美少女≠計画

「紫苑って、クリスマス会行く?」

「行かないよ。瀬戸君が行かないなら」

 イギリス行ってたから来るなって言われてるから、僕は勿論行けない。

「行けないな」

「なら、私も行かない。それだけ」

 日曜日。家で特に何かやることもなく、ゴロゴロして過ごしていた。リビングで。紫苑はポップコーンを食べながら。

「クリスマスプレゼント、何がほしい?」

 僕が紫苑に聞いてみた。

「シン・エヴァのBlu-ray」

「ロマンチックの欠片もないな」

「私にそんなこと期待する方が間違えてるよ」

 確かに、紫苑にそんなこと期待しても無駄か。

「それ、僕も欲しいから二人で買わない?」

「クリスマスとは別で?」

「別で」

「良きかな」

 とりあえず、amazonで予約して、結局また、寝転んで虚無の時間を流すことになった。

「何かしようよ」

 耐えかねた紫苑が跳ね起きて、僕の方に歩いてくる。で、上に乗られた。

「何すんだよ」

「このまま服脱ぐ?」

 ボソッと囁くように、誘うように、紫苑が言う。

「脱がない」

 リビングで何やってんだよ。というか、僕の顔をベタベタさわんなよ。塩まみれの手でコントローラーを触られるくらい、ウザい。

「暇ならさ、ランニング付き合ってよ」

「え〜〜」

「運動不足は来いし」

 なんとなく予定を立てるようなムードだったから僕も年末までを考えようと思ったけれど、紫苑の気まぐれに付き合うことになった。運動不足とか言われると、反論出来ないのも勿論あるけど。


 1km走ったぐらいで、Mr.運動不足こと僕は力尽きた。当然のように。で、案の定歩き始めた僕に紫苑が僕に合わせてくれた。

「なんで、紫苑はそんなに、走れるんだよ」

 寒そうに見えるランニングウェアを着てるのに澄ました顔で僕を見る美少女が憎く見えたから聞いてみた。

「普段から走ってるからね」

「そんなとこ、最近見てないけど」

「瀬戸君が寝てるときに走ってるからね」

「まじかよ」

「疑うなら、毎朝脱ぎたてのランニングウェアの匂い嗅いでもいいんだよ?」

 そんなの匂ってどうするんだよ。紫苑のことだし、特に何も匂わないだろ。

「別にそんなのいらないよ」

「私の体操服の匂い嗅いでみたいって人いっぱいいるから嗅ぎ得だと思うけど」

「思わないよ」

 嗅ぎ得なんて日本語、初めて聞いた。

「なら私達、証明がいらない関係だね」

 そんな関係も初めて聞いた。

「信用しあってるからな」

「なんでも証明が必要っていうの、好きだけど嫌いなんだよね」

「好きなときと嫌いなときがあるってこと?」

「そうそう。That's right!」

 紫苑は変な言い方するときがあるから、伝わらない場合が多いけど今のがその片鱗。

「証明って大事だけど、出来ないモノもあるじゃん」

「そうな」

「例えば、愛、とか」

「目に見えたらいいのにな」

「目と目が合う〜その瞬間〜」

 歌い出した紫苑を、何だよこいつみたいな目で見てると、スンッともとに戻った。

「とにかく、さ。何が言いたいかと言うと、証明しなくてもわかり合える関係っていいよね」

「そうな」

 これは宛もなく話したな〜、なんて僕はひっそり思った。本人は上手くまとめたつもりみたいだけど。あ、ドヤってる。哀れで可愛い。

「何さ」

 僕が紫苑を凝視してると、変人を見るかのような目で見返してくる紫苑。

「なんでもないよ」

「瀬戸君って、たまにキモいよね」

 真顔で言うからちょっと傷ついた。

「そうな」

「瀬戸君だから、何でもいいんだけどね!」

 最後に笑ってくれたのが僕への免罪符みたいになって気が晴れたところで、紫苑がまた走りだした。


「これから何回、一緒に年末過ごせるのかな」

 家に帰ってきてシャワーを浴びて、結局ゴロゴロしてると紫苑がそう切り出した。

「誰にもわからないだろ。1回も、過ごせないかもしれないし」

「死が全ての終わりじゃないよ。私が瀬戸君とクリスマスを過ごしてるって認識すれば、魂さえあれば、私達はきっと、生きてるんだから」

「そうな」

「それでなんだけど、今年のクリスマスは何する?」

 話題の切り替え方が3次元と7次元を反復横とびしてるぐらい滅茶苦茶。

「別に何もないだろ!普段と変わること!」

 なんとなく、勢いをつけて言ってみた。

「変わるかもしんないじゃん!私、クリスマスパーティとか家族でしないからわかんないの!」

「強いていうならチキン食べるぐらいだろ!」

「セロリはありますか!?」

「ありません!」

「なら何でもいいです!」

 しばらくの間そんなくだらないノリで、クリスマスに何を食べるかを二人で話していた。

「beef or chiken?」

「さっきチキンって言っただろ」

「woops」

「なんで英語なんだよ」

「雰囲気出したいから?」

「ならセロ入れる」

「お寿司食べたい」

「却下。あまりにも合わない」

「瀬戸君はお寿司のネタ、何が好き?」

「はまち」

「私はさー、イクラが好きでさー。特に食べずに潰すのが好きでさー」

 なんだか、会話が成り立たないな。気のせいかもしれないけど。

「微妙にサイコパスでいいと思うよ」

「地中海行きたい」

 紫苑の情緒はどこにあるのだろう。我々はそれを探るべく、アマゾンの奥地へと向かった。

「クリスマス関係ある?」

「ない」

「お寿司は?」

「ない」

「予定立てる気ある?」

「ない」

「何にもないじゃないか!」

 そう言うと紫苑が「う〜〜〜〜〜ん」とか唸りだした。

「予定とか立てなくても生きていけるし、立てても崩壊するだけだから無駄」

 確かに。紫苑に破壊されそう。

 そう思って僕も、無駄なことはやめた。

 結局、1日無駄にした気がする。学校に出された週末課題も、何もやってないし。

 また来週から学校だと思うと、頭が痛い。

 クラスの一部には、付き合ってることバレてるし。生きにくくて仕方がない。

 それでもなんとなく、いつか全員にバレる気がして覚悟した。

 いや、覚悟しきれてないけど。

 そうなったら、学校通いにくそうだな、なんて思った。

 紫苑と一緒に学校、サボろうかな。






 ※今日から再開します。長い間お待たせ致しました

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