復帰絶起歓喜
やることがあまりにも多いという言い訳でひたすらサボっていた僕達はとうとう、部活に顔を出した。僕達の何が立ち悪いって、正当な理由があってサボってること。
「全然いっすよ。俺達二人でも全然回せるんで!」
特にやることないしね。
「ところで、白川先輩はどうしたんすか?」
「白川は今日寝坊でサボった」
起こしても起きないし、放っていくって言ったらオッケーって言ったし。学校にはなんて連絡してるのか、知らないけど。下手したら連絡してない。
「なら、瀬戸先輩だけっすか」
「そうなるな」
紫苑がいても、戦力にならないけど。寧ろ、真に恐れるのは無能な味方という名言があるとおり、いても無茶苦茶にされそう。
「それで、12月の天体観測はいつの予定?」
「決めてないっすね」
と、何も決まってないから紫苑抜きで全部決めた。と言っても、12月は無しにしよう、ということだけだけど。
「おかえり!遅かったね」
このクソ寒い日に暖房をつけながらアイスを食べる美少女に、ちょっと腹が立った。
「部活に顔だしてたからな」
「天体観測は?」
「ない」
「やだ」
無視して着替えに行った。じゃあ、寝坊しても来いよ。
「学校の皆、なんて言ってた?」
僕が階下に降りると、夕食を作ってる僕の母親の前で、ソファーに座りながら堂々とアイスを食べる紫苑。随分慣れたものだな、なんて思う。
「何故か、紫苑がなんで休んでるか僕に聞かれた」
あはははは!と紫苑が笑う。問い詰められるの大変だったんだぞ。苦労を知れ、苦労を。
「それでそれで、瀬戸君は人気者になれた?」
「紫苑の七光にはなれてる」
そう言うとまたゲラゲラ笑い出した。
「瀬戸君がどうであれ人気者になれたなら私はいいんだよ!」
「僕は良くないよ!静かに生きたいのに」
「ぼっちなことの言い訳?」
「違うよ!一人でいるのが好きなだけ!」
「ふ〜〜ん」
ニヤニヤしながら見てくる。
「なんだよ」
「なんでも?」
そう言う紫苑が、食べきったアイスをゴミ箱に器用に投げ入れて見せた。僕はそんな器用な人間じゃないから、一人でいるんだよ。
「あ、今度cityさんの事務所行くからついてきてね」
「わかったよ」
自分の予定だけはしっかりしてる。ある意味流石。
「ときが満ちたね」
カヲル君みたいなことを言ってる。何だこの美少女。
「紫苑、起きろよ」
「やだ。もうちょっと寝たい」
翌朝。知らない間に走ってきて知らない間に寝直してる紫苑を起こそうと奮闘する僕を嘲笑うかのように、紫苑はベッドにしがみついていた。
「また遅れた挙げ句来ないだろ」
「学校行きたくない」
「なんで?」
「つまんないから」
そういえば最近、いよいよ猫被ってるのも疲れてきたらしい。有象無象共の粘着が最近酷くてさ〜、なんて言ってたのを思い出す。
「なら、当分休む?」
そう言うと、ビックリしたように紫苑がこっちを向いた。いや、見た。
「瀬戸君が私に甘いなんて珍しい……」
「そうでもないと思うけど」
「そうでもあるし」
僕もそろそろ、手を打たないとと、思い始めていた。僕が紫苑のことを好きなのはほぼ全員が知ってる。そして、紫苑にも好きな人がいるのバレてる。それを踏まえた上で、紫苑が男子に手を焼いてるのを軽減させようと思ったらやはり、僕と付き合っているということを公表しないと行けないのかもしれない。
いやでも待てよ。公表したところで、僕からなら紫苑を奪えると自信満々に攻めてくる輩がいないこともない気がする。そうなると周りは、僕の悪口なんて平気で言うだろうから、紫苑の心理的負担はさらに大きくなる。ならやっぱり、言わないほうがいい?
どっちもどっちな気がする。
女子間ではまぁまぁ知られてるらしいけど。
やっぱり、噂は広まる。誰が他人に言ったとか興味ないけど。
とりあえずなんとか、紫苑が楽に過ごせるように僕も、手を打ちたい。
「ねねねね、それじゃ、瀬戸君もサボろうよ」
「それしたら、英国の二の舞だろ」
「もう、いいじゃん」
「それに、出席点は欲しい」
というか、紫苑の方が点数まずいんだから来いよ。
「ねぇ、瀬戸君と話してたら、目、覚めちゃったんだけど」
「なら、着替えて行こうよ」
ムスッとしたような顔で突然脱ぎだしたから、部屋を出た。もう随分、紫苑も家に馴染むぐらい一緒に住んでるけどまだ、着替えとかには慣れない。
いつまでたっても恥ずかしいモノは恥ずかしい。
紫苑の着替えを待って一緒に階下に降りると、もう家を出る時間を過ぎていた。
ニヤニヤする紫苑。
絶望する僕。
驚く母親。
もう家から出てる妹。
「サボるか」
「だよね!」
はぁ、とため息をうつと、真逆で超喜ぶ紫苑。
よーし!よーし!
とか叫んでる。
僕の母親も、紫苑が来てからだいぶ緩くなった。
紫苑に皆、変えられていく。
僕の人生も、僕の生活も、変えられていく。
こんなに流される自分が情けないけどなんだか、心地いい。
紫苑に流されるなら、心地いい。
これが、地獄への第一歩だとしても。
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