世界観革命

「私さ、この世界、飽きたんだよね」

夜。学校の屋上で唐突に、紫苑が言う。僕に背を向けて、月を見て。周りにいるのは夜の静けさと星の光だけで、僕と紫苑以外、生命を感じられるモノはなかった。

「何言ってんだよ」

「だから違う世界に行ってみようと思うんだよ」

「どこに行くんだよ」

そう言うと、屋上の柵を楽々とジャンプして、紫苑が乗り越えた。僕はそんな紫苑を、その場に立ち止まったまま、眺めてる。

「死んだら別の世界に、行けるかな?」

「僕を、置いていくな」

「ごめんね。瀬戸君には生きてて欲しいから、一緒に行けないや」

「約束と違うだろ!僕も連れてってくれよ!僕を一人にしないでくれ!紫苑がいないと、紫苑を失ったら僕はどうやって生きたらいいのか、わからないんだよ!」

「瀬戸君ならもう、一人で生きられるよ。それじゃ、私は先の世界へ行って待ってるから」

「行くなよ。何一人で行こうとしてるんだよ!僕も連れてけよ!」

必死で走っても、どれだけ走っても、紫苑に追いつけない。ぼんやりと薄れて見える紫苑の顔は、僕には薄く笑っているように見えた。

駄目だ。駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ!

駄目だ紫苑、行かないでくれ!

「瀬戸君なら、出来るよ!」

手をメガホンのようにして、紫苑が叫ぶ。

「さようなら」

「何言ってんだよ!行くなよ!僕も連れてってくれよ!!待ってくれよ紫苑!」


「瀬戸君こそ何言ってんのさ。ほら、行くよ」

頭の中に、紫苑の声が聞こえる。周りを見渡しても真っ暗で、紫苑なんてどこにもいない。

あ、目を閉じてるからか。

眩しい世界へ目を見開くと、呆れたような顔をする紫苑がいた。

「紫苑?」

「紫苑じゃなきゃ何に見えるのさ。南とか言ったらぶっ飛ばすよ?」

知らない天井だ……。じゃなくて、ここ、どこだよ。

「降りるよ」

「降りるって?」

「飛行機だよ、瀬戸君って案外寝ぼけるよね。前にも夜中、私の名前叫んでうなされてたよ?」

周りの状況を確認する。何が起こっているのかさっぱり不明で。1mもないところにある狭い通路。窓から見える光。その先を見ると、滑走路。あ、飛行機か。そうだ、僕は今、旅行に来てるんだった。てことは、夢か。

「もうイギリス?」

「違うって。ここはフィンランド」

あ、そうだった。いつまで寝ぼけてんだよ僕は。自分に呆れて、席を立つ。ふらついて紫苑に抱きついたけど、紫苑に支えられてなんとか歩き始める。

「紫苑の両親は?」

「もう出たよ。瀬戸君起こしてから来いって言われたから待ってたんだよ」

そう言えば昨日の夜、サメ映画の終盤に窓の外を見ながら意識が途絶えたんだっけ。もう、ついたのか。

「次、乗り換えるから行くよ!」

紫苑に手を引っ張られるがまま、荷物チェックも済ませて、飛行機を乗り継ぐ。

そしてもう一度地面に降り立ったかと思えば、英国のご登場だった。


「まずはホテルにチェックインしまーす。部屋は二人部屋で、私と瀬戸君。お父さんとお母さんが別の部屋。あ、ご飯はホテルで食べるか外で食べるか選べるからね。と言うわけで、解散!」

え。説明が雑。どこのホテルかも聞いてないし、何をどうとか聞いてない。あ、完全に自由制なのか。混乱していると、紫苑に引っ張られるがまま、僕はホテルへ向かわされた。観光プラン組んでるって言ってたし、紫苑に任せるか。

「まずは、教会に行きます!」

キングズ礼拝堂というらしく、美術品やら何やらが大量に飾られていた。キリスト様の、大きな像も。神様がもしいるなら、この紫苑といるときのよくわからない不安感を取り除いてほしかった。今、すぐに。

「祈ってないでいくよ」

と紫苑に引っ張られ、結局、願いは叶わなかったけど。祈ることも駄目なのかよ。


その後、気が早くお土産なんかを買ったり、水を大量に買ったりなんかして、ホテルに戻った。見知らぬ土地は異様に疲れて、散々寝たはずなのに僕の睡魔がまた、襲ってきた。

「瀬戸君、眠いなら先にシャワー浴びてきなよ」

「後で絶対浴びるから、先に寝かせてくれよ」

「だめ。浴びないなら私が強引に浴びさせようか?」

飛び起きて、シャワーを浴びに行く。この中途半端なシャワーがまた、目、覚めちゃうんだわ。しかも、一時的に。なんとも面倒。

シャワーを浴びながら、今日のことを思い出す。特に何もしてないけど。思ったことといえばやっぱり、街は流石、洋風で、日本と違って迷路みたいな作りになっている。イギリスが洋風じゃなかったら何が洋風なんだよ、なんて思うけど。でも、こういうどうでもいいような、フザケているようなことを感じられるのが、旅行なんだろう。

でも、もう少し、何か、何かが足りない気がした。活動が薄いような、そんな感じ。紫苑は満足しているのかもしれないけど、僕は、なんだか、足りなかった。順当に生きてるような気がして、仕方がなかった。もっと、こう、ひねくれたものが、欲しかった。

シャワーから出て、着替えをシャワー室に持ってきていないことを思い出し、適当にタオルを巻いて戻る。紫苑は携帯とにらめっこしていて、気にもしていない様子。現実って、そんな感じ。どひゃーーーみたいな展開なんて、ない。

あぁ、今、なんだかやっと、ひねくれたものを手にすることができたような気分。ひねくれた世界に、変わった気がした。





※作者が受験のため、今日は1回、更新が足りていないことをお詫びします。ご理解いただければ幸いです。申し訳ありません。

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