美少女≠写真
「意外と面倒くさいね、読モって」
cityさんのところの編集の人から説明を受けて、帰宅中の僕達。袋に入れて渡された服をプラプラさせて、退屈そうに歩いてる。午前中から行ったから、まだ昼間。
「そもそもさ、特別洒落てるわけでもない私をよく勧誘したよね」
紫苑の服装は至って普通で、本当に特別性なんて無い。可愛いのは可愛いのだけれど。
「総合的に良かったんだろ」
「顔だけに惹かれるって、なんだか複雑」
「モデルなら、仕方ないだろ」
「それもそうだけど、さ。私の心まで写してくれるようなのがいいな」
よくよく考えてみると、服を美しく写すことに心は全く関与してないから多分、紫苑の望みはかなわない気がする。
「拒否しようと思えば拒否出来るんだし、嫌なら辞めればいいだろ」
「こういうことは簡単に辞められるのに、なんで人生は辞められないんだろうね」
真っ昼間。信号の音が鳴り響いてる中、二人で見つめ合うという何でもない時間が流れる。
「そうな」
「学校は簡単に辞められる?」
「辞めるなよ」
「わかった」
素直過ぎて僕がビックリした。
「それでいいのかよ」
「いいよ。瀬戸君が言うなら、私はそうする」
いつもはそうしないクセに!結局、本気で言ってないということ。寧ろ、本気で言ってくれていなくて助かった。出来れば、辞めてほしくないし。紫苑がやめたら、僕もやめそう。
「僕も人生、簡単に辞めたいな」
「人として生きるんじゃなくて、私として、白川紫苑として生きたい」
「僕も。人に流されずに、自分の意志だけで」
それが出来ないから、今を生きる人間にはやりたいことがない。自分で何も、選べない。自由を与えられたときに何をすればいいのか、自分でもわからなくなる。
「必死に生きてる間が、幸せなのかもね」
「何かに必死になれるから?」
「何にも必死になれなかったらさ、つまんないよ」
空虚な人生を、想像してみる。いや、体験していたのを思い出す。紫苑と過ごすようになるまではそれはもう、空虚だったから。毎日、何もない、何もすることがない生活。地獄だ。今思えば、楽しくなかっただろう。その時は何も起きないようにって、ずっと思ってたけど。
「今は生きるのに必死になれてるのかよ」
んー、と考える紫苑。
「瀬戸君との日々と、私を私で保つことに必死?」
紫苑も紫苑で、苦労してる。
「なんで疑問文なんだよ」
「だってほら、必死なことって、自分ではわかんないし」
「必死かどうかは、自分で決めるもんだろ」
「それもそっか〜〜」
晴れた空を眺める紫苑。気怠さを感じられるような返事の割には、目は透き通っていて強い生きる意志を相変わらず感じる。なんだかんだ、紫苑は生に無頓着なんかじゃない。生を全うしてる。ただ、死に興味があるだけ。死を、望んでいるだけ。だから、いつか迎える死を美しくするために、今を必死に生きてる。
朝5時。紫苑に叩き起こされた。文字通り、叩き起こされた。
「瀬戸君って、意外と起きないね」
「そうな」
もう着替えてる紫苑を横目に、僕も着替える。寝ぼけて、恥ずかしいとか何も考えずに。
「とうとう気を許してくれたってことぉ!?」
ホントに朝から騒がしいやつ。
言われた場所に行くと、もうすでに準備が始まっていた。僕は傍らに立ってるだけ。
「見て、私の服。死ぬほど寒い」
自分の服装を「冬に着るもんじゃないよ!」なんて騒ぎながら僕に紹介してくれた。ちなみに、昨日も同じことをしてるから僕はうんざり。
「これから撮るらしいから、見ててね!」
「言われなくても、見てるよ」
3.4ヶ月前のコーデを基本撮るらしいから、寒いような服を着るらしい。確かに、雑誌の編集とか考えると、そうなるのかも。
着々と、撮影が始まっていく。手馴れない紫苑が色々指摘される姿はなんだか新鮮。基本あの美少女は何でもできるから、何かこう、人から指図されたりしないし聞いたりしない。だからこれは、紫苑からしても特別なことなんだろう。
「彼氏さんですか?」
編集っぽい女の人に、話しかけられた。ほっといてほしいのに。
「はい」
「可愛い彼女さんですね」
そんな話をしてる頃にはもうすでに、紫苑はそれっぽくなっていた。ポーズなんかも決めたりして。普段から変なポーズはしてるけど、誰が見てもホントに笑ってるような作り笑顔と、マトモな設計されたポーズを取ってると違和感しかない。だめだこれ、どうしても笑い堪えられない。
「モデルとか、初めてですか?」
「そうらしいですよ」
興味もないし面倒くさいから、淡々と答えていく。
「ホントに顔、整ってられますね」
「心も整ってますよ」
「いい彼女さん、てことですか?」
「まぁ、そんなもんです」
なんだか紫苑が顔だけみたいに言われた気がして悔しくて、言い返した。
僕、心狭いな。
「それで、撮影、どうだった?」
「なんだか、恥ずかしいね、あれ」
紫苑に恥ずかしいとかある方が驚いた。てっきり、余裕とか言うのかと。
「珍しいな」
「だって、普段は有象無象共に見せるためだけどさ。今回はほら、色んな人が見る上に私をどう見るのかわかんないから、心がどこにいるのかわかんない駄作みたいで、恥ずかしい」
「いいと思うよ。紫苑は、紫苑だし」
その後、送られてきた紫苑の写真を見てみると確かに、写ってるのは紫苑だけど紫苑じゃないみたいだった。
単なる、美少女。
これじゃ紫苑の魅力の全ては伝わらない。
哀れな、美少女じゃないと。
厄介オタクみたいでキモい僕。
同じ考えのキモい紫苑。
二人揃って、なんだかおかしくて笑った。
魂の抜け殻みたいな写真を見て。
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