年末≠美少女

 私立式波高校2年白川紫苑、よろしくお願いしまぁぁぁぁす!

 ということで皆さんお久しぶりです。

 白川紫苑です。

 彼が私の家に来てから一週間が立ちました。なんと彼、クリスマスと無縁なあまりに、24日がクリスマスだと思ってたらしいです。イブなのにね。Eve。

 有象無象 人の成り 虚勢 心象 人外 物の怪みいだ……。

 はい。

 そんなつまんないことは置いておいて、今日は年末。彼氏と過ごす、初めての年末。

 そりゃもう!テンション上がりまくりよ!朝からお蕎麦なんて買いに行って!

 ちなみにテンション上がりまくりなのは、私だけじゃない。彼だって上がってる。多分。

「年末って紫苑、普段はどうやって過ごしてるの?」

 なんて聞いてきた。興味本位!?性的興味!?私の生態系を知りたいってことぉ!?

「私はそうだね、普通にお蕎麦食べて一人で遊んで、寝てる」

「知り合いと遊んだりしてるのかと思ってた」

 知り合いって言うあたりが彼らしい。というか、私をわかってくれてる証拠。マイ達しか、友達いないから。

「今年は瀬戸君が遊んでくれるんでしょ?」

 試すようにいう私。それなのに、返答を始めっから期待してる。し、わかってる。ずるい。

「そうな」

 目をそらしながら、興味なさそうに言う彼。でも内心は、ちょっと喜んでる。自分に嘘ついてるから彼自身も、わかってないけど。

「除夜の鐘聞く?」

「聞かない」

「あ、私の声を聞きたいんだ」

「そうな」

 今度の彼は呆れたように言った。だんだん「そうな」の違いがわかってきてる自分が何だか嬉しい。日本語が、変になっちゃうくらい。

「学校ないって、幸せだよな」

 彼が突然、口を開く。

「ホントに幸せ。願わくばニートになりたい」

「僕も」

「二人そろってニートはまずくない?」

「片方は紐かよ」

 彼が紐は似合わないから、私が紐になろうかな!

「瀬戸君が社会に出なよ」

「紫苑の方が社会に適してるだろ」

「向いてないから!見える!?この無情な世界を恨んだ目!」

 じっ、と彼を見つめてる。あらやだ、可愛い。

「あいも変わらず何考えてるかわかんない目をしてるけどな」

「愛も変わらず?」

「そうな」

 はぁっ、という溜め息が空耳で聞こえた。彼女に向かって溜め息する彼氏、どうなんだろ。私的にはおっけー。呆れられるくらいが丁度いいから。もしかして、M.

「というか、年末に学校の話すんなし」

「そういえば紫苑のこと、人に媚び売ってるだの言ってる奴いた」

 だから学校の話すんなし。

「ほっとけばいいよ、そんな有象無象。私の外見と立場に嫉妬してるだけでしょ?」

「そうだろうけど、いいのかよ。ほっといて」

「いいよ。そんなしょうもない人間に構うほうが面倒くさい。そういう人は所詮、何もなせない、なんなら人間にすらなれないから」

「なら、何になるんだよ」

「ただの化け物。人を嫉妬する癖に、手に入れようとする努力もしない。ただただ人を羨んで妬んで、それでいて更に欠点を見つけて必死にバカにする。自分の勝ってるところがないか一生懸命探す。哀れだよね」

 だから年末に何の話してんだろ、私達。

「なら僕達は、意外と普通に生きていけてるのな」

「Yes,we can!」

 自分で言っておいて、何言ってんだろ、なんて思う。

 あれ?

 もしかして、私も哀れ?


「鬼はー外、福はー内」

 彼と一緒にいるものの、暇すぎて意味もなく適当なことを言う。彼の家ならカオルちゃんと遊んでたのだろうけど、今は私の家にいるからそうも行かない。今晩にでも彼の家に行こうか悩んだりしてる。

「季節先取りにも程があるだろ」

「見えない物を見ようとして〜望遠鏡を覗き込んだ〜」

「それはいつの季節でも行けそう」

 なんてくだらない会話をしてる。適当にしてる彼も可愛い。私がずっと守ってあげていたい。

「いつでも鬼は外だし」

「そうな」

「瀬戸はー内」

「ただの瀬戸内になる」

 ちょっと可笑しくてクスッと笑う。学校なら常にニコニコしてるからこういう感情の機微がない。

 あ、今学校って話題に出したやつ誰?

 私自らぶっ潰してやる!!


「散歩行こうよ」

 午後17時。暇を持て余した私がとうとう、外に出る決意をする。「あー」と言いながら床を見る彼。

「今年最後の世間の空気を吸っておこう、みたいな?」

「私のこと社会不適合者だと思ってる?」

 マフラーを巻いて、外に出る。それでもまだ肌寒くて、身体を縮ませた。

 喉を冷たい空気が通り過ぎ、魂ごと冷却されていく感じがする。

 でも私は、この季節が好き。

 この、全身に冷気が渡っていく感触が、好きだから。

「あ、瀬川さん」

 彼がそう呟いたのが聞こえて、振り返る。そこには後輩の奈緒ちゃんがいた。

「白川先輩こんにちは。お久しぶりです」

「おぃーっす」

「お邪魔でしたね。良いお年を」

 ランニング中だったみたいで、足早に行ってしまった。私も後ろから良いお年を〜!なんて叫ぶ。

「皆、変わっていくね」

 思えば私も、だいぶ丸くなった。前はもっと、ツンツンしてた。

「そうな。でも、変化を恐れることが一番愚かなんだ」

「でも、変化が一番怖い。変化して、周りと違うようになるのが日本人は一番、怖いんだろうね」

 だから私達は、周りに合わせる。何人かが右を向くと、皆が右を向く。

 でもそれは、正しいのだろうか。

 私はこれにいつも、疑問を抱く。

 意味もなく右を向いたところで、そこには何の意味もない。

 だから、自分で考えて自分で動く。

 変化だって、私はいとわない。

「この空気も、どれだけ変化した瀬戸君も、私は死ぬまでずっと、死んでもずっと愛してるから」

 彼の目を見て、薄く笑って、私は言う。可愛いく見えてるとかそんなの、気にせずに。

「僕も、愛してる」

 彼も足を止めて、私を見る。街中で、私達の時間だけが止まってる。今は周りからどう見えてるかなんて、どうでもいいや。私は元から気にしないけど、ね。


「3.2.1.Happy new year!!!」

 お蕎麦を私の家で食べた後、親が帰ってくるとの情報を聞きつけて瀬戸君の家に来た。別に親が嫌とかじゃないけど。

「はっぴーにゅーいや〜」

「ハッピーニューイヤーです!」

「明けましておめでとう。紫苑ちゃん」

 彼が一番テンション低くない?

 まぁ、いいや。

「瀬戸君、今年も来年も再来年も、ずっとよろしくね!」

 照れたように目をそらす可愛い彼を見つめて、作り笑顔なんてせずに、声を張って彼に伝える。これが私の本心なんだ!自信を持ってそう、伝える。

「よろしくな」

 彼も薄く笑って返してくれる。

 私達の一年がいい年になりますように。

 世界に願ったところで意味がないから、私自身にそう願う。

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