なんで友達まで呼んでるんだろ。

 適当に話してるうちに私が呼んでとかいったのかな。


「あれ、白川さん?」

 そう言う声はどこかで聞き覚えがあった。

「?」

 顔を見ても、何だか見覚えがある気がしてるだけで、思い出せない。

 別のクラスだったような。

「一人で何してるの?」

「遊んでるんだよ!」

 慌てて猫を被って対応する私。

 うまい!

「学年一の人気者ともあろう者が、こんなところで一人で遊んでるなんて惨め〜」

 ん?

 この声、なんだか聞き覚えがあった。

「瀬戸君はどうしたの?」

「あ、私と最近揉めた子か」

 パフェを食べる私。

 得意気に煽るこの子。

 それを気まずそうに見る声をかけてくれた子。

 ごめんね〜、と心の中で謝っておいた。

「私の名前、もう忘れたの?」

「覚えてるよ。宮野明美でしょ?」

「それ灰原哀のお姉ちゃん!」

 いいツッコミ!

 この子、悪い子かと思ったら面白い子じゃん。

「名前なんていうんだっけ?」

「水品玲奈」

「じゃあ水品さん、このパフェ食べるの手伝って」

 そう言って私はお手洗いに行った。



 ←水品って子、覚えてる?

 手洗いながら、瀬戸君にメッセージを飛ばした。

 するとすぐに返ってきた。

 ➝覚えてるけど、どうしたの?

 ←今その子と会った

 ➝大丈夫?

 ←なんか普通に面白そうこの子


 それだけ送って閉じて、パフェの元に向かうとだいぶ食べられていた。

 いい度胸してるなコイツ。


 それでも私は口角上げてニッコニコで知らないフリしてまた食べた。


 ちょっと面白そうだし、いっか。


 瀬戸君がいなくて寧ろ話しやすいから、この機会に話すことにしよう。


 一人での楽しみ方をちょっと覚えてきたのに、すぐ人と会って結局一人じゃないのがなんだか私らしくていい。

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