偶像崇拝はするのではなくてされるモノなのです
「モデルって、何する職だと思う?」
「人に愛と勇気を与える?」
場所を移して、僕達の部屋。紫苑の荷物が散らかってるけど、そんなことまるで気にしないらしく、何事もなかったかのように、案内していた。僕、止めたのに。
「素晴らしい職業観ね。それが仕事始めてしばらくしても言えたらいいけど」
「そんな厳しい界隈なら辞めたいんですけど」
お手軽な界隈で生きたい紫苑だった。
「ところで、どうしてそう思ったの?」
「アンパンマンって、皆のモデルだと思うんですよ」
横で黙ってる僕が空気を乱してまでツッコみたいことを言ってるのに、何故かお姉さんは頷いて聞いてる。この人、まだ紫苑っていう人間を理解してないな。いや、無理に決まってるんだけど。こんなこと、紫苑が真面目に言ってるはずないだろ。
「だから、私もそうしたいです」
「いいわね」
「で、答えはなんですか?」
「答えなんて、ないわよ」
「ぶっ飛ばすぞこんにゃろ〜!」
紫苑が真顔で、表情変えずに変なこと言うから僕が笑った。コント見せられてる気分。
「ところで、お名前何と言うんですか?」
ケロッと話題を変える。
「渡海都」
「トカイミヤコって、2回も同じこと言わなくていいんですよ?」
紫苑が持ち前のクズっぷりを発揮してツッコんだ。人の名前聞いて笑うのって、普通に人間として最低だと思う。それが僕の彼女こと白川紫苑という人間なんだけど。
「おい紫苑」
「瀬戸君も大概だから止めろよとか言ってる場合じゃないよ」
シンプルな人批判。酷い。ご立派な名前の紫苑が心底羨ましい。
「それで、僕は何をすれば?」
「瀬戸君はね、ただ白川さんとの同行をお願いしたいの」
「いいですよ」
「え!?そんなあっさり!?」
「シティーさんがビックリしてどうすんのさ」
やめろよまた変なあだ名つけるの。それにちょっと呼びやすいし。
「いや、てっきりそれでお金は出るのかとか色々聞かれるのかと……」
「紫苑を見守れたら、僕は別になんでもいいですよ」
意外そうに驚かれ、僕も驚く。なんで僕が驚いてるのかイマイチわからないけど、なんとなく、共鳴する。
「それで、瀬戸君にお金は出るんですか?」
紫苑が聞くのかよ。
「何かの機会に一緒に撮るとかなら、ね」
「それ、瀬戸君にメリットないので瀬戸君にも出してください」
そして紫苑が交渉するのかよ。されっぱなしの僕。飼われてるみたい。ワンワーン!
「わかったわ。それでこれ、私の名刺」
それは受け取らないらしい紫苑に変わって、僕が受け取った。
「いつ頃日本に帰るのかしら」
「11/22に帰ります」
「それならまた連絡するから、連絡先、教えてくれないかしら」
ということでこれまた僕の連絡先を登録した。紫苑、携帯を出す動作しようとしないから。
「それじゃら日本で会いましょうね!」
そう言い残して、部屋を出ていった。
「それにしても、なんで珍しく受けたんだよ」
「私にも私の考えが、色々あるんだよ」
つまり、教えてくれない、ということ。なんとなく、理由は想像出来るけど。紫苑は強欲だから、今のポジションに飽きてもっと欲しくなったんだろう。高い地位を。皆からの支持を。お金欲しいのもありそうだけど。
「とにかくさ、こういうの初めてで不安だからちゃんとついてきてね」
「いつも、ちゃんとついてきてるだろ」
「ストーカーみたいな言い方すんなし」
そう言って薄く笑う。なんだかんだ不安なんだな、なんて勝手に僕は安心した。不安な方が人間っぽいし。
それから紫苑が変なポーズをとって、僕が写真で収める遊びをしていた。ちなみにだいたいが既存の漫画とかアニメで見るポーズ。ちなみに本人はオタクではないと言い張っている。たまにポロッと私はオタク〜なんて言ってるけど。
僕としては紫苑のオタクからの人気が出なくて嬉しい。人気出たら、オタサーの姫みたいになるし。それはそれで癪だし。オタサーの姫で留めるクオリティーの可愛さじゃないから。
こんな哀れな美少女が、容姿だけで評価されてたまるか。
でも多分紫苑は、いやもしかしたらの程度だけど、外面だけでどこまで自分が上がっていけるのか、気になってるのかもしれない。色んな要素があって、受けたんだろう。
とりあえずこれで、日本に帰ってきてからも忙しいことが容易に想像出来るようになってしまった。
※お待たせしました。今日から復活です。よろしくお願いします
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます