夜警≠美少女

 身長161cm!体重47kg!特技は彼氏をイジること!

 どうも、白川紫苑です。

 最近、自分はどうかしてると思うことが増えた。それは私にとっていいことなのだけど。だってつまり、他の人とは違うところがあるってことの証明で。

「だからって、人の服の匂いを嗅ぐのはヤバいだろ」

 口に出してたら、彼にツッコまれた。

「いいでしょ。瀬戸君だって、私が寝てるとき勝手に髪いじって匂ったりしてるのに」

 表情は変えないけど、明らかに目が泳いでる。

 可愛いな〜〜〜。私の彼氏。

 出会った頃からなんにも変わってない。

 強いて言うなら、私への愛が増してるぐらい。

「そんなに匂いたいなら、もっと匂いなよ」

 すかさず彼のベッドへ不法侵入し、身体を擦り寄せる。

 最近の私には、目標がある。

 それは、手を出してもらうこと。

 何故なら私は、強欲だから。

 半年近くも一緒にいる彼ならきっとこれだけでわかるだろう。

 つまりつまり、私は彼と一緒にいるだけじゃ最近、満足しなくなった、ということ。つい最近までは、彼の隣で歩いてるだけで私は、満たされていた。

 でも、英国へ来て、その考えは変えられた。

 私達が知らない世界は、まだまだ存在する。そしてきっとこれから、私達はそういう世界へ、踏み出していく。

 受験、大学、結婚、家庭、社会人。そこからさらに、現実を超えた世界へ。

 そうなったとき、私には彼がいるってことを、強く実感したくなった。久々に英国へ帰ってきて、彼のいない日々を思い出したから。そこに戻るのはもう二度と、御免だったから。

「紫苑、冗談じゃなくて、本気でまずい」

 彼の急な真剣な表情に、私は不意を付かれてドキッとする。心拍数が激しくなるのが、よくわかった。もしかしたらこれから、私は知らない世界へまた……。そして私の中で瀬戸君を満たせるのかも……。

「何がさ」

 そういう期待は顔に載せるモノじゃないので、あくまで余裕のある美少女のように聞く。

「僕の匂いなんか嗅ぎ始めるのは、末期だ」

「……」

 彼のこの大好きな私の髪で、頭突きしてやろうか。少しでも期待した私はバカだ。私は恋愛になると周りが見えないらしく、奇行に走ってるらしい。マイとミミに私のイチャラブコメディを話すとドン引きされた。ちなみに全部私が悪いらしいけど。具体例は、お風呂侵入事件。

 それがやばいなら、半同棲なんてもっとまずいのかな。「好きなんだし、いいんじゃない?」という自分の心の悪魔に諭されて、私は半同棲についての思考を止めた。

「好きなんだから、仕方ないでしょ。瀬戸君の匂いまで、覚えておきたいの。だから逆にさ、自分の彼女に匂い、忘れちゃだめだよ」

 そう言って堂々と、私は彼の首元に腕を巻く。寄りかかるようにすると、彼はベッドに倒れ込んだ。

 弱いと言っても、彼はれっきとした男の子。

 私よりも、身体付きがいい。

 私が上になって、彼に覆いかぶさる。抵抗しないから、別にいいんだ、なんて勝手に判断して。

「キスでもする?」

 唇に指をつけて、あざとく聞いてみた。多分これが、一番可愛い私のポーズ。これは、私が美少女を名乗るために研究し尽くした上で身につけた数々の妙技の一つ。

「そうな」

 目をそらす彼。

 照れてるんだな。

 やっぱり、彼もしたいんだ。

 私はゆっくり、唇を合わせる。

 私達の愛を確かめるように、何度も。

「なぁ、紫苑」

 もう何回したかわかんない頃、彼が口を開いた。彼の決して広くてしっかりしてるとは言えない胸に腕を載せて、伏せた状態みたいになって話を聞く。

「何?」

「考えたんだけど、紫苑が思うほど、やっぱり焦らなくていいと思うんだ」

「どういうこと?」

「きっと紫苑は、我慢出来なくなってるんだと思う。僕も、同じだから。紫苑と一緒に、次のステップへ進みたい。でもそれは、今じゃなくていいと思うんだ。だから紫苑には悪いけど、触れ合う程度で、我慢してほしい」

 彼はそう言うけど、私は余計に、我慢出来なくなっていった。

 愛が、溢れ出てくるのがわかる。

 これほど私をわかってくれる人なんて、いない。私を理解してくれて、私のために行動してくれる人。自分を抑えて、私のために我慢してくれる人。

 あぁ、愛してる。

 私の全てを受け入れて、私の全てを愛してくれている。私を傷つけたくないから、彼が今できる最大の提案を、私にしてくれたんだ。

 彼だって、色々したいはずなのに。

 私の誘いを受けてるんだからそれはもう、私とやりたくて仕方ないと思う。

 そして何気に、嫉妬深いし。私と、同レベルで。

 だから多分、独占したいはず。私は少なくとも、独占したい。日頃から私は、彼の周りに悪い虫が近寄らないか警備してる。夜だってそう。夜警だ。レンブラント・ファン・レインの。

 それでも、私がここできっと脱ぎだしたら止まらないんだろうな、なんて思う。でもでも、彼がせっかく考えてくれたんだから、従うことにした。

「わかった。でもね、私は瀬戸君と、もっと深く、愛し合いたい。瀬戸君が私を大事にしてくれてるのは、よくわかるから。だから、待ってる。そのときをただ、待ってるから」

 彼の薄く笑う顔が私の心を抉るから、もう一度キスをした。私の感情と、彼の感情が、溶け合っていく。

 もっと、密着したい。

 時間は気づけば、23時。でも今日だけは、もっと長く、夜が続いてほしかった。

 愛してます。

 私のことを心から愛してくれる、理解してくれるあなたを、愛してます。

 末永く、私と愛し合ってください。

 死してなお、私と愛し合ってください。

 そんな感情をこめて、私はさらに、彼に溶け込んだ。

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