番外編〜白川紫苑の、何もない一日〜

 Forever together!

 Forever together!

 6時。目覚ましの音楽を止めて、白川紫苑としての一日が始まる。寝ぼけながらランニングウェアーに着替えて、靴を履いて朝日を浴びる。

 まぶしい。

 この風景を見るたび、私の未来には闇しかないんだな、なんて感じて走り出す。

 30分走って帰ってきたら、そのままシャワーに向かって特攻をかける。洗濯機にランニングウェアと下着を放り投げて、汗を流す。この瞬間が、気持ちいい。私の全ての穢れを洗い流してくれるみたいで。

 ご丁寧にシャンプー2回、ボディーソープを2回使用して完全に汗を流した後、用意していたタオルで全身を拭く。その後、下着だけ着た状態で歯を磨いたり咥えたりしながら、学校の用意をする。

 最後に鏡の前で、笑顔の調整。口角を絶妙な角度まで上げ、目の角度をうまく調整すれば、美少女としての一日の始まり。

 昨日の残りのご飯をニュース番組の情報と共に流し込み、ハンガーにシワひとつなくかかってある制服を着て、ローファーを履けば、高校生美少女としての私の完成。さっさと鍵を閉めて、彼の家まで走る。汗が出ない程度にっていうのが重要なところ。


「おはようございます!」

 ドアを開けて入ったのは教室ではなく、彼の家。そう、私の偉大なる彼氏。瀬戸君の家。

「あら〜、紫苑ちゃん。おはよう。宗次郎はまだ、降りてきてないわね」

 いつの間にか仲良くなった彼のお母さんに挨拶をして、用意されている食パンを食べる。贅沢にピーナッツジャムなんかも塗っちゃって。

「紫苑、おはよう」

 彼が起きてきた。もう制服に着替えている彼は、ちゃっかり私の横に座る。なんか、ホントに一緒に住んでるみたいで幸せ。兄妹だったら、こんなに特別な人にはならなかっんだろうな。

「白川先輩!おはようございます!」

 彼の妹ちゃん。なんだか可愛いよね、彼氏の妹って。

「おはよ!」

 そう言うと「キャー!」なんて初心な反応を毎回してくれる。


「おはようございま〜す」

 今度は教室のドア。私が一言でも声を発すると、皆が皆、私の元へ寄ってくる。シンプルにウザい。パンを持って歩いてたら大量の鳩に囲まれるのと同じ感触。

「白川さん!おはよう!」

「白川おは〜、今日何人かとボーリングいくんだけど来る?」

「白川さん!勉強教えて!今度の小テストやばい!」

「今日の黄昏時に映画鑑賞会を行うのでござるが、映画好きの白川殿一緒にいかがでござるか?」

 全部やらないし、行かない。というか、私が映画好きってどこで知ったし。彼以外に言った覚えがない。え、怖。

「しお〜ん、放課後、マカロン食べに行こー」

「行く〜」

 マイには喜んで答える。この世に平等なんてモノは存在しないから、私は平然とえこひいきなるモノをする。私の行きたい方行って、悪いとは思わないし。まぁでも、最近付き合い悪いからそろそろ多方面に行かなくちゃいけないけど。

 ➝今日はマイと帰るからごめんね

 ➝僕も須藤に遊びに誘われたから、丁度いいよ

 良かった。彼、私がいないと寂しくて死んじゃうから。須藤がいてくれるなら、まだマシ。


 授業中は大抵、寝てる。睡眠時間、足りないし。特に昼ご飯を食べた後なんて、ホントに眠い。菓子パンをマイとミミと一緒にかじりながら食べるだけで満足。それで、眠くなる。彼には「ご飯食べて眠くなるって、子供みたい」って言われたけど、元々子供っぽいし、仕方ない。美少女なんだから女子力、とか皆言うけど、女子力あったら可愛いとは思えない。そこらの人間が女子力もって、私より可愛くなると思えないし。そもそも、男の子って女子力なんて見てないと思う。結局、女の子のただの自己満。哀れだよね。少なからず、私はそう思う。別に女子力なくったって生きられるし、女子力あったからってモテるわけでもない。実際、私に女子力なんてないのにモテるし。

「白川さん、起きなさい」

 はっ!

 夢の中に入ってた。

 目をこすると同時に、机のよだれを袖で拭く。男子がこっち見てるから、多分このあと私の机に寄ってくるんだろうな、なんて覚悟しておく。私のよだれなんてレアじゃないのに。瀬戸君なんてキスしてるんだから、私のよだれなんていらないでしょ。

「板書ぐらいとってくださいね」

「すみません……」

 これぐらいしか、怒られない。人懐っこいという圧倒的美少女パワーで、私は寝てても基本、怒られない。こういうときだけ、美少女は有能。もうあと一寝入り、出来る。


「紫苑行こー」

「ちょっち待てし」

 決してキレイではない鞄の中にポイポイ教科書を入れる。あ、英語は明日も使うから入れっぱなしでいっか。

「須藤も遊びに行くなら私らと来る?」

 ナイス、マイ!

「瀬戸も連れてっていいか?」

「寧ろ来いし」

 彼がいることによって、今以上にテンションの上がる私。ミミはどこかの部活のマネージャーをやってるらしいから、不参加。私もマネージャーやってみようかな。いつか、ね。


「楽しかった?」

 マカロンを買って食べて、カラオケ行って帰ってきた私達。瀬戸君と二人で、歩いて帰ってる途中ナウ。

「楽しかったよ。久しぶりに」

 照れてる。彼は意外と私にデレデレだから、素直になれない。彼の方がよっぽど女子っぽい。

「また、遊ぼうね!」

 なんて普通の友達みたいな会話をしながら彼を見届けて、私も家に帰る。


 彼の家から10分くらい歩いて家に帰って、コンビニで買った菓子パンを夜ご飯として食べる。これで私の美少女として一日は終わり。動画を見ながら部屋でゴロゴロして、22時くらいにお風呂に入りながらアニメを見る。ドライアーで適当に髪を乾かしながらゾンビ映画を見て、23時くらいに白川紫苑としての一日が終わる。

 毎日、これの繰り返し。たまに何か、出来事が起きたりするけどだいたい、こう。我ながらつまんない生活してる。明日もつまんないんだろうな、なんて思いながら目を閉じて、深い闇に意識を沈ませていった。

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