美少女≠苦業
土曜日午後。学校帰り。自分が私立に入学したことを悔やみながら制服に袖を通す日。
そんな日に何をしているのかというと、紫苑と二人でカフェに来ていた。何ら普通だけど、普通じゃない。人を待ってる。そろそろ部活に顔を出さないと、いよいよ廃部の危機だからその打開策なんか考えながら。
「遅くなって悪かったわね」
「あ、cityさん。遅いですよ」
超イヤイヤな紫苑を引っ張って連れてきた僕はもう既にクタクタ。説明無しにいきなり撮ってお金を貰えると思っていたらしい。どれだけお金欲しいんだよ。
「今日は説明だけだから。君も、もうちょっと頑張って」
「すみません」
サンドウィッチを貪る紫苑を心底恨む。僕、寝てたいのに。紫苑が聞けよ!撮られるやつが一番聞いとくべきだろ!
「それで、これはご本人に相談なんですけど」
「はい!この美少女になんでも聞いてください!恋愛相談から人生相談、はたまた復讐相談なんかも受け付けます!」
最後だけえらく物騒。
「どういう方面で売り出したいとか、白川さんの中でありますか?」
「AVみたいですね」
「やめてください」
うーん、と少し考える紫苑。
「デート代は割り勘系女子高生美少女で」
「どんな女子だよ!」
思わずツッコんだ。色々まずいだろ!
「出来れば、明確にしてくれますか?」
困ったようなcityさん。そりゃそうだろ。
「私が私ってわかるような、そんな風に撮りたいです。この世界に私は、一人しかいないんだって」
それを聞いて何やらメモっている。紫苑の言いたいことはだいたい、存在感を示す、ということ。ちゃんと伝わってるか不安。奇抜なヤツになりそう。
「わかりました。ありがとうございます。では、日時が決まったら連絡しますね。質問とかありますか?」
「あ、質問いいですか?」
紫苑がスッと、学校でも見たことないぐらいキレイに手を挙げる。それに反応して店員さんが来てしまったから、すぐに降ろさせた。
「何?」
「今更なんですけどモデルって所謂、読モですよね?」
「そうよ」
「有名になれたら、学校サボれます?」
「多分、無理ね」
それを聞いた途端、心底辞めたそうな顔で僕を見てきた。
「なんとかサボれるようになるまで、がんばります」
どれだけ学校嫌なんだよ。今まで学校嫌とか、言ってこなかったかったのに。
「学校、辞めたいんだよね」
cityさんとの話が終わって、フラフラする気も起きずに家にまっすぐ帰る僕達。カフェに寄ってる時点でまっすぐではないのだけれど。
「突然どうしたんだよ」
「だってさ、大学が自力で行ける時点でもう、高校必要なくない?」
「そうは思うけど、行っておいて損はないだろ」
「人間関係とか、退屈なの。今しか関わらない人達のご機嫌とって、仲のいいフリをしないといけない。そんなくだらないことで私の人生の時間つかうんだよ。ありえない」
「やめて、何するんだよ」
うーん。と考える紫苑。彼女の見上げる空はもう、赤くなりつつあった。冬になって、夜の時間が長くなっていく。
「なにするんだろ、私」
「目的ないならとりあえず、行っておいた方がいいと思うけど」
「それもそっか。瀬戸君もいることだし」
僕がやめたらやめるのかよ。
「やらなきゃいけないこと多くて、ショートしそうなんだよね」
「例えば?」
「まず、部活のことでしょ。モデルのことでしょ。瀬戸君のことでしょ。年末のことでしょ。クリスマスのことでしょ。ほら、死ぬほどある」
ほとんど紫苑が勝手に悩んでるだけじゃないか!学校関係ないし!それに僕のことは意味がわからない。
「僕、何かしたっけ?」
「してないよ。瀬戸君といて不快になったことなんて、私ないし」
「ならなんで僕のこと?」
「瀬戸君のこと考えてると、なんだか落ち着くんだよね」
そういう紫苑の顔は無表情。最近紫苑が感情を見せることが多かったけど、そういえば基本、無表情だった。
「それは僕としたら、なんというか良かったよ」
こういうときに簡単な言葉しか出てこない自分に絶望する。
「私達、ハッピーになれるのかな」
多分なんとなく、紫苑がつぶやいた。
僕達は、ハッピーになれるのだろうか。
そんなこと誰にもわからないだろうけど、不思議となれる気がした。
紫苑となら、幸せに生きられそうな。
「なれたらいいな」
「なろうね」
「そうな」
なれたらいい、じゃなくて、なろう、と言うのが紫苑らしい。脆いくせに、そういう強い面も持ち合わせてる紫苑。こんな魅力的な人間が、外面だけで称賛されるのが勿体ないと感じてならなかった。
それと同時に、これは僕だけが知っている紫苑の面なんだと再認識して悦に浸る。
あぁ、なんて、可愛いんだ。
生きることに億劫な哀れな美少女。
彼女と一緒にハッピーになれたら、どれだけいい人生なんだろう。
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