誘導尋問≠美少女

 皆さんどうもコンコ〜ン。白川だっよ!

 今、彼氏が尋問されてます。

 え、異常事態だって?

 そんなことは〜、ありませ〜ん。

 私も協力してるので。

「白川さんと瀬戸君ってペア、結構意外だね」

 Aちゃんが誰に聞くでもなくボヤいているのを聞いてふと、馴れ初めなんてモノを思い出す。そういえば瀬戸君って、今も昔もあんまり変わってないな〜、なんて。

「私達、外面的属性は全然違うけど中身は似たようなもんだよ」

「中身って?」

「価値観とか性格とか」

 実際彼も、多分前にいるこの子たちの名前を覚えてない。

 私も覚えてないけど。

 彼はよく「紫苑が名前を覚えてないのはマズイ」なんて言うけど、同じクラスなのに覚えてない彼もかなりマズイと思う。自覚してないのが狂気性をさらに感じさせてくれる。

 私にどんどん似てきちゃった。

「なんで瀬戸は周りに言わないの?」

「言ったら男の子にボコボコにされるから嫌なんだって」

 ねー。なんて言って彼を定期的に見る。

 彼からしか得られない養分がこの世には存在してるから、チラチラ見ないと死んでしまう。

「そりゃそうだろ。紫苑と付き合ってるなんてバレたら、この世の終わり」

「その時は私達が守るから大丈夫!」

 紫苑親衛隊かよ、なんて小さくツッコんでる。ちょっと面白いのがずるい。思わず飲んでたサイダー吹きかけた。

「ねね、瀬戸君にしか見せない白川さんの顔って、ある?」

 無数にあるな〜、なんて自覚してるだけのことを思い浮かべて、彼が何を言うかを想像する。なんだろ。

 人の名前覚えてないとか?

 実は白川紫苑は、皆の思うような陽キャでもなんでもないとか?

「紫苑は意外と強欲」

「そんなことないさ!私、ちょっとは欲張りだけど言うほどでもないでしょ!!」

「言うほどだろ!1手に入ったら100を欲するだろ!」

 うっ。ぐぅの音もでない。

「それでもって、案外カマチョ」

「やめてよ!恥ずかしいじゃん!それにそんなことないし!」

 いつもの仕返しだと言わんばかりのしたり顔をしてくる彼。それに「あ〜〜」なんて想像つくようにうなずいてるその他大勢。

「私!別にそんなんじゃないから!」

「白川さんって彼氏の前では甘える派なんだ〜可愛い」

 私のcoolな美少女のイメージが音を出して崩れてく……。水素の音〜とかそんなんじゃない。水素爆発の音。

「とりあえず瀬戸君、私の印象操作するのやめてくれないかな!?」

「あれ、白川さんは瀬戸君のこと瀬戸君ってよんでるの?」

「そうだけど」

 何か文句でも?

「瀬戸君は白川さんのことなんて呼んでるんだっけ」

「皆の前では白川。二人のときは紫苑」

「白川さんも名前で呼んであげたら?」

 そう言えば、意識したことなかった。呼び方なんてどうでもいいと思ってたから。あ、でも、いずれ同じ苗字になったときに面倒くさいか。

「ジロウでいい?」

「なんでそこだけ取ったんだよ」

「そうくん?」

「それはキモい」

「天剣でいいでしょ」

 なんだか面倒くさくなった。

「だめだろ。色々と」

「もう、何でもいいでしょ。困ったときに決めればいいや」

 それで話を強引に切った。私達の間で、そうやって何かしら違う呼び名で呼び合うとかないし。彼だって、私のことを紫苑って呼ぶのは呼びやすいからって言ってたし。

「瀬戸君さー、これだけ可愛い彼女がいて自慢したくならないわけぇ?」

 私がふと気になって、聞いてみた。彼がそういうタイプの人間じゃないのはわかってるけど。

「ならないよ」

「私が自慢していい?」

「誇れるとこがあるならな」

「初キスで舌絡めようとしてきた度胸とか?」

 軽く小突かれた。私の恥ずかしい話をされた仕返し。

「男の子になにか言われても、私が守るから大丈夫だよ?」

「守られる前に物理的被害が出るかもしれないだろ。それに、もう無理だなんて諦めたやつが無理矢理紫苑に突っかからないかも心配だし」

 用心深いんだな〜、なんて感心する。

「心配してくれてありがとね」

 そう言ってニッ、と笑って見せた。すると、おおおおおおおお!なんて外野がまたしても盛り上がる。

「二人ってさ、どこまで考えてるの?」

「死?」

 彼が慌てるようなそぶりで私を見てくる。あ、彼と二人でいるときのテンションで話しちゃった。

「結婚しよとか、そんなんじゃない。死ぬまで、一緒」

 構わず、言ってやった。ここで言うこと変えたら、私っていう人間がすたりそうじゃん?

「だから紫苑は重いんだよ」

「白川さんって、結構重めなんだね……」

「普通でしょ」

 そう言うと、呆れたような顔をしてる彼。迷惑な話だけど、彼を困らせるのは案外楽しい。可愛いしね。

「それにしても、男子達は白川さん取られてさぞ、悔しいだろうね〜」

「私にそこまでの希少価値ないって」

「あるよ!モデルの仕事とかやってそうって噂になってるよ!」

「やってな……」

 そこでこの前渡された名刺を思い出した。そういえば、帰って2日立つけどなんの連絡もしてないし来てないや。まぁ、いっか。いずれ来るでしょ。

「やってないよ」

「なんで言い直したの!?」

「そういう話はあったなって思い出したから」

 だんだん、私の話になってきた。

 彼は横でつまんなそうな顔で聞いてる。

 やっぱり皆、私のこと知ってるようで何も知らないんだな。

 私が一般的に見れば重いことや、ちょっとわがままなこと。可愛いは演じてて、普段はそこまでニコニコしてないこと。

 これは、彼だけが知ってる特別なことなんだと思うと、ちょっと嬉しくなってくる。なんで私が嬉しいのかわかんないけど、秘密を共有してるみたいで。

 今もこっそりポケットに入れて持ってるブレスレットを、ちょっと握ったりなんかしちゃう。

 何かの尋問みたいな時間を小一時間ぐらい過ごしてるけど、なんだか、悪くない気がしてる。自慢出来るし。

 あ、やっぱり私、強欲なんだ。

 自慢してのし上がって、もっともっと、彼の評価を高めて、私自身も高めたいから。






※昨日の分です。今日はもう一話更新します。上手く行けば2話更新します

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