カミングアウト≠美少女

 どんとうぉーりー!I'm wearing!

 何とは言いません。

 どうも、お久しぶりです。白川紫苑です。

「白川さんって、なんであんなのと付き合ってるの?」

 とよくわからない転校生に言われてブチギレそうになってから、腹が立って逆に瀬戸君とよりイチャつくようにした私。

 瀬戸君の何が悪いんじゃい。


「おはよう瀬戸君!」

 いつもは朝、寝てる彼を放置して着替えたりするのだけれど、敢えて叩き起す。

 起きるまで、叩き続ける。

「なんだよ朝から!」

「おはよう!瀬戸君!」

「そうな」

「おはよう!瀬戸君!」

「わかったよ!わかったから朝から大きい声を耳元で出さないでくれ」

 なんて言われて払いのけられた。ここは可愛く吹っ飛ばされておく。

「彼女を吹っ飛ばすなんて、酷いやつだね全く」

「紫苑にはこれくらいでいいって気づいたんだよ」

 ウソつけ朝眠くてちょっと乱暴になっちゃっただけの癖に。その証拠にちょっと心配そうな目で見てるし。

「朝ご飯だよ!」

「呼びに来てくれたのかよ」

「うん、そう!」

「普段はそんなことしないのに?」

「なんとなく、ね」

 ふーん。と、ちょっと怪しまれる。何を怪しんでるのかはわかんないけど。


「行ってきマサチューセッツ州」

「行ってきます」

 あ、勿論上が瀬戸君。この美少女がそんなしょうもないこと言うはずもなし。

「朝からベタベタするなよ、暑いし」

「残念冬なので暑いわけありませーん」

 寧ろ、暖かくなる?

 なんて上目遣いで言うと、無視された。

「あの転校生に張り合ってるの?」

「そうだよ。あいつ、瀬戸君のこと悪く言ったから許さない」

「別に放っておいていいんじゃない?」

「何でさ」

「僕が大したことないやつって言うのは、事実だし」

「それを言っていいのは私と瀬戸君本人だけなの!何も知らないやつに言わたら腹立ってしょうがない」

 そう言うと、彼はちょっと目を逸らした。可愛い、照れてる。

「心配しなくても、瀬戸君のことは私が守るから!」

「何からだよ」

「何からだろうね」

 言ってみたかっただけ。

「ところでだけど、電車降りたら引っ付くなよ」

「何でさ」

「見られるから」

 そう言われて私はなんとなく、真顔で更に引っ付いた。


「白川さん、まさか瀬戸なんかと付き合ってるんじゃ……」

「瀬戸のこと、好きなんですか!?」

「瀬戸なんかより、俺と付き合いましょうよ!」

 はいはい、「瀬戸なんかより」とかいう奴とは絶対付き合いませーん。

 いつもの有象無象をかき分けて自分の席へ行くと、例の転校生ちゃんがいた。名前は確か、レオとか玲奈とかレイとかだったはず。

「邪魔なんだけど?」

「私の名前、覚えてくれた?」

「何がしたいかわかんない人の名前なんて覚えないよ」

 これは言い訳。普通に皆の名前も覚えてない。

「確かに何かしたいわけじゃないけど……」

「あ〜、はいはいなるほどね。承認欲求がすごいんだ。私を貶して私より上に立って皆にチヤホヤされたいんだ〜」

「勝手な妄想で言わないで欲しいんだけど」

「だってそうでしょ。ならなんで人の好きな人のことバカにしたりすんのさ。私が誰を好きになろうと私の勝手じゃん。人が人を好きなことをバカにしないで」

 そこまで言いきって軽く睨みつける。

 ホントは手を出したいぐらいには腹が立ってるのに、我慢してあげてるだけ優しいと思ってほしいね。

「あなたが学校で一番可愛い完璧な美少女って言われてるのが気に食わないだけ。それがまさかまさか、完璧美少女様があんなに目立たない人と付き合ってるなんて思いもしなかっただけですけど?」

「は〜ん。容姿だけで人を判断するような人間に【気に食わない】っていうだけで彼を過小評価するのはやめてもらいたいね。そもそも、彼のことを何にもわかってない人間が口を挟まないでくれる?」

 だんだんイライラしてきた。

 言わせておけば、ペラペラ喋りやがって。

「そもそもさ、人の魅力を自分のモノサシだけで測るなよ、小娘」

「誰が小娘って?白川さんより私のほうが身長たかいんですけどー?」

「中身が小娘だって言ってんの。自覚しやがれいこの野郎」

「完璧美少女なのに口が悪いねぇ〜?」

「完璧な人間なんているはずないでしょ」

「なら、白川さんが好きな人も完璧じゃないでしょ?」

「当たり前じゃん。欠点も愛してこそが恋愛でしょ」

「欠点まみれなのに?」

「これ以上、瀬戸君のこと悪く言わないでよ!」

 あ。

「あ」

 心の中の私の声と、周りの声が一致した。

 始めて、クラスと私が一体化したような……。

「えええええええええええええ」

「げええええええええええええ」

 そんなこと考えてる場合じゃなかった。

 クラスの中は阿鼻叫喚で埋め尽くされてる。

 もう、私が何かを言って挽回出来ることはない。

 終わった……。


 瀬戸君がこっちをすごい怪訝そうな顔で見てるし。

 あ、その顔もちょっと可愛いかも。

 キレた拍子で口が滑っちゃっただけだもん。

 それで済んだら、瀬戸君困んないか。

 お返しで、テヘペロっとだけしておいた。

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