番外編〜白川紫苑が、今まで出たややこしい比喩まとめてみた〜

「ところでさ瀬戸君、私が言ってきた難解な比喩、ちゃんと理解できてる?」

 英国3日目夜。電気を消して、さぁ寝ようと意気揚々にベッドに飛び込んで15分。だんだん気持ちよく闇に入っていた頃、澄んだ声に起こされた。

「例えば、どんなだよ」

 ちょっと苛立って聞く。紫苑を見ると、頭の後ろに手をおいて、脚なんかも組んでカッコよく寝ようとしていた。

「シュレディンガーの猫箱とか」

「箱の中に猫がいます。しかしその箱は閉じられていて、あなたはまだ中身の猫を見ていません。ということは、死んでるのか生きてるのかわからないよね。ってことだろ?」

「正解!よくわかってんじゃん!だから私達は、外から私達っていう中身が認識されなかったら、死んでるのと同じなんだよ」

「他は?」

「いきなり最難関だけど、いい?」

「なんでもかかってきなよ」

「私がアボカドの理由」

 で、出た〜〜〜。

 消去法的に紫苑がそうだったのであって、具体的な理由なんて、僕にもない。紫苑には何かしら深い理由がありそうだけど。

「珍味だし、僕達の中では一番個性的な味をしてるからとか」

「70点」

「正解は?」

「アボカドってね、放っておいたら中身が黒くなるの。で、私って外見は変わらなくても、一人にしておくと私の内面はどんどん黒くなっていく。濁って濁って濁って濁って。だからつまり、私と同じだよね!ってこと」

 誰がわかるんだよ、そんなこと。

 確かに紫苑は、僕と出会わなければ確実に、危ない方向に流れていた。いつ死んでも、おかしくないような。そう思うと確かに、黒くなる。

 で、アボカドも放っておくと黒くなる。

 だから、アボカドなのか!

 なんだか納得してしまう自分がいるのがあまりにも悔しい。ホントに、誰がわかるんだよ。

「それは流石に無理だろ……」

「私も無理かな、って思いながら例えちゃった」

 そもそも、人を食べ物で例えようとしてるのが間違いなんだよ。

「それで他は?」

「私的には何もないよ。あ、京都でバトミントンを選んだのは、ホントになんとなく」

「野球ボールでキャッチボールするよりマシだったから、僕もあれで良かったよ」

 私、偉い!なんて言いながらベッドで転がりまわる紫苑。ドヤ顔してるのが見えなくてもわかるから、なんだか腹が立つ。

「まぁまぁ、他にもわかんないことあれば何でも聞いてよ」

「そうな」

「あ、今、興味なくしたでしょ」

「だって眠いし」

「私から興味なくすなんて、生意気だね」

 うりゃうりゃ!とか言いながら飛びこんできた。誰かこの強欲人を止めてくれよ!

 僕は紫苑という悪魔による襲撃で寝れないという地獄から抜け出すべく、毛布をかぶって意識をシャットダウンさせた。

 あとまだ3日あるのに、寝かせてくれなかったら疲れて死にそうだから。

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