愛が僕に噛み付いて〜離さないと言うけれど〜

 12月半ば。もうだいぶ寒くなって、雪が降るんじゃないかというような季節。マフラーと手袋で完全武装してる紫苑が今年も人気を博している。あ、そういえばメンタルも防弾チョッキで武装してたっけ。

「私達高校生ガールズにもズボン履かせてほしい」

 家を出て駅に向かう途中。太ももの裏を擦りながら、器用に歩いてる紫苑。自称美少女のやるような行動じゃないと思う。

「現代社会のつまらないジェンダー感に付き合ってやれよ」

「スカートは女子高生の象徴〜とか言ってる人が何人かクラスでいたけど、バケモノでしょ。そんな象徴さっさと捨てて温かくなりたい」

 瀬戸君といると、なんだかぽかぽかする。なんてくだらないこと言い出したから無視した。というか、僕と一緒にいてぽかぽかするなら、もうスカートでいいだろ。

「実際、ズボンの方が温かいしな」

「ずる」

「ずるくなんかないだろ」

「一日性別交代しない?」

「しない」

 女子のあの殺伐とした関係に入るの、嫌だし。

 ちなみに紫苑はスカートを折ったりしない性格なのに、何故かちょっとだけ折ってる。本人曰く、微妙に折るのがポイントなのだとか。折りすぎると男子にジロジロ見られるらしく(折らなくても見られるらしいけど)、折らないと女子に笑われるのだとか。影で言われることに関しては全く気にも止めずガン無視を貫く紫苑だけど、直接言われるのには苛立つらしい。自分は直接言う癖に。


 教室に紫苑より先について、やってない週末課題をやる。紫苑の分も。毎週毎週、これの繰り返し。先週もやってなかったし。

「おはようございます!」

 いつもに増して作り笑顔が上手な紫苑がやってきた。目元まで完璧。上機嫌なふりが上手い。

「よっす白川!」

「白川、クリスマス予定空いてる?」

「ばっか!白川はクリスマスパーティに去年も参加してたからそれがあるに決まってんだろ!」

「あぁ、あの陽キャの集いか……」

「畜生……!あれには俺達は参加出来ねぇ!」

 あれ、陽キャの集いとか言われてたのか。

 陽とか陰とか、紫苑が一番嫌いそうな区分してたんだと思うと、寒気がする。紫苑のこと、何も知らないだろ。

「あ、瀬戸は禁止だぞ」

 違法行為をして村八分を食らってるかのような扱い。

「わかってるよ」

「私も今年はパスだよ」

 その返答に、空気が凍った。

 瞬間、冷却。

 瞬間、沸騰。

「なんで来ないんだよ!」

「まさか……瀬戸が来ないから!?」

 ははは、なん言ってる笑顔を崩さない紫苑。

 女子は何も言わないし。紫苑が僕に合わせてるのわかってるから。

「別に、そんなんじゃないだろ」

 慌てすぎて僕の言葉でも「そうだよな」なんて言って納得する始末。早く現実を受け入れればいいのに。紫苑、露骨に僕に合わせてるから。

「そういえば、他のクラスに転入生来たらしいよ」

「え、まじで!?どこのクラス!?」

「わかんないけど、噂で聞いた」

 情報がザックリしてる。紫苑らしい。

 ゆっくり〜じっくり〜ざっくり〜。

「女の子らしいよ。知らんけど」

 朝から紫苑に踊らされる、哀れな僕達。


 放課後。結局その転入生を拝むことが出来なかった僕達は、途方に暮れていた。なんてあるわけなく、普通に思い出すこともなくクレープを食べていた。

「転入生って言われてもさ、私、学年のほとんどの子の顔覚えてないんだよね」

「なら、皆転入生だな」

「私から見たら少なくともそうなんだよね」

 僕のトッピングのバナナを奪って一口で食べ、少し空を見上げながら先を歩く美少女。

「逆に、誰なら覚えてるんだよ」

「え、誰だろ。去年のクリパ(クリスマスパーティ)の主催者とか?」

 名前覚えてないんだったら覚えてないも同然だろ!

「寒くなってきたし、早く帰ろうよ」

「そうな」

 マイペースさに呆れつつ、背中を追った。

 相変わらず、華奢で守ってあげたくなるような、そんな背中。

 それなのに本人は、どんな渦中であろうと僕が関われば飛び込んで来る。

 どこまでも愛してくれて、どこまでも追いかけてくれる。

 頼もしいな、紫苑は。

 なんだか、自分で言って矛盾してる僕。

 感傷に浸っている。

 すると、くるっと身体ごと紫苑が振り向いた。

「マフラー、一緒にまこっか?」

 何も防寒してない僕に、声をかけてくれた美少女。その笑顔は紛れもなく、本物で。それでいて、流石。綺麗だ。それでも。

「遠慮しとく」

 僕も、笑顔で返した。






 ※カクヨムコン、中間選考通ってました。調子に乗っております。

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