美少女≠羞恥

「頼むから、駅降りたら離れろよ?」

「だーめ離しませーん」

 ウザったらしい笑顔を見せつけてくるなんちゃって美少女。実は学校までちゃんと二人で登校するのは初めてだったりする。だから紫苑も緊張を紛らわせてるのかも。

 そう思うと哀れで可愛い。

 今まで一緒に登校してなかったのは勿論、僕が恥ずかしかったから。

 視線で心臓が痛い。

 そりゃもう、ハートブレイクショットなんて比にならないくらいぐらいに。


「え、あれって白川さん?」

「白川さんって?」

「ほら、2年2組の」

「あ〜!学校で一番可愛いっていう」

「ていうか、あの男誰?」

「もしかして、彼氏?」

 本格的に学校に近づいてきた頃にはもうかなり、ひそひそ話もは言えないぐらいに声が大になってきていた。

 ウザい。

 そうだよ、彼氏だよ。

 もしかしなくても彼氏だからこんなに気まずそうな顔して歩いてるんだよ。

 実際気まずい顔してるかはわかんないけど。

「私達、目立ってるね!」

 嬉しそうに言う紫苑。

 嫌がる僕。

 誰のせいで目立ってると思ってんだよ!

 今すぐジャイアントスイングして吹き飛ばしてやりたい。

「そうな」

「そんな捻くれないで、大胆に生きようよ!」

「嫌だよ。傲慢な紫苑と違って、静かに生きたいんだよ」

 そう言うと、嫌味みたいに腕を組んできた。

 最悪。

「私の今年の目標、ケーキ鷲掴みにして食べるぐらい大胆な女になることだから」

 ドヤ顔で言うなし。

「ならケーキを鷲掴みにしろよ。僕を掴むな」

「つれないね〜。そんなんじゃ、彼女出来ないよ?」

 溜め息付きたい気持ちを必死に抑えた。ツッコむのも面倒。

「そうな」

 この一言をふりしぼって出して僕は、正門前で、力尽きた。


「生きてる〜?」

 死んだように机に寝そべる僕に、下から覗き込んで見る美少女。はっきりいて邪魔害悪出ろ。

「死にたい」

 だって今こうしてる間でも、周りは僕達の噂話ばかりしてるから。

 目立って目立って視線を浴びまくって死にそう。いや、死にたい。

「気にしなくていいじゃん、そんなの!」

「そう言うけどな」

 実際木村と須藤も引いてるし。

「あの、白川さん?」

 ちょっとおとなしめの、紫苑を慕ってた女の子。聞きたいことしかないらしくてあたふたしてる。

「何さ」

「瀬戸君と仲、良かったっけ?」

「あれ、知らなかった?」

 だいぶ前にグラスの女子何人かには付き合ってるって言った気がするのに。全員には回ってなかったらしい。

「どういう関係、ですか?」

 そう聞かれてうーん、と悩む紫苑。話していいのかどうかを悩んでる。多分。

「ねぇ、私達、どういう関係?」

「知らないよ」

「あ、照れてる?」

 からかうように聞いてきた。というか、僕に話題振るなよ。

「ニヤニヤウザいんだよ」

 僕がちょっと嫌そうに反応すると、反比例するみたいに紫苑は満足そうな顔をした。人の不幸を見て喜ぶなよ。性格悪いのがでてる。

 そんな感じで僕に構ってる紫苑に、男子諸君は勿論興味津々。殺意津々。嫉妬津々。

「白川と瀬戸って、普段からそんな感じ?」

 半ギレというか、警戒心というか、とにかく僕に対する敵意を最大限まで剥き出しにして紫苑に聞くサッカー部かバスケ部っぽい奴。

 普通に怖い。

「そうだよ。いつもこんな感じでこそ。一切を与えられても、一切を拒まれても、変わらなくてこそ」

「こそ、なんだよ」

 不思議そうに答える可哀想な運動部君。

「知らない?ゲーテの四季夏の部」

 妙な知識だけ持ってる紫苑がドヤることもなくさも当然のように言う。

 そんな美少女に圧倒されていつしか、突っかかってくるやつはいなくなった。紫苑の方が普通に怖いらしい。


「ちょっと、誇らしくなってたでしょ?」

 帰り道。

 堂々と下校するなんて5億年経ってもやらないと思ってたのに。思ってたのに二人で駅までの道をゆっくり歩いてる。

「なってないよ。ただ、周りからの視線が怖いぐらい」

「だーいじょうぶだって。皆がほら、守ってくれるし?」

「そういう問題じゃないんだよ」

「あ!なるほど!あの見てるとゲシュタルト崩壊しそうな奴らに私が傷つけられないか心配なんだ!」

 ゲシュタルト崩壊て。というより、自分で堂々とそういうことを入れるのが哀れで仕方ない。これで可愛いと思ってるんだから。

 哀れで可愛いけど。

「まとまったもの見過ぎるとバラバラになって見えるみたいなやつだろ?」

「そうそう。だって、顔もどことなく似てるし髪型も一緒だし。キモくてならん。目がおかしくなりそうになる」

 自分で美少女を謳う奴の言うことじゃないだろ。もっとオブラートに包めよ。

「ところで、ゲーテのやつ、愛してるって言いたかったってこと?」

 そう言うと突然、僕より前を進んでた紫苑が足を止めて、振り返った。

「何だよ」

「こういうのも、普段からやってること。普段からやってることを愛してるから、瀬戸君との全てを愛せる」

「そうな」

「照れてる?」

「照れてないよ」

 帰り道。

 横に並んで僕の腕を組む紫苑。

 何度考えても、今までにはあり得なかった光景。

 普段を愛するとか言いながら、普通に普段を変える。

 しかもそれに、気づいてない。

 哀れだ。

 哀れで、なんて愛おしいんだ。

 それでも、紫苑が強引に変えた現実を、なんとなく、愛せると思ってる。

 僕も紫苑を、哀れな美少女を、愛してるから。



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