デート=美少女

 私は激怒した。

 最近妙に彼がキョロキョロして、私以外の誰かを意識してる。私のことだけ見てればいいのに、何をそんなに気にしてるのか私にはさっぱり。というか、私がいながらよく周りを気にする余裕あるね。それで、

「どしたし?」

 と聞いても、

「いや、なんでもない」

 としか答えない。

 隠されたら余計、気になるやろがい。


「私に隠して何かやってるでしょ」

 放課後。ちょっとジト目で問い詰める。このジト目が可愛いんだわ。

「僕の活動全部を紫苑に報告する義務があるのかよ」

 彼は全部知ってないと気が済まない私の性格を知っててこんなこと言ってる。

 イジワル。

 だけどなんだか、それがいい。

 ゾクゾクするってやつ?

「自分で見つけるからいいよーだ。それよりさ、デートしようよ」

 ビックリしたように彼が私を見る。そんな驚くなし。

「唐突だね」

「私、いつもこんなでしょ」

「なにするの?」

「適当に遊ぶ」

 呆れるような素振りをする彼。それでもなんだかんだ、付き合ってくれるのが嬉しかったりする。可愛いよね。

「なんでいきなりデートなんだよ」

 ちょっと不審げ問う彼。

「まずはそうね、ガチャガチャしたい」

「会話してくれし」

 私の口調がちょっと移った彼を無視。手を取って、走った。オープニングで走ったりジャンプしたりする作品は神作品らしいし、私も同じようにしとく。


 ショッピングモールの中、ガチャガチャの前で座り込む高校生2人。普通って感じがいい。あ、客観的に見れば今は異端か。

「なんだかんだ付き合ってくれる瀬戸君、好きだよ」

「そうな」

「瀬戸君も私のこと、好き?」

「好きだよ」

「心こめろし」

 目をそらしながら呆れたように言う彼を小突きながらお金を入れて、ガチャガチャを回す。

「なにーがでーるかな♪なにーがでーるかな♪」

 出てきたのは見たこともないフィギュア。何これ。

「なにこれ?」

 瀬戸君も同じ反応。シンクロ率、無限大です。

「おもちゃでしょ」

「ハッピーセットの劣化版」

 たまに口悪いところも好き。

「次、瀬戸君やってみてよ」

「お金の無駄だし、嫌だよ」

「ノリ悪」

「悪かったな」


 そのままの流れで買い物に来た私達。

「服、そろそろ新しいの欲しくて」

「去年と同じのじゃ駄目なのかよ」

 ハーッ、と大きく溜め息をついてみせる私。

 白川紫苑、痛恨の極み。

 彼氏の育て方を間違えたらしい。

「女子はね、頻繁に買いたくなるんですー」

「主語がデカイだろ」

「事実だよ」

 ここでちょっと大人びた笑みを見せるのが匠の技。あ、呆れたような顔された。

 ほら、いいの選んでよ。と強引に話を勧めてごまかしてみせる。


「白のワンピース」

「童貞だね」

 ちょっとムッとしたような顔をする彼も可愛い。可愛いは正義だ。

 ----------justice---------

「私のスニーカーってピンクだから、白はあんまり合わないと思う」

「なら黒?」

「ナンセンス!!ナンセンス界の王!」

 彼に決めさせるとおわらなさそうだし、もう自分で決めて反応を見ることした。どうせ「似合ってるよ」しか言わないから自分で表情を見て判断しよ。


「あ、カードで」

 一番彼がデレてたやつを見つけて、上下セットで買った。今度外出するとき、来ていってあげよ。照れて目線を逸らす彼を想像すると私まで照れてきた。

「何デレデレしてんだよ」

「してないよ!」

 危ない、バレるバレる。私が彼の表情でなんとなく気持ちを汲み取れるようになったのと同じく彼も汲み取れるようなってる。昔からバレてる気がしなくもないけど。


「買い忘れあったや」

 そういえば雑貨屋でペンを買おうと思ってたのを忘れてた私。

 間抜け、へっぽこ、ポンコツ。

「次来るやつ逃したら帰るの結構遅くなるけど、どうする?」

「瀬戸君先に帰っててよ。私は買いに戻るからさ」

 私に選択を委ねてくれたから、一人で買いに戻ることにした。瀬戸君、待つの嫌いだろうし。あ、それ私か。

「じゃあ、また家でね!」

 そう言って、出来るだけ早く帰れるように私も走って買いに戻った。


 買い終わった時間は18:20。次の電車は18:25だけど、駅まで微妙に間に合わないから18:32。

「退屈だな〜」

 照明で眩しい天井を見上げて一人、ぼやく。やっぱり私は、彼がいないと生きていけない。

 こんな短い時間でも寂しくて、消えて無くなりそう。

「何やってんだよ」

 ビックリして、正面を見る。降って湧いたように飛び出してきた声の主は、何も考えてなさそうな目で、私を見てた。

「そういうとこ、ホント好きだよ」

「どういうとこだよ」

「優しいとこ?」

 彼に駆け寄って、手を握る。冷たくなってる手と正反対に、彼の心のぬくもりをヒシヒシと感じて氷みたいな人間の私も溶けそうになる。

「みんな、紫苑には優しいだろ」

「んーん。瀬戸君だけが、特別だから」

「そうかよ」

「そうだよ!」

 それから沈黙が続いて、なんだかむず痒くて、言葉を付け足したくなって。

「愛してる」

 それだけ伝えた。

 いつぞやぶりのデートで、テンション上がってたからかもしれないけど。なんでキョロキョロしてるか聞き忘れてるけど。

 もう、何でもいいや。

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