知らぬ街で生きてく中で

 4日目の朝。珍しく早起きした僕達は、朝6時半にもう、外をフラフラしていた。世界はまだ寝静まっているようで、冷たい空気だけが僕達を囲んでいる。

「日本の朝とは大違いの風景だね」

「こんなに広いところは、珍しいからね」

 しばらく歩いて、狂ったように広い公園へついた。朝露で濡れた芝生は、太陽の光を反射させ世界を眩しく包む。

「もうちょっとで、日本に帰らなきゃ駄目なのか〜」

 嫌だな〜、なんて言いながら芝生を蹴って、水飛沫を上げる紫苑。今の非現実な世界が馴染んで、僕も現実に戻りたくなくなっていた。いや、現実に戻りたくないのは、誰だってそうか。

「仕方ないだろ。僕だってずっと、学校休んでおくわけにもいかないし」

 危うくサボってることを忘れそう。須藤からの数多の連絡も無視しているせいで、完全に現実とは隔絶されているから。

「二人で一生、現実離れしたいね」

「そうな」

「あ、お父さんに頼めば多分、働かなくても一生暮らせるよ」

「それは駄目だろ。僕、立つ瀬ないよ」

 だってそれは要するに、紫苑のヒモってことだから。

「なら、株主?」

「一生PCに張り付いてる僕、見たい?」

「見たくない。構って欲しい」

「だから駄目だよ」

「なら小説家とか。夢は大きく、印税生活!」

 それが出来たら、困ってないんだろうな。

 朝の英国の公園という珍しい状況で、将来なんていう珍しいコトを話す僕達。今を精一杯生きてるのは現実世界の中なのであって、今の夢見心地の中では、僕達でも、将来なんて言う不確実要素すら話す余裕があった。ホントにずっと、この生活が続けばいいのに。


「あの、日本人の方ですよね?」

 公園を半周したところで、きっと僕達に話しかけているであろう女の人に遭遇した。二人の時間を阻害されたような気分で、いい気は起きなかった。それは紫苑も同じだったらしく、無視していた。

「さっき日本語でお話されているのが耳に入ったんです!」

「What's up?」

 久しぶりに見た、作った美少女で、紫苑が振り向く。わざわざ、英語で。

「あの、ホテルへの帰り道わかんなくなって、それで充電切れて、絶望的なんです!」

「Ok,Don't worry.You will help other people.」

 日本語に英語で返して背中を向け、手をヒラヒラさせて紫苑はニッコニコで歩いていった。僕も、紫苑の手下みたいについていく。

「死んだら呪いますからね!」

「You can try〜(やってみな〜!)」

 なんて言って、女の人の必死の懇願を無視した。

「なんだったんだろうな」

「わかんないけど、どうせ助けたところでろくな事ないし、いいんだよ。触らぬ神に祟りなしってやつ」

 紫苑に得を積むとかそういう概念はないらしい。確かに、助けてデメリットだったら、面倒くさいし。

「そもそもさ、私達は見たらわかる観光客なんだから後着いてくれば絶対に何かしらの対応受けれるところにつくのに。多分、バカなんだよ。私ならついてってる」

「言われてみればそうかもな」

 公園を出ると、あの女の人の話なんかすぐさま忘れて、印税生活の話なんてしていた。なんとまぁくだらない未来構想。

「それでね、漫画読んでたら、一時間一万字小説を書けるとかいう漫画出てきてさ」

「それは流石にありえないだろ。それで売れてるんだったら印税が恐ろしいことになってるだろ。高校なんて辞められそう」

「ホントそうだよね!辞めたいな〜、高校」

 他愛もない、現実味もない、どう捻ってもつまらない会話をしながら、ホテルに戻ってきて朝食を食べる。珍しくハッシュポテトとソーセージなんて食べてみた。

「げ」

「ん?」

「右見てよ」

 見ると、見覚えのある女の人。

「私に何か、言うこと、あるよね」

 女の人の笑顔って、ときに怖いときがあると思う。今現在がそれ。

「帰ってこれてよかったですね!」

「違うでしょ!」

「どうやって帰って来たんですか?」

 女の人が、僕の方を見てる。言いたいことは、なんとなくわかる。僕だって、慣れないうちはツッコみたくて仕方なかったから。

「こいつ、人の話聞きませんよ」

「ところで今君たち、いくつ?」

「16ですよ」

 はぁ〜、と呆れたようにされる。紫苑は無視して、朝食を食べ続けていた。僕も無視して朝食を食べたいけど、如何せん、僕が無視したら誰も話さないから僕が話し相手になるしかない。

「連れは?」

「彼女の両親です」

「ここに何しに来てるの?」

 何だよこれ、尋問かよ。

「お姉さんこそ、何しに来たんですか?」

 僕が聞くと、紫苑が口に何かを入れたままモゴモゴ喋り始めた。飲み込むまで、待ってあげることにする。

「瀬戸君は優しすぎるんだよ。お姉さんじゃなくておばさんじゃん。あと、私の彼氏に話しかけないでもらえます?」

 紫苑は笑顔なんて見せる気がないらしく、明らかに嫌悪感のある目で相手を見てる。これが、大人と子供の差、か。

「人の彼氏に悪かったわね。私はそうね、仕事で来たの。あと、おばさんじゃないから。まだ25だから」

 だからお姉さんって言ってるだろ。というか、お姉さんって僕が呼ぶのがヘイトを買ったのか。独占欲強いし。そういえば昔、お姉さん系の余裕のあるキャラになりたいって言ってたし。余裕なんてこれっぽっちもない癖に。

「へ〜、良かったですね」

 話しかけておいて、興味なさそう。

「知らぬ街で人が助けを求めてたら、助けてあげるモノよ?」

「すみません。僕、彼女に逆らえないんで」

 僕と紫苑を、見比べられる。で、納得されるまでが一連の流れ。

「それでなんだけど、私、モデルの仕事しててね。良かったら、働いてみない?」

「瀬戸君の話ですか?」

 そんなわけ無いだろ。

「私、興味ないですよ」

「前にいる彼と一緒に働けても?」

「興味あります。何すればいいですか?」

 単純なやつ。騙されてるじゃないか。と言うかやっぱり、話しかけたせいで祟られてるじゃないか。

 何気に、この手の話題に紫苑が食いついたのは始めてだし、悪いことではないのかもしれない。本人も最近、現実に刺激が足りないなんて言ってたし。

 僕も、話を聞いてみることにした。





※2/24現在。明日と明後日の25.26が入試です。明日のために一年間勉強してきたので、今日は緊張等で時間がなかなか作れませんでした。更新できないこと、大変申し訳なく思っています。現在、最新話を1200文字ほど書いているので、明日のうちになんとか1話か2話更新します。なので、今日はどうかお許しください。また、最近このような日が続いていることも、深く、反省しております。明日明後日が終われば晴れて自由の実ですので、それまでしばしお待ち下さい。

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